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#4,予言の迷子。 4-1

★★★★★★★★★★


「――どう? リムちゃん……何か変わった?」

 ――先ほどまでの廊下……と思っていた場所。

 二人が手を繋いでいると、半径二メートル圏内には魔法が一切通用しない……ファナがそう説明した〝力〟を、試しに、ということであたしはその中に入ってみると、瞬間驚愕することになってしまった。

「えっ!!? ここって〝部屋の中〟だったの!?」

 ――目の前に見えたもの……それは、見上げた天井までの高さがおよそ数十メートル。壁伝いに手をついてそこを一周するのには……いったいどれくらいの時間がかかってしまうのだろう? そう思わずにはいられないほどの〝巨大な部屋〟の中だったのだ。

 よく見ればそこには人の形をした人形の姿やら、色違いの丸が何重にも描かれた大きな的。さらには剣や槍、弓矢なんかも置いてある。そのことからどうやらここは大規模な〝訓練場〟なのだな、ということはわかったのだけれど……なるほど、あたしは城の中をてきとーに進んでいたらいつの間にかここに入り込んでしまい、魔法によって造り出された存在しない道をずっと歩かされ続けていた、ということらしい。どおりで最初の頃は廊下を歩いていると誰かの話し声とかが聞こえたりして、いちいち物陰に隠れながらじゃなきゃ進めなかったのに、途中から誰にも出くわさなくなったわけだ。だって、同じ部屋の中をただひたすら、ぐるぐる、回っていたんだもの。そりゃあ誰にも会わないよ。

 ……ちなみに、見たところ、たぶん神兵の責任者か誰かがそういうふうに指示を出したのだろう。部屋の中に複数存在する窓や他の出入り口には、わざとらしく〝マナ〟を含んだ大きな魔法の札が貼ってあり、あたしが知らずにそれに触れれば、たちまち、ボンッ! という大きな音が外に漏れ出し、一発であたしの居場所がわかる……そういう仕掛けが施されていた。

 ……たぶんこれ、たとえあたしがここで手袋とかを見つけて剥がそうとしても絶対に剥がれないようにできてるし、その辺にある刃物で切っても、例えば自動的に何番の札が破壊されましたよ~的な知らせが術者のところに伝わるようにできてるんだろうな……つまり、あたしは逃げ出したその時点で窓から外に向かって飛び出さない限り、絶対にここからは逃げられない。そういう運命にあったのだ。

 ……あ~、あたしのバカ……何で最初っから外に……。

 ……。

 ……まぁ、すぎたことはもうどうしようもないか。

 そう諦めて、あたしは一度大きくため息をついてからファナに向かって話しかけた。

「……すごいね。何もかも、見えるものが全部違うよ。これじゃあ誰もここからは逃げ出せないね」

「そうなの? 私たちは部屋にいた時からずっと手を繋いでたから全然そんなふうには思わなかったんだけど、そんなにすごいんだ、この魔法?」

「うん。もう何が何だかわけがわからない感じ。……普段見えるものが見えなくなって、見えないものが見えるようになる……まさにその説明どおりだよ。まぁ…それよりすごいのは、この魔法を使ってる〝術者の人〟の方なんだけどね? だってこれだけ大きな魔法を城全体にまで行き渡らせて、おまけにあた……こほん。リムルの手にも反応しないくらいの薄さをずっと保っていられるんだもん。相当強力な魔法使いであることは間違いないね」

 あ、やっぱりわかる人にはわかるんだ~。とファナは驚いた顔になって続けた。

「そうなの。この魔法を使ってるのは、フレイアさん、っていうすっごくきれいなお姉さんで、今は神兵の〝兵士長〟をやっている人なんだって。何でも、普段は〝秘王の封印〟を護っている人なんだけど、今日はたまたま他の人とそれを代わってもらって……つまり、お休みだったからこっちに戻ってきてたんだって」

 神兵の〝兵士長〟……なるほど。神界の実質ナンバー2か……それならこの大規模な魔法にも納得だ。

「……ん? でも、そんなすごい人なら、何で最初からリムルだけを捜すような魔法を使わなかったんだろう? いちいちこんな遠回りなやり方をするより、そっちの方が全然早いはずだよね?」

「え? それは確か……あ、えっと、何かね? そういう魔法はもっと濃く(?)しなきゃ、居場所がわからないものなんだって。〝王〟さまたちくらい強い〝マナ〟…とかいうのを持ってる人たちならそれでもわかるらしいんだけど……結局リムルって、その手の〝力〟以外は普通の女の子とほとんど変わらないから無理。って言ってたよ?」

「……なるほど」

 ……なるほど、の連続だ。

 どうやら、色々な理由があって現在の形が一番ベスト、という考えに行き着いたらしい。だとしたらもはや考えるだけ無駄だな……そう思ったあたしはしかし、う~ん、と…いったいどうすればいいものなのかわからなくなってしまい、唸り声を上げてしまった。

 ――ファナたちがいなければ道もまともにわからず、進むのも戻るのも不可能。

 ――窓から飛び出そうにも魔法の札がいっぱいで触ることすらできないし、

 ――最悪気づかれるのを覚悟して、それを爆破させて飛び出して逃げ切る……うん、無理。

 ――あと残された手段といえば………………。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……何だろう? いや、てゆーか残された手段なんて、そもそも存在するのだろうか?

「……ねぇ? ところでさ、リムルのことを捜している人たちって、ファナたち以外にも…いるんだよね? その人たちはどこにいったの?」

「え? うーんとね……一応わかってるのは、元いた部屋で霊王さまが待ってるっていうことと、あとフレイアさんとエルさんが、外でたくさんの神兵さんたちといっしょにリムルが出てこないかとかを見張ってるっていうこと。それから神王さまと魔王さまがこのお城の中でリムルを捜してて、お城にいた他の神族さんたちや、〝王〟さまの召し使いさんたちは、みんな外に避難させた、って言ってたよ? つまり、今お城の中にいるのは私たちと、それから〝王〟さまたちだけ……っていうことになるのかな?」

 ……うん。やっぱり、残された手段なんてものはなかったんだ。もはや八方塞状態……そりゃあそうか。何たって〝極悪大罪人〟であるあたしを逃がしてしまったんだ。町に被害が出る前に捕まえようとするのは当たり前のこと……そんな、都合よく逃げ道なんてあるはずもないのだ。





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