3-12 三話目終わり。
「うそ!? どうし…てっ!!???」
思わず声を上げてしまった。――当たり前だ。あたしのこの〝手〟の力……それは、あたしが直接手で触ったもの中にある一定以上の〝マナ〟が含まれていた場合、今のようにあたしの身体から〝赤いマナ〟が噴出して発動し、それが相手の〝マナ〟にくっついた瞬間、その全てが〝爆薬〟となって一気に爆発する…という恐ろしい力なのだ。
その力にはあたしの意思は全く関係なく、一度発動してしまえばもはや誰にも止める術はない。現に、今の今まではそれに一切の例外はなかったのである。
そう、今の今までは……
「だ、だいじょうぶ…なの!? 何ともないの!!?」
それはすでに握られたままの手が証明していたけれど、あたしはそう聞かずにはいれなかった。
ファナはあたしの質問に首を傾げながらも、一度その手を見てから答えた。
「……あ…うん……べつに何ともないけど……というか、そもそも〝何が〟???」
「……」
……本当に、何ともないんだ…………。
それを確認したあたしは、未だ混乱したままではあったけれど、先ほどよりは冷静になった頭で今一度その繋がれている手を見つめた。
――と、すぐにそれに気がついた。とは、あたしの〝赤いマナ〟……それがいつの間にか、完全に〝消えて〟いたのである。
うそ……こんなこと、今まで一度も……。
なぜ? いくら考えても答えは見つからなかったけれど、あたしはそれでもずっと、答えを考え続けていた。
「――あ! もしかして……!!」
だけど、その時だった。ファナがまた突然、声を上げたのだ。ファナは慌ててあたしから手を離し、これもまたなぜかいきなり、ペコペコ、頭を下げて話した。
「ご…ごめんねリムちゃん……もしかしてその手に何か大切な魔法でもかかってた? だったら、本当にごめんなさい! 私、たぶんその魔法……〝消しちゃった〟……!」
「えっ!!?」
魔法を……〝消した〟!???? この子、いったい何を言って……???
「あ……あの、実は…ね?」
再び強い混乱の渦に巻き込まれていくあたしをよそに、ファナはそう、申しわけなさそうに頬をかきながら、〝消した〟というその詳細について話し始めた。
「今さっき思い出したんだけど……何かね、私たちには〝特別な力〟があるらしくて、私とシーダが手を〝繋いで〟いるとその周りの…だいたい……二メートルずつくらい……って言ってたかな? その範囲にだけ、絶対に〝魔法が効かなくなる魔法〟がはつどーするんだって」
「手を〝繋ぐ〟と、〝魔法が効かなくなる〟……〝特別な力〟???」
「う、うん。……ここにくる前に元いた部屋で霊王さまが色々試してくれたから間違いないと思うんだけど、とりあえずは私たちが手を〝繋いで〟いる限りは、どんなに強い魔法であっても私たちの魔法で〝消え〟ちゃって、何にも意味がなくなっちゃうんだって。――あ、ただし、〝消える〟って言っても実際には魔法がちゃんとはつどーしたことになってて……えーとつまり、例えば私たちに何かをぶつける魔法を使ったとするでしょ? それをたとえ私たちが途中で〝消し〟ちゃったとしても、その魔法の中では、ちゃんと私たちに当たりましたよー、ってことになるみたい。だからその……リムちゃんには本当に悪いことをしちゃったけど……魔法自体はもう一度かけ直せばちゃんと使えるみたいだから……あの…許して……ね?」
「……」
「……」
「……」
「……あ、あの……リム、ちゃん……?」
「……」
……あたしは、何も答えることができなかった。
当然だ。あたしはずっと、この〝手〟の力が生まれた時からずっと、苦しみ続けてきたのだ。
――素手で下手に知らない物に触れればそれが突然〝爆発〟し、
――それを見た周りの人たちがあたしに向かって石を投げる。
――お母さんはそれからあたしを助けようと手を伸ばすけれど、
――あたしはその〝優しい手〟にすら、触ることができない。
どんな〝手〟であろうとも、布越しにでしか、あたしに触れることはできない……そう思っていた。
それが、突然である。偶然にも出会った、この、ファナとシーダという子どもたちは、そんなあたしの〝常識〟を、一瞬にして打ち砕いたのだ。
だから、である。あたしは何も答えられなかった。
何も答えられずに、ただ、この子たちにとっては〝普通の手〟を伸ばしていたのだ。
〝初めて〟人に向かって……。
――次の瞬間だった。
伸ばしたその手につられるように、あたしの口は、自然に動いていた。
「……いいよ。許してあげる。ただし――」
――あたしと、〝友だち〟になってくれたら……ね?
「……」
……その時のファナの表情は、驚いているかのような、混乱しているかのような、そんな微妙な顔だった。
だけど、それもほんの数秒……ファナはそれから、にっこり、と満面の笑顔になって、伸ばしたあたしの手を〝握った〟。
「――うん! 喜んで!!」
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