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おまけ #4-1


 このおまけは、一~四話目を全て読み終わった後に読んでいただくことを強くお勧めいたします。





 おまけ #4,〝名前〟について。




★★★★★★★★★★


「――はいっ! というわけで改めまして、私の名前は〝デス〟と言います! 自他ともに認める〝変態〟ではありますが、〝冥王・ハーデス〟様亡き後、及ばずながらその〝二代目〟として冥界を治めております。…つまり、私の正式名は〝二代目冥王・デス〟ということになりますね! あ! もちろん罵倒してくださって構いませんよ! いえむしろジャンジャン罵ってください!」

 ――ファナたちが元いたという、馬の蹄のような大きなテーブルの周りに椅子が置かれただけの小さな部屋。

 なぜか壁中に大穴が空けられていたその部屋で、あたしはこのデスという〝変態〟に様々な説明を聞かされた。

 〝秘王〟のこと。

 〝王〟たちのこと。

 〝予言の子〟のこと。

 そして……今の、知りたくもなかった〝二代目〟のこと……なぜ、こんな〝変態〟が冥王なんてものに? と思わずには決していられなかった。

「――しっかし、驚いたな~……まさかあの子どもたちが、本物の〝王〟さまだったなんて思いもよらなかったよ。あたしてっきり、あの子たちが〝王〟さまごっこでもして遊んでいるんだとばかり……」

「……無視ですか?」

 そうだね~、とあたしの隣に座っていたファナは、この部屋に着いてようやく取ってもらったロープの跡をカユそうにこすりながら、それに頷いて答えた。

「私も…最初はちょっとだけ疑っちゃったんだ。――あ、でも、そのあとすっごい魔法を立て続けに見せられたし、何よりもエルさんみたいなすごい人が言ってるんだから絶対間違いないなと思って……それですぐに信じちゃった」

「……無視なんですね!」

 へ~、とあたしは相槌を打ち、それから身を乗り出して反対側にいた弟にも聞いてみた。

「――ねぇ、ところでシーダはどうなの? シーダも疑っちゃったりした?」

「え? ボクは……お姉ちゃんが信じるなら、ボクもそうするよ? ……〝オバケ〟だけは未だに信じられないけど……」

「〝オバケ〟??? オバケっていうと…あの?」

「うん……あのね? お姉ちゃんが、『――夜になるとオバケが出るから外に出ちゃダメ!』って言うんだけど……何回外に出ても、オバケ、ぜんっぜん出てこないんだよね~?」

「……ありがとうございます!」

 ……なるほど、弟は実際に目にしてみないと信じないタイプなのか……。

「……ファナも大変だね?」

「……そうなの。一度覚えたらいつまでも憶えてるし……だから、あんまり余計なこと言えないの……ホント、シーダにはまいっちゃうよ……」

「本当にありがとうございます!!」

 ………………あー、もうっ!

「ねぇ、〝変王〟? さっきからうるさいんだけど? てゆーかあたしたち、いつまでここにいればいいわけ? ちゃんと研究には協力してあげるって言ったんだから、そろそろ部屋に連れてってよ! あたし今日はもう疲れたから、ちょっと横になって休みたいんだけど?」

「……〝変王〟……〝変態王〟の略ですか……いいですね~!!!!!」

 ……しまった。こいつにも余計なことは言うべきじゃないな……。

 そう深く反省したあたしは、ゴホン! と大きく咳払いをしてから改めて話した。

「――で? もう一回聞くけど、結局いつまでここに座って待ってればいいの? てゆーかさっきから何を待ってるの?」

「ああ、それは――っと、ちょうどいらっしゃったようですね」

「……いらっしゃった?」

 誰が?

 そう思ってあたしは扉の方を振り向くと――瞬間、

 コンコンコン、というノックが聞こえてきた。

 と、ほぼ同時だった。

「――おお、〝エル〟か! 待っておったぞ! ノックなどどうでもよいから早ぅ入れ!」

 部屋の奥…中央の席。そこで木の杖を持ちながら(……なぜだろう? 両隣に座っている魔王と神王が身体中に包帯を巻かれているのがすごく気になる……)座っていた、自称、ではなく、本物の霊王さまが声を上げた。

 すると、ノックの主はすぐに答えた。

『はい、失礼します』

 カチャリ……ゆっくりと、なるべく静かに開かれたそこから現れたのは、

 短めの黄金色の髪に、

 純白の軽鎧。

 そして何よりその真っ白な大きな翼が特徴的な、全神族のおよそ三割ほどを占めると言われている、〝天使科〟のきれいな女の人だった。

 うわ~、と思わず見とれてしまう。そりゃそうだ。魔族〝悪魔科〟であるあたしはどう見てもきれいじゃない、こんな真っ黒い翼しか持っていないのに、その女の人はどこを見ても、きらきら、きれいに輝いているではないか。しかも、超・美人だし……なぜあたしは天使として生まれなかったのだろう? そう思わずには決していられなかった。

 これがファナの言っていた〝エル〟さんか……あたしはそれに驚愕すら覚え、何もしゃべれずにいると……エルさんはそれから、入ってきた時と同じように静かに扉を閉め、霊王さまに向かって話した。

「――大変お待たせいたしました、霊王様。〝予言の子・エル〟、只今戻りました」

「うむ。後片付け、ご苦労じゃったの。ではさっそく本題――といきたいところではあるが、ほれ。そこにおるのがリムルじゃ。あいさつをしておいてやれ」

「はい――」

 す、とエルさんがあたしの方を向いた。そのせいでなぜかあたしは、ビクン、と身体が反応してしまう。

 それを見て、エルさんはあたしを安心させようとしてか限りなく優しそうに微笑み、それからゆっくりと話した。

「――初めまして、リムルさん。私はあなたと同じ〝予言の子〟で、エルと申します。よければ、これから仲よくしてくださいね?」

「あ、は、はいっ! こちらこしょよろしくお願いします!」

 ……ちょっと、噛んでしまった……恥ずかしい。

 なぜだろう? こんなに優しそうな人なのに、本当に緊張する……もしかして、神族と魔族の仲が悪いっていうのは、このせいなのだろうか?

 ――と、あたしがそんなことを考えていた、その時だった。

「――いいですねぇ……実にすばらしい! やはり神族の女性は〝純白〟が似合いますな!」

 突然、そんなわけのわからないことを言い始めたのは、変お…じゃない。冥王だった。

 気づけば冥王はいつの間にか床に仰向けに寝そべっていて、しかもそれは〝スカート〟を履いたエルさんの〝足下〟……

 ……。

 ……何やってんの、あいつ?

「……何をしていらっしゃるのですか? 冥王様?」

 エルさんも同じことを思ったらしい。すぐに聞いた。

 ――が、冥王は何一つ、包み隠さず言い放った。

「モチロン! 〝パンツ〟を覗いています!!」

 ………………。

「……そうですか。では――」

 数秒の沈黙……その後エルさんは、徐に自身の真っ白な羽を二枚抜き、冥王の仮面の…だいたい〝目〟の辺りにそれ持ってきて合わせ、呟いた。

「――〝栄光の剣〟」


 ドス! パリーン! 「おお~う!!」


 刹那、だった。エルさんが持っていた羽は〝真っ白な剣〟へと変化し、冥王の〝両目〟に突き刺さって仮面が割れ――って! え!? それはいくら何でもやりすぎなんじゃ!!?

「――ああ、心配しなくてもだいじょうぶだよ、リムちゃん」

 と、驚くあたしを見て、ファナがそれを説明した。

「エルさんの剣はね? 刺した相手を動けなくする魔法で、刺されても傷つかないし、全然痛くもないんだって……服とかには穴が開いちゃうみたいだけど」

「あ…な、何だそうなんだ……びっくりした~」

「――あー、おい、エル? もういいだろ? さっさと座れ。話が進まなくてしょーがねー」

 はい。そう答えたエルさんは、床にはりつけにされた冥王を何のためらいもなく踏み越してあたしたちの後ろの席に座った。

 そして、それを確認した霊王さまの口からようやく本題が話された。

「――よし、ではそろったようじゃし、さっそく始めようとしようかの? 〝名前決め〟を!!」

「〝名前決め〟???」

 あたしが聞くと、うむ! と霊王さまははりきって答えた。

「そう、〝名前決め〟じゃ! ――考えてもみぃ? お前ら〝予言の子〟に備わった〝力〟にはまだエル一人にしか名前はついておらんじゃろう? それではこの先、色々と不便極まりない! だからこそ、ここはちゃんと名前を決めておこう! ということで、再び妾たちはこの場に集まったのじゃ!」

「再びって……ああ、前回はエルさんのを決めたってことね?」

「そういうことだ」

 答えたのは神王だった。

「ちなみに前回は俺が考えた〝勝利と栄光の剣〟に決まったんだが……まぁ、今回も俺がカッコイイ名前を付けてやるから安心しろ」

「何だと!?」

 それに対抗したのは魔王だった。

「今回はそうはいかねぇ! 今回こそは俺様が最強にクールな名前を付けてやるって決めてきたんだ! お前らなんかにはぜってー負けねーからな!」

「黙れガキ共」

 それを制したのは霊王さまだった。

「今回こそは……今回こそは妾がこの世で最も美しい名を付けてくれる! じゃからお前らの出る幕などないわ!」

 ……違った。やっぱり、対抗してた……。

「……ねぇ、エルさん? アレ、何なの?」

 弟が聞くと、エルさんはその様子をただ、じっ、と見つめながら答えた。

「正直、私にも分かりません……ただ、おそらくは違う世界の者同士、やはり〝勝負〟となると感情が高ぶるのではないかと……」

「……へー」

 ……。

 ……。

 ……。

 …………それから、あたしたちは何も言わず、ただ口論が繰り返されるのを見つめていた。

「――そんじゃあ、リムルを連れてきた俺様から最初に名付けてやるぜ!」

 最初は魔王からだった。

 ……何だかよくわからないけれど、ものすごくはりきっている様子だ。

 魔王はそれから、すぅぅ、と大きく息を吸い込み、テーブルの上に乗り上がって、あたしの力名、第一候補を大声で言い放った。


「行くぜ! ――サタン・ザ・メルクリ・オブ・ビューティフル・ゴージャス・クール・デビル・クラッシャー・カッコイイ・グレート・サンダー・イン・トゥ・フィニ――」


「却下じゃ!!」

 言い切る前に、霊王さまが大声を上げてそれを制止させた。

 まぁ、そりゃそうだろうな、とあたしも思ったけれど、魔王にはそれがなぜだか全くわからなかったらしい。全力で抗議した。

「何でだよ!! 超・クールでグレートな名前だろうが!」

「どこがじゃ! ダサいにもほどがあるわ!」

 うん。うん。と全員が頷いた。それを見て悔しそうに魔王は霊王さまのことを指差した。

「くそが! そんなに言うんだったらお前はもっとスゲー名前を考えてきたんだろうな! くだらねぇ名前だったら本気でキレるぞ!」

「当然じゃとも。怒れるもんなら怒ってみぃ!」

 ――バトンタッチ。今度は第二候補、霊王さまが考えた名前だ。





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