4-14
「……!!」
……。
……ファナは、何も答えない。何も答えずに、ただ自称霊王から目を逸らした。――それが、ファナの〝答え〟だった。
「――こっちを見よ、ファナ」
怒ったような自称霊王の口調……ファナは仕方なく、ゆっくりと自称霊王の顔を見た。
それをしっかりと、真っ直ぐにファナの目を見つめながら自称霊王は話す。
「……どういうことなんじゃ、ファナよ? 独りでちゃんと説明…できるな?」
「……は…い…………」
きゅっ……ファナの身体が強張ったのが遠目に見てもはっきりとわかった。
ファナは目をあちこち動かしながら、ゆっくりと、〝真実〟を答えた。
「……その…リムルが私と同じくらいの女の子なのに、捕まってずっと牢屋の中に閉じ込められている、って聞いたから……もし、捕まっちゃったら、またその牢屋の中に入れられるのかな? って思ったら、私……」
「……それで、自分が最初に見つけたら、〝リムル〟を〝リム〟ちゃんとしてこっそり逃がしてやろう、と思ったわけじゃな? リムル自身にもそうとは気づかれんように……」
「…………うん……」
――ここが、ファナの限界だった。
頷いたファナは、それから……今まで必死に我慢していたのであろう。大粒の涙を、ボロボロ、零しながら、必死に自称霊王に訴えかけた。
「ご…めん…なさい……!! ひっく…だって…わた…し……ひっく…〝リム〟ちゃんが…すっごく、いい子だったから……捕まったら、ひっく…ヒドイこと、を…されちゃうんじゃ、ないかと……思っ、て……ひっく…それじゃあ、あんまり、だと…思って……それで……!!」
「……そうか――」
偉いぞ、ファナ。
――また、予想外の言葉だった。
「……え?」ファナが涙を拭いながら顔を上げると、自称霊王は満面の笑みを浮かべながら、はっきりと言い放った。
「――〝友〟を思う気持ち……それはいつの世も、どの〝世界〟でも、最も重要とされる気持ちの一つじゃ。……ファナ、よく〝友〟を護ろうとしたな。お前の判断は正しい……その気持ち、これからもずっと忘れるではないぞ?」
「…………は…い……」
……ファナは、ポカーン、としてしまっていた。――って、あたしも、か……。
まさか、ファナがあたしに気づいていたとは思わなかった……いや、それ以前に、気づいていて、それでもなおあたしを逃がしてくれようと思っていただなんて……思いもよらなかったのだ。
……実際のことはどうであれ、今現在は〝大罪人〟として捕まっているあたしを逃がしたりなんかしたらどうなるか……そんなのファナにもちゃんとわかっていたことだろう。
――怒られる程度では済むはずがない……ファナはその〝恐怖〟を押し殺し……違う。今もなおそれと戦い続けながら、それでもあたしを逃がすという道を選んでくれたのだ。
……それなのにあたしは、ずっと自分のことばかり……一番〝バカ〟なのはあたしじゃないか。気づかれているとも知らずに……何が、ウソをついていることを知られて嫌われるのは嫌だな、だよ……これじゃあ嫌われたって当たり前じゃないか!
ぎゅっ……あたしは、自称霊王から渡された手袋を握り締めた。そして、それからすぐに、手袋を着けてから両手の平を上に…自称霊王に向かって腕を前に突き出した。
――今度のは、正真正銘、〝無抵抗〟を表すサインだ……あたしはこの時、捕まることを完全に覚悟した。
――だけど、
「……一つだけ、お願いがあるんだけど……いい?」
「……聞こう」
自称霊王が返事をしたのを確認してから、あたしはゆっくりと、しかしはっきりと言い放った。
「……あたしはもう、逃げるつもりはないし……どんなに痛い罰だって受ける覚悟はできてる。けれど、もし叶うのなら……ファナには罰を与えないでほしいの! 何なら、あたしがその分も受けるから! だから……!!」
「……ほう? 罰を受けたいというのか? ……まぁ、確かに、今のままではそうするしか他ないが……」
おい、リムルよ――そう呟いてから、自称霊王はまた、今度はあたしに向かって怒ったような口調で話した。
「……お前、〝それでいい〟のか? 〝他に言うこと〟は、本当にないのじゃろうな?」
……〝他に言うこと〟……???
――はっ!
その時だった。あたしは、〝一番重要なこと〟に、今さらながら気がついた。
瞬間、すぐにあたしは駆け出した。――〝ファナの下へ〟向かって。
「――ファナ!」
「――は、はい!」
先ほど泣いてしまったせいだろう。目の周りをほんのり朱色に染めたファナは、いきなりあたしが名前を呼んだことに驚いて、思わずそんなふうに返事をした。
あたしはそれに構わず、そのままファナに正面から抱きついて、すぐに言った。
「――〝ありがとう〟、ファナ……あたしを、〝護って〟くれて……」
「……〝リム〟……ちゃん……?」
ふふ……みんなにバレても、〝リム〟ちゃんのままか……ファナは本当に優しいな……。
……じゃあ、そんなファナに涙なんか見せるわけにはいかないな……だって、そんなを見せたら、ファナにますます心配をかけちゃうかも、しれないから……。
そう思ったあたしは、笑った。とにかく今のあたしにできるめいいっぱいの笑顔を作って見せ、ファナから離れた。
そして、再び自称霊王に向かって腕を伸ばし、言う。
「……言い終わったよ。これでもう、本当にあたしには何も言うことはない……さ、捕まえて」
「……そうか、では――」
――ぎゅっ。




