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「――さて、んじゃ昼飯も食い終わったことだし、リムル探しでも再開すっか?」

 あ、それなんですけど、魔王さま……とファナは申しわけなさそうに、そろり、と手を挙げた。

「あ? どした?」

「いえ、あの、そのぅ……じ、実は私たち、道に迷ってしまってて……」

「――何だと? お前ら〝も〟か?」

 〝も〟……?

「……え? 何? 魔王も迷子なの?」

 あたしが聞くと、失敬な! と自称魔王は怒鳴った。

「俺様はべつに迷子なんかじゃねーよ! ただちょっと、てきとーに廊下を歩いてたら、ここがどこだか分からなくなっちまっただけだ!」

 それを世間では迷子というのだけれど……まぁ、言ったところでこの自称魔王のことだ。全て無意味に終わるに違いない。

 はぁ~……半ば諦めてため息をついたあたしは、それからファナに聞いた。

「どうする、ファナ? 外に誰かがいるんなら、窓から手でも振って……って、たぶん無理か。だってこの〝視覚系〟の魔法、絶対外にまで張られてて、ある程度離れない限り外からは何も見えないはずだし……となれば、もういっそ、そこら辺中に貼ってある札をわざと壊して、誰かに迎えにきてもらう?」

 そうすれば〝リムル〟であるあたしも無事に捕まり、この脱走事件は解決するわけだし……。

「え……ううん、それはダメだよ」

 ……あたしはそう思ったのだけれど……しかし、ファナは違ったようだ。どこか不安そうな面持ちながらも、はっきりとそれを否定する。

「……だって、例えばそれで本当に私たちがお札を壊して、それで外に出たとするでしょ? そうなったら絶対、エルさんたちが、リムルが逃げた! ってなってみんなでここに集まってくるもの。そうなったら確かに私たちは元の部屋に戻れるかもかもしれないけど……その間にどこかからリムルが逃げて、みんなが私たちのところにきていたせいで捕まえられなかった。何て言われるのヤだもん。そんなんだったら、どんなに時間がかかっても自分で帰るよ」

 なんと健気な……いつかはバレることとはいえ、何だか、実はあたしが〝リムル〟です! って、どんどん言いづらくなっているような気がする……てゆーか、言ったら言ったでこの子、ショックで泣いちゃうんじゃないだろうか? ――せっかくお友達になったのに、それは嫌だなぁ……。

 ……よし、引き続きリムちゃんで行こう!

 そう決心したあたしは、とはいえ……

「う~ん……でもさ、ファナ? それなら本格的にどうするの? 自分たちで帰るって言っても、結局は誰もこの城のことを知らないんでしょ? ここはどこも似たような造りであるみたいだし、そんなんじゃこの食堂を離れた途端、部屋にたどり着くうんぬんの前にどこかの廊下で飢え死にしちゃうよ? その前に食堂に帰ってくるっていうのも、たぶんそこでまた迷っちゃって無理だろうし……」

「……む~……確かに。言われてみれば……」

「……いや、だから俺様は迷子じゃねーって。つーか俺様を置いて勝手に話を進めようとすんじゃねーよ!」

「え? じゃあ、魔王さまは何かいい考えがあるの?」

 大声を上げた自称魔王に、今度は弟が聞いた。

 すると自称魔王は、ケケケ、となぜだか得意げに笑ってから話し始めた。

「――いいか? 確かに俺様は今の時点ではここがどこだか分かってねー……しかしな、それはただ単に〝この場所〟が分からないというだけであって、実際にはちゃんと〝知ってる道〟に出れさえすれば、何ということもなく帰れるんだ」

「え? それってつまり……」

 ああ! 自称魔王ははっきりと答えた。

「つまり、俺様は迷子じゃねー! ってことだ! ――つーわけで、者共ついてこい! 俺様の進む道は〝覇者〟への道だーっ!!」

「おー!」「お…お~」「…………」

 ……ちゃんとそれに応えたのは、弟一人だけだった。

 当たり前だ。この自称魔王…いったいどこまで信用していいものか全くわかったものじゃないのだ。絶対とか確実とか言っておいて、実際にはさらに迷い込んでしまう……そういうことも十二分に有り得るだろう。

 ……しかし、とはいえ、それが本当である可能性も一応はあることだし、そして何よりも今のあたしたちには他に一切の当てがないのだ。たとえこれが覇者ではなく〝破者〟の道であったとしても、文字どおりついて行くしかもう他に道はない。

 ……はぁ~。

 不安いっぱいにため息を一つ……あたしはファナの手を握ってから話した。

「行こ、ファナ? とりあえずはあの魔王を信じるしかないよ」

「うん…そうだね。それしか方法はなさそうだし……」

 わかった。そう頷いたファナは、さっそく進み始めていた自称魔王の後を追った。

「――ところで魔王さま?」

 と、それからすぐに弟が聞いた。

「あ? どした? 便所か?」

「ううん。そうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあったんだけど……魔王さまって、ここの道がちゃんと見えてるの? なんかフレイアさんがすごい魔法かけてるんでしょ?」

 ――あ、言われてみれば、確かに……ファナやシーダには特別な力があるからこの魔法は効いてはいないけれど、そんな力が誰でもホイホイ使えるわけがない。となれば、道を憶えているわけでもない自称魔王はどうやってここの道を把握しているのだろうか?

「んだよ、そんなことか」

 ふん。自称魔王はつまらなさそうに、廊下の真ん中を歩きながら肩越しに弟の方を見て説明した。

「バカにすんなよ? 〝秘王〟戦で力を使い果たしたとはいえ、俺様は俺様…魔界の〝王〟だぜ? こんなチンケな魔法、ちょっとした〝工夫〟でどうにでもなるんだよ」

「〝くふう〟?」

「そうだ。つまりは……簡単に言うと、これは〝霧〟みたいなもんだろ? お前らは霧が出た時、それをどかせるとしたらどうやってどかす?」

「どうやって、って……う~ん……」

「――〝風〟かな?」

 ファナが答えた。

「霧って、雲の仲間みたいなものでしょ? だったら、風で、びゅー、ってやれば、飛んで行っちゃうんじゃない?」

「正解だ」





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