1-4 一話目終わり。
ドスッ、と突然。えんばくの男の胸に〝光る白い剣〟が突き刺さっ――
「――!? シーダ!!」
ばっ! 私は身体ですぐに弟の視界を遮った。
いったい何だというのだろうか? あの剣は…それに、今の声、どこかで……?
「あ、あがが…な、何だ、このけ、剣……身体が、動かね……」
……と、後ろからえんばくの男の声が聞こえた。
私はそれを、そろ~、と横目だけで見てみると、そこには、あれだけ太い剣が突き刺さっているのにも関わらず、血の一滴も流れ出ていない、立ったまま動けないでいるえんばくの男の姿があった。
「これって……」
ひょこ。緩めた私の腕の間から弟が顔を覗かせた、ちょうどその時だった。
ファサ――。
えんばくの男のすぐ後ろ。そこに突然舞い降りてきたのは、あの時、領主さまの館に神馬の馬車に乗ってやってきた――
「かみ……さま……?」
――そう、あのきれいな、女の神さまだった。
「大丈夫ですか、あなたたち?」
神さまは動けないでいるえんばくの男のすぐ脇を通り、私たちに歩み寄ってきてそう、優しく話した。
「怪我は……ないようですね。よかった……もうしばらくここで待っていてもらえるでしょうか? すぐに、終わらせますので……」
「え……あ…はい?」
……終わらせる??? どういうことだろうか?
私が考えるよりも早く、神さまはすぐに振り返り、えんばくの男の方を向いて何やらぶつぶつ、呪文みたいなものを唱え始めた。
「お…い……なに…して……!」
「……目標、発見。座標指定……固定化完了。これより攻撃を開始します。許可を」
えんばくの男の言葉を無視して、神さまはさらに独り言(?)を続けた。
だけど、それもほんの数秒。
「――了解」
そう神さまが言い放った瞬間、神さまはその真っ白な翼を一度手でなでてから、大きく羽ばたかせた。辺りにはその羽ばたきによって抜け落ちた羽が、キラキラと美しく舞う。
しかし、次の瞬間――その羽はえんばくの男を貫いた〝剣〟と全く同じものへと変化し、神さまの周りをぐるぐると渦を巻いて回った。
そして、
「――我が声に応えよ……〝栄光の剣〟!」
神さまがその言葉を唱えたとたん、剣の渦はピタリと止まり、しかしすぐに、ものすごい速さで空へと駆け上がり、そして四方に散って行ってしまった。
「……終わりました」
言ってからすぐに神さまはまた私たちの所に歩み寄ってきて、私の目の前でしゃがんだ。
「……これでもう町は大丈夫。少なくとも、今はこれ以上、あの炎爆を名乗る盗賊団に町を荒されることはないでしょう」
「え……あ、あの……?」
……意味がよくわからなかった。町を襲っている盗賊団はまだいっぱいいるはずなのに、だいじょうぶ、とはいったいどういうことなのだろう?
「……ああ、ごめんなさい。説明不足でしたね」
と、私が首を傾げているのを見て、神さまは説明を加えた。
「ええと……つまりはですね、今の剣は私の魔法で、後ろにいるこの盗賊の記憶を少しだけ覗かせてもらいまして、それを元に座標を指定して……」
「……???」
……何が何だかさっぱりだ。
そんな私を見て神さまはまた、ごめんなさい、と呟いた。
「私…こういうことを誰かに説明するのが苦手でして……えと、あの剣はとにかく、私の魔法の力で、他の盗賊団の所に飛んで行った……と言えば、分かりますか?」
「は……い……なんとなく?」
……そう。本当になんとなく。
「……ほんの少しだけでも、理解してもらえたのならそれで十分です」
す――と、神さまはそれから私たちに手を差し伸べて、立ち上がらせてくれた。
「あ、ありがとうございます。――って、ああ! そ、それからさっきのことも……遅くなりましたが、先ほどは危ない所を助けていただき、本当にありがとうございました! ほら、シーダちゃんとお礼言って!」
いで! …弟は私に無理やり頭を下げられたせいか、どうやら少しだけ首を捻ったらしい。ああ! ごめん! と私が慌てて謝ると、神さまはそんな私たちを見てニッコリ微笑んだ。
「ふふ、気にしないでください。……それに、実際は、本当に危なかった時には、私は何もできませんでしたし……」
「え?」
……どういうことなのだろう? 実際に危なかった時には何もできなかったって?
あの……気になった私はそれを神さまに聞いてみる。
「どういうことですか? 神さまは私たちを…助けてくれましたよね? あの炎の魔法から、それに、ナイフで襲われそうになっていた時も……」
いえ、と神さまはそれを否定した。
「ナイフ…の件は確かに私がしたことですが、炎の魔法の件に関しては……私は間に合いませんでした」
「……え?」
ですから、と神さまは続けた。
「炎の魔法があなたたちに襲いかかったあの時、私はまだ離れた所にいて、あなたたちを助けることができなかったんですよ。私がここに着いたのは、爆発が起きたそのすぐ後です」
「……???」
また、意味がわからない。だけど、とりあえず、神さまが私たちの所に着いたのは、私たちが炎の壁に包まれていた、まさにその時だったらしい。
……でも、じゃあ、それなら、いったい誰が……?
「――少し、よろしいでしょうか?」
と、そんなことを考えていると、今度は真剣な表情で、神さまは私たちの手を握ってきた。
「え? あの…えと……?」
普段見ることのない、透き通るような蒼い瞳……その真剣な瞳に圧倒された私は、思わずたじろいでしまった。
だけど、それでも神さまは構わずに続けた。
「実は…一つ。あなたたちに〝お願い〟したいことがあるんです」
「〝お願い〟……ですか???」
神さまが私たちにお願い……何だか変な気分だ。でも……いったい、神さまは私たちに何をお願いしようというのだろう? 助けてもらった以上、何でもやる覚悟ではいるけれど……それでも、子どもの私たちにできることなんて――
ぎゅ、としかし、神さまはそんな私の思いを振り払うかのように、握った手に力を込めた。
そして、その口からは、予想もしていなかった言葉が放たれた。
「――あなたたち二人に、我々の世界…〝神界〟にきていただきたいのです……!」
……。
…………。
………………。
「……へ?」
❤❤❤❤❤




