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3-11




「〝リムル〟!?」

 思わず大声を上げてしまった。……そりゃそうだ。この予想外でいっぱいの子たちが、まさかまさかの〝追跡者〟……しかも、目標であるあたしにこれだけ接近していたのだ。ここで大声を上げなかったらもうどこで上げていいのかもわからないというものだ。

 ファナはそんな、急に大声を上げたあたしのことを不思議に思ったのか、しかし首を傾げながらも話を続けた。

「う、うん? そうだよ? 〝リムル〟っていう、〝大罪人〟の……えっとね? 魔王さまに聞いた話だと、見た目は私たちと〝同じくらいの歳〟の女の子で、髪の色は〝赤〟。ずっと牢屋に入っていたから身体は全体的に〝細く〟て、一番の特徴としては魔族特有の〝黒い翼〟と〝細長いしっぽ〟……あ、あと、頭に〝ツノ〟が生えていて……」

 ……あれ? と、そこまで語って、あたしのことを見た瞬間……ファナの首はさらに傾げられてしまった。

 ファナはその状態のまま、唇に指を当てながら聞いてきた。

「……〝同じくらいの歳〟の女の子で、髪の毛が〝赤〟で、身体が〝細く〟て、しかも背中に〝黒い翼〟も〝しっぽ〟も生えてて、おまけに頭には〝ツノ〟……えっと……あの、つかぬことをお聞きしますが……アナタのお名前は?」

「……」

 タラタラタラ……変な汗が流れてきた。

 やばい。どうしよう? まだ疑っているだけの段階とはいえ、ここまで完全に〝リムル〟とあたしの特徴は一致しているのだ(まぁ、本人だから当たり前だけど……)。いったい、これをどうやって言い逃れたらいいのだろうか?

「……あの、やっぱりアナタ……」

「ち、ちがっ…! あたしは〝リムル〟なんかじゃなくて、えーと、あの、その……あ、あたしの名前は〝リム〟……」

 ――って! おバカあたし!! いくら慌ててたからといって、何いきなり本名を名乗ろうとしてるの!? これじゃあわざわざ「捕まえてください」って言っているようなものじゃない!

「いや! そうじゃなくて、あの……!!」と、急いであたしはそれを何とか誤魔化そうとしたけれど、うまく口が動いてくれない。結局あたしはただ、バタバタ、と混乱のあまり特に何の意味もなく、横に大きく広げた腕を縦に振りまくることしかできなかった。

 そこに、「〝リム〟ぅ~???」ともはや完全に疑いの眼差しを向けていたファナは、ずずい、とさらにあたしに近づいて、顔を覗き込んできた。

 ……終わった、と思った。

 あたしにはもう、引きつった顔をどうすることもできなかったのだ。ふい、と遂には見られることに耐え切れず、思わず目を逸らしてしまう……それを見て、ファナはさらにさらに、疑いの色を強めた。

「むぅ~…………はっ!!」

 やっぱりバレた!? ――そう思った、その時だった。

「――そっか~! 〝リム〟ちゃんか~! 〝リムル〟に名前が似てたから、一瞬ちょっとだけ疑っちゃったよ~……ごめんね~?」

 ぺっかー☆ とファナは笑顔で……えっ!?!

 ――絶体絶命なピンチが一転。なぜだかは知らないけれど、突然あたしの疑いは晴れたようだった。

 いや、あの……とまた思わず墓穴を掘ってしまいそうになったけど、あたしは慌てて口を閉じた。

 ……な、何だかよくはわからないけれど、晴れたのなら晴れたでそれでよし! ここはもう、〝リム〟ちゃんとして乗り切ろう!

 そう考えたあたしは、さっそく適当な捕捉をそこに付け足した。

「そ、そうそう! あたしは〝リム〟って言うの。その……魔王さまの身の回りのお世話をするためにいっしょに魔界からきたんだけど……お城の中に入ったらなぜか迷路みたいになってて、それで迷っちゃって……」

「そうなんだ……」

 ――あ、そういえばエルさんが、とあたしの言葉を聞いてファナは何かを思い出したらしい。そのまま続けた。

「なんか、リムルを逃がさないためにお城に〝結界〟を張ったって言ってたっけ? 何でも、リムルの〝手〟でも反応しないくらいの薄い(?)魔法で、普段見えるものが見えなくなって、見えないものが見えるようになるらしいんだけど……あ、でも、私たちが〝手を繋いで〟いる限り、私たちにはその魔法は通用しないから、安心してね? とも言ってたよ?」

「……ああ、やっぱりこれはそういうことなんだ……ん? でも、通用しないって、どういうこと? 誰かと手を繋いでると魔法が発動しなくなるの?」

「え? えと……ご、ごめん。よくわかんないんだ。だって私たち、べつに魔法に詳しいわけでも何でもないし……あ、でも何なら試しに、〝手を繋いで〟みる? そうしたら何かわかるかもしれないよ?」

 す――と、その時だった。ファナが突然、空いていた右手をあたしの方に伸ばして……

 えっ……?


 ――がしっ。


 あたしの〝手〟と、ファナの手は完全に、〝繋がれて〟――

「――ッッ!!!??」

 しまった!! そう思った時にはすでに遅い。

 瞬間、あたしの身体からは〝赤いマナ〟が高速で吹き出し、握られた右手に向かって駆け上って行く。あ、と叫び声を上げる時間すらない。

 もうダメだ!! 刹那、それを悟ったあたしは、きゅっ、と強く目を閉じた。

 ――だけど、


「――ねぇ? 何かわかった? ……って、どうしたの?」


 ――聞こえてきたのは、そんな、先ほどと変わらない、あどけない声……

「えっ!?!」

 あたしはそれに驚き、ぱち、と目を開けてすぐに確認すると……そこには、あたしの〝手〟をしっかりと〝握ったまま〟の、ファナの姿があった。





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