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「……!!」

 ……霊王さまは、それ以上何も言えなかった。

 当たり前だ。記録とはいえ、当時のことを話すエルさんの表情は、真剣そのもの……とてもじゃなかったけれど、ウソをついているようには見えなかったのだ。

 エルさんはそれから、自分の説明に補足を付け加えるように話した。

「……これが〝秘王のマナ〟の影響によるものなのかどうかは定かではありませんが……いくら油断していたかもしれないとはいえ、単純に人数だけを比較しても、我々は獣人たちの四倍以上もの戦力で戦いを挑み、そして敗れました……つまり、それだけの〝何か〟が獣人たちの中にはあった、ということです。――ちなみに、嘘か真か、今となっては定かではありませんが……避難者を乗せて全力で逃げる神馬を相手に……確かに、いかに巨大な体躯を持つ神馬といえど、多くの避難者を乗せて走ればそれだけ速度も落ちます。しかし、それでも生物として神馬は最速の部類。どのような種族のものでも追いつけるわけはないのですが……信じられないことに、暴走した一部の獣人はそれに〝地を走って〟追いつき、遥か上空を駆ける神馬に対して〝ただの跳躍〟でそこまで跳び、〝蹴り落とした〟……という報告もあったそうです。無論、戦闘に恐怖を感じた者が過大にそれを伝えた可能性もありますが……」

 ふむ……霊王さまは一度目をつむり、何かを考えるようにあごに手を当てながら話した。

「……信じろ、などと言われても、とても信じることはできんような記録じゃな……しかし、記録自体はどうであれ、結果としてお前らは〝勝った〟のじゃろう? でなければ今頃人間界は滅んでいたかも分からんしな?」

「それはもちろんです。――霊王様のおっしゃるとおり、敗北を受け、このままでは人間界が滅んでしまうと判断された神王様は、神兵の上級神……つまりは兵士長時代の冥王様など、当時最強を誇る兵士たちと共に神王様自らが戦地に赴き……他にどうすることもできずに、仕方なく獣人の〝討伐〟を行ったそうです。――ただ、討伐自体は無論、成功に終わりましたが…〝秘王〟の存在すら知らない人間族の者にそれを話せば余計な混乱を招くとして、神王様は人間族に〝何も話さなかった〟のです。その結果、当然と言ってしまえばそれまでですが……獣人は〝危険〟な存在であると人間たちは思い込むことになり、獣人であるというだけで、人間たちはそれを差別するようになってしまった、と…………」


 ――申しわけありません……。


 ――その時だった。

 エルさんが突然、ボクとお姉ちゃんに向かって〝頭を下げて〟きたのだ。

 え、エルさん!? とお姉ちゃんはそれに驚いて声を上げていたけれど……エルさんはその声にも頭を上げることなく、そのまま話した。

「……理由はどうであれ、ファナさんやシーダさん。そして多くの獣人たちが差別されるようになってしまったのは、我々神族の責任です。……謝って済むような問題ではありませんが、今一度…神族を代表し、謝罪させてください。――本当に、申しわけありません……」

「う…いや、あの……わ、私たちにそんなことを言われても…ね、ねぇ? シーダ?」

「う、うん……」聞かれて、ボクはどう答えることもできずに、ただ、頷いた。――それと、ほぼ同時だった。

「――まぁ、謝りたい……謝って、互いにほんの少しでも気が楽になるのであればそれでよいではないか」

 そう呟きながらボクたちの前に歩いてきたのは…霊王さまだ。

 霊王さまはそれから、エルさんに顔を上げるように言ってから話す。

「――しかし、これだけは忘れるではないぞ、エルよ? ……真に悪いのは〝秘王〟という存在じゃ。あやつがいたからこそ、妾たち〝人〟はこのような苦難な道を歩まされることになったのじゃ。そして、お前や、ファナ、シーダ、リムル、そして我が子、エインセル……お前たち〝予言の子〟は、そんな苦難な道から人々を解放できる、〝一握りの魔法使い〟となるやもしれん存在なのじゃ。今は後ろを振り返らず、ただ前に向かって進むがよい」

「……承知、いたしました……感謝いたします。霊王様…………」

 うむ! 今一度大きく頷いてから、霊王さまは改めて言った。

「――さて、では話もまとまったことじゃし、大きく話が逸れてしまったが、改めて訓練に入ろうかの! 皆の者、しっかりと気を入れ替えてかかるのじゃぞ!」

「了解いたしました!」「オッケー!」「が…がんばるよ、シーダ!」「うん!」


 ――こうしてボクたちは〝一握りの魔法使い〟になるためのその最初の一歩を歩き始めた。


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