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「――止めろと言ってるじゃろうが!! この〝変態〟が!!!!!」


 ズッドォオオオオ!!!!! 「あふーん!!!!!」


 ――その時だった。

 自称霊王がそう叫ぶと同時に、地面と天井。その両方から飛び出してきたのは〝切り株〟だった。

 無論、いきなり〝切り株〟がそんなところから飛び出してくるわけはない。これはそういう魔法だ。――魔法で作られた〝切り株〟はちょうど〝変態〟を挟み込むようにして激突し、そのあまりにも強烈な衝撃によってさすがの〝変態〟も思わずあたしから手を離し、悶絶してしまっていた。

 ああ! イイ! すごくイイ! ……と、なぜだか嬉しそうに…………。

 それを確認した自称霊王は、はぁー……と深いため息をつき、それから〝あたし〟に向かって話しかけてくる。

「……すまんの、〝リムル〟。デスはこういうやつなのじゃ。気にするな、と言っても無理じゃろうが、まぁ……なるべく気にしないようにしてくれ。――あと、ほれ。そのままじゃ色々と危険じゃろう? 〝これ〟を手にはめよ」

「え? これって……おっと!」

 ぽい、と自称霊王が投げてきた物をあたしは慌ててキャッチしてみると……それはものすごく上質で頑丈な、黒い〝皮の手袋〟だった。

 自称霊王はそれを指差しながら続けた。

「――精霊界でもっとも高価とされる、黒い〝ユニコーン〟の毛皮で作った手袋じゃ。そこらにある安物の刃物程度では切ったところで傷一つつかんシロモノじゃし、当然〝マナ〟も含まれてはおらんから、安心してつけるとよい。……ああ、もちろん代金は妾が持ってやる」

「え……あ、あの……」

「……ん? どうした? ――ああ、〝臭い〟か? だったらそれも安心するがよい。その毛皮は、毛皮独特のあの嫌な臭いがしないことで有名なんじゃ。放熱性もあってムレにくいしの。だから早うつけてみぃ、〝リムル〟よ?」

 ……やっぱりだ。この人……他の自称〝王〟たちとは全然違う! あたしのことを最初から〝リムル〟だと思って……ううん。まるで最初から〝知っていた〟かのように、当然であるがごとく話してくる。……これではいくらそれっぽい理由を並び立てようとも、言い逃れることはできはしないだろう。

 ――だけど、それを知ってか知らずか、慌てた様子でファナとシーダはあたしたちの方に走り寄ってきて、大声を上げた。

「――違いますよ、霊王さま!」

「その子は〝リム〟ちゃんだよ! 〝リムル〟じゃないよ!」

「――〝知っておる〟わ。そんなの」

「「「――えっ!?」」」

 予想外のその答えに、あたしたちは全員呆気に取られてしまった。

 〝知っている〟? ……確かにあたしはさっき、〝知っていた〟かのように、とは思いはしたけれど、それはただの例え話……本当に〝知っている〟とは思いもしなかったのだ。いったい、これはどういうことなのだろう?

 しかし、それはあたしたちが聞く前に、自称霊王自身が先んじて答えた。

 ――だけど、それもまた、予想外の一つだった。

「……よいか、お前たち? これから妾はお前たち全員に向けてことの成り行きを説明してやるが、〝あえて〟とここで言っておこう。妾は〝あえて〟、〝ファナだけに〟向かって話す。それゆえに、シーダとリムルは譬え疑問を感じても、一切口を挟むでない」

「え……私…だけ???」

 ……どうして、ファナだけに???

 わからないことだらけだ。だけど、あたしたちにはもはや、それを黙って聞くという手段でしか知る方法はない。必然的にあたしたちは、無言、という行動を取らされることになってしまった。

 それを確認した自称霊王は、よし、と一度頷いてから、改めて話し始めた。

「……実はの、ファナよ……妾は最初から、〝見て〟おったのじゃ。お前たちが妾のいる部屋を出てから、ずっと、な」

「〝見て〟た? ……って、え? それってどういうことなんですか?」

「うむ。それは……まぁ、実際に見せた方が話は早いじゃろう。――よいか、そこを動くでないぞ?」

 そう一言置いた自称霊王は、それから二~三歩ファナたちの方に近づき、ゆっくりと手を伸ばした。――すると、

「――あ! 〝消えた〟!」

 そう。〝消えた〟のだ。ファナたちに向かって伸ばした、その腕だけが。

 ――そうか! あたしはすぐに理解した。つまり、今の自称霊王は……。

「――どうじゃ? 分かったか? お前らの〝魔法無効化の領域〟に入ったとたん、妾の身体はこのように消えてしまう……つまり、今の妾の身体は……」

「……本物じゃ…ない……!」

 正解じゃ。そう言って腕を引っ込めた自称霊王は、消えた腕を瞬時に再生させて話を続けた。

「この姿はの、魔法によって作り出された、所謂〝分身〟というやつなのじゃ。――分身と本体は常に繋がっていて、分身は何をされても平気じゃし、どんな状況にあっても自由に動くことができるが…逆に、近くにいる誰かから〝マナ〟を供給されない限り、そこにいるだけしかできん。〝召喚〟という魔法はつまり、これの応用ということじゃな? ――っと、話が少しそれてしもうたな……つまりは、じゃ。妾はこの魔法を使い、気づかれんようにずっと、遠くからお前たちの後を追って〝見て〟いたのじゃ」

「なるほど……だから、リムちゃんのことも知っていたんですね?」

「うむ。そういうことじゃ……」

 ただ、とさらに自称霊王は続ける。

「その前に…部屋を出る前に、妾は〝もう一つだけ〟、お前に対して魔法を使っておるのじゃ」

「え? それって……どういうことですか? いったい何の魔法を私に……」

「――〝心の中を読む〟魔法じゃ」

 ビクン! それを聞いたとたん、ファナの身体が突然跳ね上がった。

 なぜ? ……あたしは考えたけれど、〝心を読む〟という魔法でそんな反応するということは、もはや、一つだけしか考えられなかった。

 ――まさか、ファナ……!!

 自称霊王はその反応を確認してから、すぐに言い放った。


「――お前、〝知って〟おったな? リムちゃんとやらが、〝リムル〟だということを……!」






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