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 ――しかし、〝リムル(あたし)〟が目の前にいるのに誰一人としてそれに気づかないだなんて……言っては悪いかもしれないけれど、ここにいる人たちって実はみんな〝バカ〟なんじゃないの?

 ――帰り道を探し中の廊下。

 あたしはファナと手を繋ぎ、札が貼られていない、そのまま開け放たれていた部屋を一つ一つ確認しながら回っている最中、ずっとそのことを考えていた。

 ファナやシーダがわからないのは……まぁ、確かに少々おバカのせいかもしれないけれど、良く言えばそれは二人の、人を簡単に疑ったりしない、純真そのもののとても優しい性格のせいだ。将来的にちょっとはそれを直していかなければならないとは思うけれど……今気づけないのはもはや、仕方がない、と言ってもいいことだろう。責めるよりもむしろ褒めてあげるべきだとあたしは思う。

 ……が、残りの二人……あいつらは論外だ。

 あたしがちょっとした魔法を使えるというだけで疑うことを止め、ひねくれ曲がった根性で自分が迷子なのを隠そうとした自称神王はもちろん、それよりもさらに最悪なのはあの自称魔王の方だ。

 何で、自分で連れてきておいてあたしがわかんないの? 俺様はすごいだとか、あたしの力を友だちに自慢するだとか、そんなことを言う前にもっと他に学ぶべきことがあるんじゃないの? ホント、ろくでもない!

 バカ! バーカ!

 そう、あたしが心の中であいつらを罵っていた、その時だった。

「――あれ? 何かここ……見たことがあるような……???」

 突然、ファナがそんなことを言い始めたのだ。

「ホント? お姉ちゃん? ボクは全然覚えてないけど……」

「……うん! 確かに見たことある! ここ、絶対通ったことがあるよ!」

「! よかったじゃん! これで――」

 ――はっ!

 これでやっと帰れるね? そう言いかけて、あたしは慌てて口を閉じた。

 ……そう、これでファナたちはやっと、元の部屋に戻ることができるのだ。

 ――だけど、その時あたしは……どうなるのだろう?

 もしかしたら、そこで待っている、霊王っていう、自称魔王の友だちだろう子にも、あたしの正体は気づかれないかもしれない。だけど……どんなに否定したとしても、いずれはバレてしまう……外では大勢の大人たちが目を光らせているっていう話だし、あたしが捕まるのはまさに、時間の問題ってやつだったのだ。

 ……捕まってしまうのは、もう仕方がない。これだけ逃げたんだ。多少の痛いお仕置きは覚悟しなければならないだろう。

 ……でも、それ以上にあたしが不安に思うのは…………

「――あっち? お姉ちゃん?」

「――うん、絶対そう! 間違いないよ! 早く行こ!」

 たっ! ――突如、ファナたちは駆け出した。その反動であたしは思わず握っていたファナの手を離してしまう。

「あ――待ってシーダ! リムちゃんが……って、どうしたのリムちゃん? そんなに暗い顔して?」

「……え? あ……ご、ごめんね。ちょっと考えごとしてて……すぐ行くよ」

 ……そう、せっかくできた、二人の〝初めての友だち〟……この子たちは、あたしが本当は〝リムル〟なんだということに気づいたら、いったいどんな反応をするのだろう?

 ……ウソをついていた。それは紛れもない事実だ。そのことからもしかしたら、嫌われてしまう……のだろうか? ……それは嫌だな…………。

 はふぅ……あたしは一度大きくため息をついて、それから、パンパン、と自分の顔を叩いた。

 ――ダメダメ! そんな弱気になっちゃ! ここまできたらもう、なるようにしかならないんだ。たとえどんな結果になろうとも、後悔だけはしないようにしないと……!

 よし! 気合を入れたあたしはすぐに前に向き直り、ファナたちの方を見た。

 ――と、なぜか目の前には、〝真っ黒なカーテン〟が……。

 ……ああ、そっか。ファナたちと離れちゃったから、今のあたしにはかけられた魔法によって幻が見えてしまうんだった。

 まったく、厄介な魔法だな……。

 そんなことを思いながら、あたしは急いでファナたちの下へ――


 ぽふん。


 ……ぽふん? え? あれ???

 ……歩き始めてからほんの一~二秒。気がつけばなぜか、あたしの視界は真っ黒になってしまっていた。

 ――いや、それどころではない。ファナたちがいる方に向かい、ただの幻であるカーテンを通り抜けようとしたあたしの身体は、そこから一歩たりとも……そう、全く、これっぽっちも、〝進めなく〟なってしまっていたのだ。

 ……あれ? おかしいな? こんな通路の真ん中に、柱か何かなんて…あったっけ?

 あたしは手を離す前の記憶を辿ってみたけれど……ダメだ。色々と考えていたせいで全く記憶にない。

 ……まぁ、いいや。通れないのなら回り込めばいいだけだし――

「――あ、あの…リム、ちゃん……?」

 ――と、ファナが何やら小声で話しかけてきた。

「ああ、ごめん。すぐ行くから」

 あたしはすぐにそう答えたけれど、ファナは……

「いや、あの……そうじゃなくて、ま、〝前〟、〝前〟」

 〝前〟? 今のあたしには黒いカーテンしか見えていない状態なんだけど……本当は何か変な物でも置いてあるんだろうか?

 気になったあたしは、無駄とは知りつつも、後ろに下がってそのカーテンの全体図を眺――

 ――その時だった。

 あたしが頭上を見上げた――瞬間。突然、カーテンの上にあった〝白い仮面〟があたしの眼前に迫って…………

 ……え?





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