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おまけ #3

 このおまけを読まれる際は、一~三話を全て読んでからか、または3-9を読み直し、内容を思い出してから読んでいただくことを強くお勧めいたします。




 おまけ #3,リムルの脱走経路。




★★★★★★★★★★


「――いいかリムル? よく聞け?」

 ――知らない場所。薄暗い部屋の中……。

 牢屋の中で棺のような箱に無理やり入れられ、そしてすぐに出されただけなのに、なぜかいきなりその場所に瞬間移動していたあたしは、驚くのとほぼ同時に、突然そう目の前にいた偉そうな態度を取る魔族の少年に、静かに耳打ちされた。

「これから俺様は、お前のその〝手〟の力を、俺様のとっておきの〝隠し玉〟として紹介する予定なんだが……聞いた話によると、どうやらあいつらもお前と同じ、〝予言〟のナンタラを連れてくるらしいんだ。……そこで、だ。俺様としてもお前のその〝手〟の力は最強だとは思うんだが、もう〝ひと押し〟だけほしいわけよ? つまりは――」

「――い、いやあの、ちょっと……!?」

 わけもわからないままとにかく話を進められ、あたしはたまらず声を上げた。

「いったい何の話をしてるの!? てゆーか、あたしに何をさせる気!?」

「しっ!! 声がデカいって……何だよ、お前。まだ看守から何も聞かされてなかったのか?」

「聞か…され……???」

「――あー、くそ。やっぱり聞いてないのかよ」

 と、あたしが首を傾げていると、少年は大きなため息を一度……それからゆっくりと、現在あたしが置かれている状況を説明し始めた。

 ――だけど、

「……いいか? 俺様が調べた情報によると、お前は〝予言〟のナンタラであるのにほぼ間違いねーっていうことが判明したんだよ。で、これも調べたんだが、エルが〝束縛〟、新しく見つかったやつらが〝消去〟。最後のやつはまだ生まれてねーから何とも言えねーが、とにかくだ。〝秘王〟を倒すためには、現時点では圧倒的に〝攻撃力〟が足りてねー状況なんだよ。そこで、その〝救世主〟であるが如く、絶対的な攻撃力を持つお前が…何かこう……そう。凶悪な〝オーラ〟っぽいものを発しながらそこに現れると……すると、どうだ? あいつらは驚きのあまり腰を抜かして俺様の前にひれ伏す……ほら、完璧な作戦だろ?」

 ――全く、意味がわからなかった……本当にいったい、この少年は何の話をしているのだろう?

 ……ああ、そっか。だから看守はあたしに何も言わなかったのか。看守にも、この少年の言っていることは全く理解できなかったんだ。

 なるほど……そう勝手に納得したあたしは、しかし、う~ん、と唸り、わからないなりにも必死にそこから単語を拾い、本当になんとな~くではあるけれど、少年が言いたいのであろうことの確認を取った。

「……えーと、つまり……誰かにあたしの〝手〟の力を見せびらかしたい……ってこと???」

「あ? ……あ~、まぁ……そんなとこっちゃそんなとこだな。正確には俺様のスゴさを改めて見せつけてやる、ってことだけど……」

「……へ、へ~……そうなんだ~……」

 ……そうらしい。

 ……なんか、これ以上の質問は無意味にさえ思えてきたけれど……とりあえず、あたしは会話を続けてみた。

「……で…で? それで、あたしはいったい何をすればいいの? てゆーか、その前にアンタは誰なの?」

「ん? ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。……だが、いいか? 今度は驚いて大声を上げるんじゃねーぞ?」

 ……驚くような名前って、いったいどんなのだろう? ものすごく長い……とかかな?

「……あー、はいはい」

 そうあたしがてきとーに答えたのを確認してから、その少年はよりいっそう小声で話し始めた。

「……実はな、俺様は魔界の〝王〟…〝魔王・サタン〟なんだよ」

 ……は???

「〝魔王〟?」

 聞くと、自称魔王を名乗る少年は、「そうそう」と頷き、話を続けた。

「さっきも説明したとおり、俺様たち〝王〟は今回、お前ら〝予言〟のナンタラのためにわざわざこんなとこに集まってきたんだ。……お前がやるべきことは他でもねぇ。この〝王〟たちを、とにかくビビらせてやることさ……!」

「……………………」

 ……ああ、なるほど。またあたしは勝手に納得した。

 どうやらこの少年は、そういう〝遊び〟をしているらしい。王だの何だのとさっきから言っているそれは、あくまでもその遊び上の設定……つまりはこの少年が言っていることには、最初からほとんど意味などなかったのである。

 一つだけ気になることがあるとすれば、なぜ〝極悪大罪人〟(と勝手に)呼ばれているあたしのことをわざわざ連れ出し、そんなことをしているのか? ということだけれど……まぁ、その辺はアレだ。この少年は魔界の貴族かなんかの偉い家の子で、日常的にほとんどのわがままが許されているのだろう。それがたとえ、あたしのような〝大罪人〟を使った遊びであったとしても、拘束具が付けられている以上は安全……そう、大人たちに判断されたに違いない。

 やれやれ、なるほど。そういうことか……あたしが今回やるべきことは、どうやらこの少年のお守であるらしい。――それをやったところであたしには何の利益もないけれど、やらなければ逆に、後々痛い思いをさせられそうだ。

 そう思ったあたしは仕方なく、てきとー、ではなく、なるべく適当に、その少年の話に合わせた。

「――そうですか。それは大変失礼いたしました、魔王さま……ではわたくしめの役目は、その他の王さまたちをびっくりさせてやることなんですね? がんばりますよ~」

 おお! 喜んだ自称魔王は、それからなるべく声を殺して笑った。

「ケケケ……そうこなくっちゃな。じゃあさっそく……」


 ――ガチャン。


 ――その時だった。

 自称魔王を名乗る少年は突然、あたしの身体中に付けられていた枷を、持っていた〝カギ〟で〝外し〟始めたのだ――

「……てっ!? ちょ! ちょっと――!!?」

「んあ? どした?」

「いや! どした? じゃなくって!!」

 間の抜けた返事をする自称魔王に向かってあたしは慌てて……しかし、自然に大きくなってしまった声を何とか潜め、できるだけ自称魔王の耳元に近寄ってすぐに続けた。

「――こんなことまでしたら、もう怒られるどころじゃ済まないよ!? てゆーかそのカギどうしたの!? まさか看守から盗んできたの!?」

「失敬な。これは元々俺様のもんだ。いや、つーか魔界の物は全て俺様の物だ。……あと、俺様は魔王だぞ? 怒られるって……いったい誰に怒られるって言うんだよ?」

「大人の人たちから怒られるの! ――ほら! 外したことは誰にも言わないであげるから、早くあたしの身体に枷を付け直して!」

「え? ……いや、それはダメだ」

「何でよ!!」

 聞くと、自称魔王はまた意味不明なことを話し始めた。

「いや、何でって……そりゃあもちろん、こんだけ枷がついてたら〝危うさ〟ってもんに欠けちまうだろうが?」

「……は? 〝危うさ〟???」

 何それ? 聞く前に自称魔王は続ける。

「そうだ。……考えてもみろ? 例えばお前……頑丈な檻の中に入った獣がいたとするだろ? そいつは超強くて超凶暴なんだが、檻からは絶対に出てこられない……お前、こんな〝安全〟な獣を見て〝怖い〟と思うか? ちなみに俺様はちっともそうは思わねー……そこで、だ。たぶんそれは他の〝王〟たちにも言えることだと思って、俺様はある作戦を考え出したんだ。その名も――〝超々々ウルトラギリギリすっげー危ねー大作戦〟――お前に付けられた枷という枷をほぼ全部外しまくり、野に放たれたその凶暴な獣と檻を挟まずに向かい合う……そんな超絶スリリングな気持ちをあいつらに味あわせてやるのさ……!!」

「………………」

 ……こいつ、絶対バカだ。間違いなく、バカだ。

 そう確信を得たあたしは――瞬間閃いた。

 ――そうだ。こいつ、こんなにバカなのなら、もしかしたら……うまいことだませば、あたし……〝逃げ出せちゃう〟んじゃない?

 ……うん。やってみよう。だってあたし、何にも悪いことなんてした覚えはないんだし……大人しく捕まっている方が変、ってものだしね?

 そう考えたあたしは、それからすぐに自称魔王に言った。

「――ねぇ、魔王さま? だったらあたし、〝もっといいこと〟思いついたんだけど?」

「何? 〝もっといいこと〟、だと……???」

 うんうん。あのね? あたしは笑顔を作って続けた。

「さっき、魔王さまはあたしの枷を〝ほぼ全部〟外して、って言ったでしょ? ――そうじゃなくて、〝全部〟外しちゃわない?」

「何? 〝全部〟…だと? ……確かにそれは最強にスリリングだが、いやしかし、さすがにそれでは万が一のことがあった場合に……」

「――じゃあ、〝片腕だけ〟っていうのはどう? あの棺の中にちょっとだけ〝細工〟をして、あたしの片腕だけに枷をつけて、棺に固定しておくの。で、あとはみんなの前であたしを紹介する時に、あたしが棺からできるだけ飛び出して固定されていない方の手を振り回して暴れれば……ほら? すっごい〝危うい〟状態になるでしょ?」

「な…なるほど! それは確かに……!!」

「――決まり、だね? よし、じゃあ魔王さま。さっそく全部外してくれる? そしたらあたしが棺に細工をするから。……あ、その間、魔王さまは部屋に誰も入ってこないように見張ってて。準備ができたら呼ぶから」

「よし分かった! まかせろ!」

 そう張り切って答えた自称魔王は、あたしの枷を全部外してから部屋の入口へと向かい、扉の隙間から外を見張り始めた。

 ……よし、一丁上がり。あとは細工するフリをして、あたしの身代わりにそこら辺にある物を棺に……お? こんなところにちょうどいい大きさの〝丸太〟が……よし、じゃあこれを入れて、さらには鎖と枷も引っかけて、ついでに頭にはこの銀色の〝桶〟を……。

 ――完璧だ。あとはあたし自身が物陰に隠れて、〝鼻を摘まみながら〟自称魔王に声をかければ、自称魔王はあたしが棺に入っていると思って……。


 ――こうして、作戦どおり、あたしはまんまと逃げだすことに成功したのであった。



★★★★★★★★★★





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