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「――ッッ!?」

 ――やっぱり! そう思った。この迷路はやはり、あたしを逃がさないための〝罠〟だったのである。

「くそ!」

 捕まってたまるか! あたしは何にも悪いことをしてないんだ!

 その思いを一心に、この迷路の中いったいどこに逃げればいいのか? 何てのは全く見当がつかなかったけれど、あたしはおしりの痛みも忘れてとにかく全力で道が見える方向に向かって走り出し――

「――ああっ!? ちょっ! お願い! 〝おいて行かないで〟~!!」

 ……は?

 ――予想外の、一言だった。

 ……あたしは無罪とはいえ、仮にも追われている身……誰かに見つかったらそりゃあ普通、「待てー!」だの、「止まれー!」だの、そういうことを追いかけられながら言われるのは当然のことだろう。――しかし、後ろから聞こえてきたのは〝おいて行かないで~!!〟である。追いかける側のセリフとしては、それはあまりにも不自然だった。

 そのため、だ。あたしは思わず、ピタリ、と止めてはならないその足を止めてしまったのである。……これがもしあたしを捕まえるための作戦で、あたしを動揺させるためにわざとそう言ったのだとすれば……もはやあたしの完敗だ。あたしにはもう、大人しく捕まるという選択肢しか残されてはいなかったことだろう。

 ――だけど、止まったその後も、あたしの目の前に現れたのは〝予想外〟の連続だった。

「――はぁ! はぁ! よかった、止まってくれた!」

 連続の予想外……まず、最初の一つ目。

 息を切らしながら、やっとの思いであたしの所にまで走ってやってきたのは、猛々しい鎧を身に纏った兵士――などではなく、なんと二人組の、あたしと同じくらいの年齢の小さな子どもたちだったのだ。

 しかも、とこれが二番目の予想外なのだけれど、なぜかその子たちの繋いだ手には、何重にもロープが巻かれ……どころか身体にも、二人が絶対に離れられないくらいにびっしりと、たくさんのロープが巻かれていたのである。……これではもはや、どっちが追われている身なのかわかったものじゃない。

 そして、これが最後の予想外になるのだけれど……二人組の、その大きい方…たぶん、なぜかぐったりしている小さい方のお姉ちゃんなのだろう。が、瞳に涙を溜めた状態で、こう訴えかけてきた。

「――よかった~! ホントによかった~! ……あのね、実は私たち道に迷っちゃって、元の部屋に戻れなくなっちゃったの。だから…お願い! 道案内してくれない…かな?」

「……え……あ……???」

 ……もはや、言葉にならなかった。

 絶賛追われ中のあたしに道案内をせがむだなんて……いったい、この子たちは何なのだろう? まさか、この子たちもあたしと同じように捕まって、それで脱走してきたのだろうか? だとすればこの身体中に巻かれたロープも、何となく理解ができる……気がしなくもない。

「……ん? ――ああ! そっか! ごめんね!」

 ――と、あたしがそんなロープのことを見ていると、どうやらその子は何か勘違いをしてしまったらしい。慌てて自己紹介を始めた。

「私の名前はファナ。で、こっちが弟のシーダ。エルさんに連れられてここまでやってきた、〝人間〟だよ! よろしくね?」

「――え? 〝人間〟……? 連れて……こられた???」

 うん! ファナと名乗った女の子は、弟くんとは対照的に元気に続けた。

「そうだよ? 人間界にあるメイミルっていう町から、エルさんといっしょに神馬の馬車に乗ってここまできたの」

「人間界から神馬に乗って? ……っていうことは、ここは…えっと……?」

「……? ここは〝神界〟だけど……」

 ――えっ!? 突然、ファナは驚きの声を上げた。

「もしかして、アナタもここは初めて……なの!?」

「ああ……えっと……まぁ…そんなとこ、かな……?」

 ……というか、ここが〝神界〟であることも、たった今知ったところだしね?

 う~ん、そっか~……見るからに残念そうにファナは肩を落とした。

「やっと戻れると思ったのになぁ~……見てよこのシーダのこと。おなかすいたー! ってさっきまで騒いでたんだけど、遂にはこんなになっちゃったの」

「……だって……もうおなかペコペコで、動けないんだもん……」

 ……なるほど。それでそんなにぐったりしているわけか。

 あー、えーと……あたしは頬をかきながら話した。

「……な、なんか、力になれなくてごめんね? ……てゆーか、何で二人は迷ったの? わかんないところにきたんなら、そのエルっていう人とずっといっしょにいればよかったのに?」

「あ、うん……それがね? 魔王さまが連れてきた、〝リムル〟っていう女の子がどこかに逃げちゃったんだって。それで、他の王さまたちといっしょに、手分けして探すことになったんだけど……」





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