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4-2



 ……仕方がない。またあの暗い牢屋の中に戻るのは嫌だけれど……ここは素直に捕まろう。いつまでも逃げていて、それでお仕置きに痛いことでもされたら、それこそもっと嫌だし……。

 ――でも、とあたしは一つだけ、決心した。

 せっかく逃げ出せたんだ。このまま何もしないで捕まるのはさすがにもったいない。……空腹のせいで、ピクリ、とも動けないでいる弟もいることだし、せめてお腹いっぱいおいしいゴハンを食べてから、捕まろう!

 よーし! 考えが固まったあたしは、さっそくファナにそれとなく(?)提案した。

「ねぇ、ファナ? だったらさ、シーダもお腹ペコペコで動けない状態なんだし、とりあえずは〝食堂〟でも探しにいかない? ここはどうも訓練場っぽいし…訓練したあとはみんなお腹が空いてすぐにゴハンが食べたくなるはずだから、きっとこの近くにあると思うんだ。……元いた部屋に戻る方法はそこを見つけてから考えることにしてさ? ね?」

「え? でも……」となぜかしぶる様子を見せたファナだったけれど、しかし弟が急に復活してファナの手ごと両手を振り上げて叫んだ。

「さんせー! さんせー! だいさんせー!!」

 ――がくっ……そして、また死んだ……どうやら、今ので力を使い果たしてしまったらしい。なんと頼りない弟なんだろうか……。

 ほ、ほら……あたしは、そんな弟のことを指差しながらファナを諭した。

「シーダもこう言ってることだし、行こ? ここにいても何にも解決しないよ?」

「う……うん。そう…だね」

 ……? 本当にどうしたというのだろうか? 何かしぶる理由が……あるのだろうか?

 うんしょっ…と……とりあえずはあたしの意見に賛成したファナは、弟を、ずりずり、重そうに引きずりながら一回転し、唯一札が貼られていないこの部屋の出入り口の方を向いた。

 それを見てすぐにあたしは声をかける。

「――あ、よかったらシーダのこと、反対側から支えようか?」

「え? ……あ、ううん。い、いいの。いつものことだし……」

「……?」

 ……気のせいだろうか? さっきから様子がちょっとおかしいような……?

「そ、そんなこと言わずに」とあたしはあえて、強引に弟の手を取った。

 ――瞬間だった。

「あ…ダメッ!!」

「えっ!?!」

 ばっ! すぐにあたしは手を離した――けれど、弟はちゃんと二メートル圏内に入ったままだ。あたしもその中にいたせいで手の力は発動すらしない……なのに、いったいどうしたというのだろうか?

「ご……ごめんね? あたし……何か悪いこと……したかな……?」

「――あっ! う、ううん! ごめんね、そうじゃなくて……そのぅ……」

「……???」

 なぜか、突然ファナは顔を真っ赤にして視線を落としてしまった。

 ……何だろう? 視線の先に、何かがある…のだろうか?

 気になったあたしはファナの視線を追って行くと、それはなぜかあたしの〝身体〟に……

「――あ」

 思わず、声が漏れてしまった。なぜならあたしの身体は……ほとんど〝裸〟……まさに隠さなければならない所だけを黒い小さい布でギリギリ隠されているだけ……そんな状態だったのである。

 ――しまった。この数ヶ月……凶器などを隠せないようにするために、という理由で、それこそ枷などは付けられていたものの、牢屋の中でずっとこの格好をさせられていたものだからもう完全にこの格好に慣れきってしまっていた。……今更ながらに思えば、そんなあたしの事情を知らない人から見たら、今のあたしは〝変態〟そのものではないか。

 そう思ったあたしは「あ…あの、ええと……」と何とかそれについて弁明を図ろうとしたけれど……その前にファナが、ぽそり、と何かを呟いた。

「…………なの……?」

「……え? な、何?」

 ……よく聞こえなかった。

 だけど次の瞬間、ファナははっきりと聞いてきた。


「――魔界の人って……〝みんなそう〟……なの……?」


 ……。

 ……。

 ……。

「……え?」

 ……何が、〝みんなそう〟……なのだろうか? ひょっとして、この〝服装〟のこと……?

「だから……」

 ――と、ファナは恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながらもそれに捕捉を付け加えた。

「……だから、その〝服〟って……魔王さまも〝そう〟だったし……や、やっぱり魔界の人って、〝みんなそう〟……なの?」

 ……魔王? あの自称魔王のこと?

 ……。

「ああっ!!」

 そうだ! そうだよ! ――あたしは思い出した。

 そう、確かにあの時見た自称魔王の姿は、上半身〝裸〟の上に皮のコートだけ、という、どう見ても〝変態的〟な姿だったのだ。あれを見た後にあたしのこのキワドイ格好を見たら、そりゃあ誰でも、嫌でもこう思ってしまうことだろう。


 ――魔界の人たちは、みんな〝露出好き〟なのだと……。


「……あ~…………」

 ……どうしよう? いったい何て、説明すればいいのだろうか?

 ……。

 ……。

 ……。

 ……あたしは、考えた。

 考えて、考えて、考えまくって、そしてようやく一つの〝結論〟に行き着いた。

 それは――


「――うん♪ 魔界の人は、みんな〝こう〟なんだ☆」


 ――〝復讐〟! 実際には全然普通の服装なんだけれど、今まであたしを散々悪者扱いした罰だ。ここはもう、たとえあたし自身も〝露出狂〟だと思われても構わない! ファナをきっかけに、いずれ人間族全員には、魔族=〝露出狂〟だと思ってもらうこととしよう!

 ……あ! あたし今、〝悪魔〟っぽい! ――そんなことを思っていると、ファナはさらに恥ずかしそうに顔を赤らめ、呟いた。

「……そう……なんだ……ま、まぁ…〝文化の違い〟っていうのもあるし、私は何も言わないけど……絶対に、シーダを連れて魔界に〝だけ〟は行かないようにしなくちゃ……」

 ――よしっ!!


 こうして、あたしの復讐は一歩、前進した。






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