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キャー! という悲鳴もそのままに、落ちる落ちる。どこまでも……このまま冥界にでも直行するんじゃないだろうか? そんな勢いである。
――だけど、そんなことは現実的に有り得なかった。
やがて真っ暗になった視界の中、ズデデンッ!! 「「いたあっっ!?」」という声が立て続けに聞こえてきた。
さらにそこに、ズデーン! と続けてあたしが不時着する。
「いたたたた……ごめんね、ファナ、シーダ? すぐどくから……」
「…う、ううん。そんなことより、ありがとリムちゃん。おかげで助かったよ」
よっこいしょ……あたしはファナたちの上から起き上がり、立ち上がって辺りを見回してみたけれど……やっぱり真っ暗だ。何一つ見えやしない。
「落ちてきた穴もいつの間にかふさがっちゃってるし……おーい! 魔王いる~?」
いる~? いる~ ぃる~ る~ ~ ……。
……何も聞こえてはこなかった。しかし、これだけ音が反響するってことは、ここは相当に大きな空間であることには間違いない。
……あの穴のサイズからして、どう考えても自称魔王も同じこの空間に落ちたはずなんだけど……何も聞こえてこないってことは、あの穴は奥と手前で別々の場所に行くようになっていたのか……それとも落ちてそのまま気絶したか、あるいは死んだか……。
――まぁ、いずれにせよ、だ。
「ファナ、シーダ。ちょっとそこから動かないでね?」
あたしはそう二人に声をかけてから、ほんの三~四歩進み、ファナたちの方に振り返ってから魔法を唱えた。
「――火よ灯れ! 〝テファイ〟!」
ぽぅ……あたしの指先からロウソクほどの小さな火が灯った。それにより、ようやく薄ぼんやりと、あたしたちはお互いの顔を確かめることができた。
すると、すぐにファナから声が上がる。
「あ! リムちゃん魔法使えたんだ!」
「うん。まぁね? ……と言っても、このとおり。こんな小さな火くらいしか出せないんだ。しかもこれ以上大きくもできなければ、小さくもできない……ごめんね、頼りなくて?」
「そんなことないよ! だってリムちゃんのおかげでこうやって見えるようになったわけなんだし、リムちゃんは十分頼れるよ! ホント、〝救世主〟さまって感じ!」
……う~ん…こんなちっぽけな魔法でそこまでベタ褒めされると、逆にテレちゃうな……とはいえ、褒められているんだからここは素直に喜んでも…いいよね?
――って、今はそれどころじゃない。
あたしは火の灯った指をあちこちに向けてみたけれど……ダメだ。やっぱりこの程度の明るさじゃ何も見えやしない。出口を探すには、壁とか、とにかく突き当りを見つけてそれに沿って歩くしかないな。
そう思ったあたしは、ファナたちに指示を送った。
「ファナ、シーダ。なんか魔王も見当たらないみたいだし、とにかくここから何とかして出よ? あたしのこの魔法だっていつまで持つかわかんないし……」
「あ、うん。そうだね……でも、どうするの?」
「とりあえずあたしについてきて。壁まで行けたら、そこに沿って歩けばいずれは出口のドアまで行けるはずだから」
「あ、なるほど……うん、わかったよ。――ほら、行くよシーダ?」
「うん!」
――よし。
二人が承諾したのを確認してから、あたしはゆっくりと歩を進め始めた。――無論、その間もなるべく、安心させるために、という意味でと、見えづらい足場の危険を回避するために、という意味であたしは二人に向かって話しかけ続けた。
「――ちょっと不安かもしれないけど、あたしにあんまり近寄りすぎないでね? ファナたちの魔法の中に入ったらあたしの魔法消えちゃうから……あ、ここ何か落ちてるよ? 気をつけてね。あと……あ、ここにも何か落ちてる。大きいな……つまずくといけないから、少しこっちに曲がるよ? ちゃんとついてきてね?」
――それから、数十秒ほどたったその時だった。
――さわ……。
真っ暗で何も見えない中。あたしの魔法では足元しか照らせなかったため、あたしは空いていた手を――力が発動して爆発してしまうといけないため、念のため手の甲を外側にして――真っ直ぐ伸ばして進んでいると、突然、何かがあたしの手に触れた。
「――! 止まって!」
そう、すぐさまあたしは叫び、続いてその触った何かを確かめるために、手をゆっくりと動かす。
わさわさわさ……。
……何だろう、これ? とりあえず、壁とかそんなのじゃないっていうのはわかるんだけれど……やたらと〝大きい〟ぞ? それに〝硬い〟感じもするし……???
「……どうしたの、リムちゃん? 何かあったの?」
なかなか指示を出さないあたしを不思議に思ったのだろう。待ちきれなくなった弟が聞いてきた。それにはあたしも、「ああ、うん。ちょっとごめんね?」とすぐに答える。
「何かわかんないけど、とにかくここにでっかいものが置いてあって……確かめるから、ちょっとだけ明かり借りるよ? 待ってて」
あたしは指を戻してそのでっかいものを照らしてみる。
――と、そこにあったのは……〝毛皮〟……???
そう思った、その時だった。
パチンッ!




