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「〝虐殺〟…じゃと!? 〝殺した〟のか!? 獣人が、人間を!?」

「「「……!!」」」

 ボクたちは声を発することができなかった。エルさんはその様子を見て、苦しそうに…そして悲しそうに顔をしかめながらも、ゆっくりとそれについての説明を始めた。

「……はい。確かに、そう〝なってしまった〟、という記録が残っていました。今からおよそ八百年前のことだそうです……」

「八百年前……いや、待て! 〝そうなってしまった〟、じゃと? その言い方からすると、何か〝原因となるできごと〟があったのか?」


「――〝秘王の卵〟です」


「なっ……!?」

 〝秘王の卵〟……それを聞いた瞬間、霊王さまの顔色が変わった。

 それを見て不思議に思ったのか、リムちゃんが聞いた。

「? 〝秘王の卵〟??? 〝秘王〟って、千年前に霊王さまたち〝王〟が封印したっていう、あの〝秘王〟のこと……だよね? その…〝卵〟???」

「――卵、というのはただの比喩です」

 エルさんは霊王さまにお願いして細長い白い石を借りると、霊王さまと交代して板に絵を描き始めた。

「……皆さんもすでに知ってのとおり、現在〝秘王〟は霊王様たち〝王〟が新たに造った、六つ目の世界に封印されています。――しかし、この封印はあくまでも緊急的な措置であり、当然、そんな不完全な世界では〝秘王〟を完全に封印することは不可能……つまり、実際にはこのように……目には見えないほどの無数の小さな〝穴〟が開いている状態なのです。〝秘王〟自身がここから出ることはできないようですが、それでも〝マナ〟だけなら出すことができるようで、〝秘王〟はこれを利用し、長い年月をかけて自身の〝分身〟を封印の外に造り出すことで、封印に使用している〝宝具〟を破壊し、封印からの脱出を企んでいるのです」

「なるほど……だから〝秘王の卵〟って呼ばれてるんだ。――あ、それで、エルさん? その卵と獣人が人間を襲い始めたのにはどんな繋がりがあるの? 全く関係なさそうなんだけど?」

「いえ、それがそうとも言い切れないのです。――というのも、この〝秘王の卵〟から生み出される〝分身〟は、稀にたった一種類だけ、通常の魔法とは〝似て非なる強力な魔法〟を使うことができる者がいるのです」

 例えば、とエルさんは板に書きながら続けた。

「どんなことをしても〝消えない炎〟。決して〝砕けない岩〟。治癒魔法の効かない〝毒〟。……これらは実際に出現した〝分身〟が使っていた魔法です。通常の魔法と違うところ、というのはこれらの魔法は全て、たった一種類の〝同一のマナ〟で発動している、ということです」

「たった一種類の……? え? 何で? だって魔法って、火だったら赤い〝マナ〟。水だったら青い〝マナ〟を使わなきゃダメなんでしょ? そこに霊王さまが書いてたけど……?」

 ボクは板に書かれた文字を指差しながら言ったけど、エルさんは、ふるふる、と首を横に振って答えた。

「……確かに、普通の魔法であればその〝絶対の理〟から逃れることはできません。――しかし、〝秘王〟とその〝分身〟のみが持つ、特異な〝マナ〟……〝白金〟と〝黄金〟の二つの色を合わせ持つ〝秘王のマナ〟の場合においてのみは、その理の一切が当てはまらないのです」

「当てはまらない……え? でもそれって、あたしたちが使う普通の魔法と何が違うの? 元にどんな〝マナ〟を使っていたとしても、結局魔法になっちゃえば同じなんじゃ……?」

「――では、リムルよ。お前に問題じゃ」

 と、霊王さまは指先から火を……リムちゃんが前に一度使っていた、テファイ、とかいう火の魔法だ。それを使いながら聞いた。

「お前……この火を消せと言われたら…どうやって消す?」

「え? そりゃあ……水…をかける……とか???」

 ――すごく当たり前のことなのだけれど、当たり前すぎて、逆に答えに自信がなくなってしまう……どうやらリムちゃんもそう思ったらしい。すごく自信なさそうに答えた。

 だけど、当然……

「うむ。そのとおりじゃ。このように……」

 ぴゅ――ジュッ! ……霊王さまの反対の手の指先から、水が勢いよく飛んで火を消した。つまりは大正解、ということらしい。

「……あ、あの……???」

 だからどうしたの? そう聞くに聞けなかったリムちゃんだったけれど、霊王さまは続けて問題を出した。

「では、二問目じゃ…リムル、この水がもし〝燃えて〟いたとしたら……どうやって消す? 無論、この水は油などではなく、ただの水じゃ。〝水自体が燃えて〟いたとしたら……どうやって消す?」

「え……?」

 見ると、霊王さまの指先に集まった水は、ゆらゆら、と……まるでさっきの火のようにゆらめいていた。

「その……え???」

 リムちゃんは答えられなかった。――当たり前だ。火であるのなら水をかければ消えるけど、水が燃えてしまっているのなら、水をかけても消えることはない……どころか、逆にさらに燃え上ってしまいそうだ。

 つまりはそういうことじゃ……霊王さまは指先の水を弾き飛ばしてから答えを話した。

「燃えるはずのない物が燃え、砕けるはずのものが砕けず、治せるはずのものが治せない……統一の〝マナ〟で魔法を使うということはつまり、現実では有り得ないはずのことを引き起こすことが可能となるのじゃ。……もっとも、その〝マナ〟を持たん妾たちでは、原理を解明することなど不可能に近いのじゃがな?」





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