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そのとおりじゃ。大きく頷いて霊王さまは答えた。
「これからお前たちには、魔法の使用、そしてその〝制御〟法について詳しく学んでもらうこととする。それに差し当たってまずは――
コンコンコン――その時だった。ボクたちのすぐ脇にあった扉を、誰かがノックした。
そこから聞こえてきた声は……
『――失礼します。〝予言の子〟・エルです。霊王様はこちらにおられますでしょうか?』
――そう。仕事で遅れてきたエルさんだった。
「おお! エルか! おるぞおるぞ。早ぅこい!」――そう霊王さまに言われて、はい、と返事をしたエルさんは、できるだけ静かに扉を開けて訓練場に入ってきた。
そこに、霊王さまはすぐに聞いた。
「――で、エルよ? 頼んでおいた〝例の件〟…見つかったか?」
「はい。本日になってようやく見つかりました。神王様にも確認を取りましたので、間違いはないと思われます」
「! そうか、ご苦労であったな!」
「「「???」」」
あの、とお姉ちゃんが聞いた。
「〝例の件〟って……いったい何の……?」
「ああ、それはじゃの……よし! おい、エルよ。ちょうど良い。ここは訓練の前に報告がてら話してみぃ。……無論、この子らにもなるべく分かるようにな」
「了解いたしました。では……」
こほん。エルさんは一度咳払いをしてから話した。
「――皆さん。実は私はこの一ヵ月ほど、ファナさんたち〝人間族獣人科〟について、神界にある図書室…のような場所で色々調べていたんですよ」
「私たちについて……? 何で…ですか? ――え? その前に……獣人〝か〟???」
「――科、というのは、簡単に言うと先ほどの魔法と同様、その種族に存在する〝種類〟ことを言うのじゃ」
霊王さまは再び板に書きながら説明した。
「例えば……神族の場合じゃ。同じ神族でもエルには翼があり、神王にはないじゃろう? これは二人の科が違っておって、エルは神族〝天使〟科。神王は神族〝地使〟科……というふうに分けられておるのじゃ。同じようにリムルは魔族〝悪魔〟科じゃが、魔王は魔族〝堕天使〟科……種族の種類によって色々呼び方が変わる、ということじゃな。――ああ、ちなみになぜ神界にそのような記録があるのかというと、お前たちも知ってのとおり、神族は〝秩序〟を守ることをその〝誇り〟としている種族じゃ。無論、妾たち精霊や、魔族も協力はしておるしそれを出し惜しむようなこともないが、基本的に人間界は神族が代表して見守っておるのじゃ」
「なるほど……そういう理由で、人間族の私たちの場合は、〝人間族獣人科〟…というふうになっているんですね?」
「そういうことになりますね。――それで、なぜ、私があなたたち獣人のことについて調べていたのか? についてですが……実は人間族に限り、太古の昔から種族に大きな〝偏り〟があったんですよ」
「かた…より……???」
「はい。――簡単に説明すると、人間族には人間科と獣人科。この二つの科しか存在しないのですが、生まれてくるその総数…〝確率〟があまりにも違いすぎているんです。ファナさんとシーダさんは自分たちのことなのでよく分かっているとは思いますが……具体的に言うと、獣人の子どもが生まれてくる確率は分かっているだけでもおよそ〝百万分の一〟以下……しかも生まれてくる原因も特定できないとなると、これは全種族と比べても〝異常〟です」
「そこで妾は、お前たちの〝力〟を確実に研究できるようにと、エルに頼み、人間界との交流が深い神界で少ないながらも獣人のことについて調べてもらっていた、というわけじゃ」
「そうだったんだ……」
「――ねぇ、それで結果は? どうだったの、エルさん?」
聞くと、なぜかエルさんは険しい表情になりながらも、すぐに続けた。
「はい。生まれてくる原因については特定できませんでしたが……人間たちに獣人が差別されてしまう、その〝理由〟が判明しました」
「え? 〝理由〟? それって、ボクたちの身体が普通の人とは違うから……じゃないの? ほら、この〝耳〟とか?」
ボクは帽子を取ってそれをエルさんに見せると……いいえ、とはっきりと、エルさんは首を横に振った。
「……確かに、身体の一部が通常と違う、というのは差別の大きな要因と成り得ますが、こと獣人に関しましては、それ以上の大きな〝要因〟があったのです」
「大きな…〝要因〟???」
何ですか、それ? ――お姉ちゃんが聞く前にエルさんは話した。
「――獣人たちによる、人間の大量〝虐殺〟です」




