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「……!!」

 ……。

 ……ファナは、何も答えない。何も答えずに、ただ自称霊王から目を逸らした。――それが、ファナの〝答え〟だった。

「――こっちを見よ、ファナ」

 怒ったような自称霊王の口調……ファナは仕方なく、ゆっくりと自称霊王の顔を見た。

 それをしっかりと、真っ直ぐにファナの目を見つめながら自称霊王は話す。

「……どういうことなんじゃ、ファナよ? 独りでちゃんと説明…できるな?」

「……は…い…………」

 きゅっ……ファナの身体が強張ったのが遠目に見てもはっきりとわかった。

 ファナは目をあちこち動かしながら、ゆっくりと、〝真実〟を答えた。

「……その…リムルが私と同じくらいの女の子なのに、捕まってずっと牢屋の中に閉じ込められている、って聞いたから……もし、捕まっちゃったら、またその牢屋の中に入れられるのかな? って思ったら、私……」

「……それで、自分が最初に見つけたら、〝リムル〟を〝リム〟ちゃんとしてこっそり逃がしてやろう、と思ったわけじゃな? リムル自身にもそうとは気づかれんように……」

「…………うん……」

 ――ここが、ファナの限界だった。

 頷いたファナは、それから……今まで必死に我慢していたのであろう。大粒の涙を、ボロボロ、零しながら、必死に自称霊王に訴えかけた。

「ご…めん…なさい……!! ひっく…だって…わた…し……ひっく…〝リム〟ちゃんが…すっごく、いい子だったから……捕まったら、ひっく…ヒドイこと、を…されちゃうんじゃ、ないかと……思っ、て……ひっく…それじゃあ、あんまり、だと…思って……それで……!!」

「……そうか――」


 偉いぞ、ファナ。


 ――また、予想外の言葉だった。

「……え?」ファナが涙を拭いながら顔を上げると、自称霊王は満面の笑みを浮かべながら、はっきりと言い放った。

「――〝友〟を思う気持ち……それはいつの世も、どの〝世界〟でも、最も重要とされる気持ちの一つじゃ。……ファナ、よく〝友〟を護ろうとしたな。お前の判断は正しい……その気持ち、これからもずっと忘れるではないぞ?」

「…………は…い……」

 ……ファナは、ポカーン、としてしまっていた。――って、あたしも、か……。

 まさか、ファナがあたしに気づいていたとは思わなかった……いや、それ以前に、気づいていて、それでもなおあたしを逃がしてくれようと思っていただなんて……思いもよらなかったのだ。

 ……実際のことはどうであれ、今現在は〝大罪人〟として捕まっているあたしを逃がしたりなんかしたらどうなるか……そんなのファナにもちゃんとわかっていたことだろう。

 ――怒られる程度では済むはずがない……ファナはその〝恐怖〟を押し殺し……違う。今もなおそれと戦い続けながら、それでもあたしを逃がすという道を選んでくれたのだ。

 ……それなのにあたしは、ずっと自分のことばかり……一番〝バカ〟なのはあたしじゃないか。気づかれているとも知らずに……何が、ウソをついていることを知られて嫌われるのは嫌だな、だよ……これじゃあ嫌われたって当たり前じゃないか!

 ぎゅっ……あたしは、自称霊王から渡された手袋を握り締めた。そして、それからすぐに、手袋を着けてから両手の平を上に…自称霊王に向かって腕を前に突き出した。

 ――今度のは、正真正銘、〝無抵抗〟を表すサインだ……あたしはこの時、捕まることを完全に覚悟した。

 ――だけど、

「……一つだけ、お願いがあるんだけど……いい?」

「……聞こう」

 自称霊王が返事をしたのを確認してから、あたしはゆっくりと、しかしはっきりと言い放った。

「……あたしはもう、逃げるつもりはないし……どんなに痛い罰だって受ける覚悟はできてる。けれど、もし叶うのなら……ファナには罰を与えないでほしいの! 何なら、あたしがその分も受けるから! だから……!!」

「……ほう? 罰を受けたいというのか? ……まぁ、確かに、今のままではそうするしか他ないが……」

 おい、リムルよ――そう呟いてから、自称霊王はまた、今度はあたしに向かって怒ったような口調で話した。

「……お前、〝それでいい〟のか? 〝他に言うこと〟は、本当にないのじゃろうな?」

 ……〝他に言うこと〟……???

 ――はっ!

 その時だった。あたしは、〝一番重要なこと〟に、今さらながら気がついた。

 瞬間、すぐにあたしは駆け出した。――〝ファナの下へ〟向かって。

「――ファナ!」

「――は、はい!」

 先ほど泣いてしまったせいだろう。目の周りをほんのり朱色に染めたファナは、いきなりあたしが名前を呼んだことに驚いて、思わずそんなふうに返事をした。

 あたしはそれに構わず、そのままファナに正面から抱きついて、すぐに言った。


「――〝ありがとう〟、ファナ……あたしを、〝護って〟くれて……」


「……〝リム〟……ちゃん……?」

 ふふ……みんなにバレても、〝リム〟ちゃんのままか……ファナは本当に優しいな……。

 ……じゃあ、そんなファナに涙なんか見せるわけにはいかないな……だって、そんなを見せたら、ファナにますます心配をかけちゃうかも、しれないから……。

 そう思ったあたしは、笑った。とにかく今のあたしにできるめいいっぱいの笑顔を作って見せ、ファナから離れた。

 そして、再び自称霊王に向かって腕を伸ばし、言う。

「……言い終わったよ。これでもう、本当にあたしには何も言うことはない……さ、捕まえて」

「……そうか、では――」


 ――ぎゅっ。






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