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「……な? 面倒じゃろ?」
はい……私はそう答えて、同時に、これ以上の質問は体に毒だ……そう考え、すぐに続けた。
「そ…そういうことだったんですね……わかりました。じゃあ、私の質問はこれで――」
「――おいおいおい! ちょっと待てよファナとかいうお嬢ちゃん! まだもう一個くらい聞きたいことがあんじゃねーのか? 状況的によ!」
と、その時だった。ずっと腕を組んだまま黙っていた魔王さまが、また椅子の上に上がってそう大声で言い放ったのだ。
それには当然、神王さまたちも……
「……あ? どうしたんだよ魔王? いきなり大声出して……いよいよ頭をやったか?」
「とゆーか、しゃべるのならもっと静かにしゃべればよかろう? こんな狭い部屋なんじゃ。いちいちそんな大声を上げんでも十分聞こえるわ」
うるせーな……そう呟きながらも、ビシリ! 魔王さまは私を指差して、再び声を上げる。
「――おいファナ! 例えばよ、その〝予言〟ってのがどんなのか、お前は知りたくはねーのか? お前らはそれによってこんな遠い所にまで連れてこられたんだぜ!?」
「あ……」
……確かに、魔王さまの言うとおりだ。〝予言の子〟とか何とかずっとみんなは言ってるけれど、実際その〝予言〟っていうのは、いったいどんなものだったのだろう?
「魔王さま?」と私は、頭がさらにこんがらがるのを覚悟して質問した。
「あの、じゃあその、〝予言の子〟って言ってますけど、実際にはその〝予言〟って、どういう内容だったんですか?」
「それはだな――霊王がちゃんと説明してくれる!」
「結局妾かっ!」
まったく……そうため息をついた霊王さまは、そそくさと席に座る魔王さまを横目に見つめながら、「えーとじゃな……」と、ぽりぽり、頭をかきながら説明を始めた。
「その〝予言〟というのはじゃな、精霊族の間にだけ伝わる、魔法の一種なのじゃ。――とはいえ、先ほども言ったが〝予言〟とはあくまでも不明確なもので……内容が簡単なものであるのならともかく、難しいものは的中する確率も低く、もはやそれは〝運試し〟と言っても過言ではないほどのものだったじゃ。」
ただし、と私が聞く前に霊王さまは続けた。
「いくら〝秘王の封印〟に力を使い果たし、全盛期の頃に比べれば燃えカス程度の力しかなくなってしまったとはいえ、それでも妾ほどの〝マナ〟の持ち主がそれを使ったともなれば、少しばかりは話が違ってくる。……つまりは的中の確率が格段に上がるのじゃ。――もっとも、数千回に一回当たるかどうかというところを、百回に一回当たるかどうか? くらいにしかできんのじゃがの」
「……それで、その魔法を使って出た結果が、私とシーダの力だった……っていうことなんですね?」
「ああ、まぁ…そうなんじゃが……正確には〝お前と弟〟、そして後ろにいる〝エル〟と、あと〝二人〟が妾の〝予言〟では出たのじゃ」
「えっ!? エルさんも!? ――〝予言の子〟って、私とシーダのことだけじゃなかったんですか???」
驚く私に、霊王さまは静かに答えた。
「うむ。もう一度言うが、〝お前と弟〟、それに〝エル〟とあと〝二人〟……この計〝五人〟が……当初は〝四人〟じゃと思っていたのじゃが……ともかくじゃ。それが〝秘王〟を打倒すことのできる〝鍵〟じゃと、この〝予言〟では出たのじゃ。――と言っても、それが一人の力なのか、はたまた全員での力なのか…は分からんのじゃがな? ……まぁ、これも一応、もう一度言っておくが、あくまでも〝百分の一の確率〟で、の話じゃ」
「なるほど、そうだったんですね……」
「……あのさ、霊王さま?」
――と、それを聞いていた弟が手を挙げた。
「ん? どうしたんじゃ? 何か質問か?」
「ううん。質問じゃなくて、ボク思いついたんだけど……百回に一回しか当たらないんだったら、〝百回予言〟すれば、〝絶対に当たる〟んじゃないの?」
――!!!
天才!? 親バカならぬ、お姉ちゃんバカかもしれないけど、思わずそう思ってしまった。
そうだよ! 百分の一の確率とわかっているのなら、わざわざ運に頼って当たるかどうかもわからない一回に全てをかけるよりも、〝百回予言〟すれば、何ということもなく絶対に――
「――ああ、残念じゃがそれは〝無理〟じゃ」
――え???
「え? 何で?」
私の代わりに、弟が聞いた。霊王さまはそれに優しく答える。
「よいか? お前はまだ幼いから分からんことかもしれんが、百回に一回というのはやればやるほど数が減っていくのではなく、〝一回につき〟〝百分の一〟ということなのじゃ。賽にしてみてもそうじゃろ? 賽は一度振れば数が一つ減るわけではなく、何度振っても出る数は一~六までの六種類だけ。一が何度も連続して出ることもあれば、逆になかなか出んこともままある……後で賢いお前の姉に聞いてみるといい。きっとよく教えてくれるはずじゃ」
「へ~……そうなの、お姉ちゃん?」
「え……そ、そうに決まってるじゃない! もう、シーダってばおバカさんなんだから~!」
あはははは……私は、笑った。
……ただ、笑ったその分だけ、胸の奥が痛くなってしまったことは……言うまでもない。
「――ま、そういうわけで〝予言〟はほんの数回しか使っておらん。言わずもがな、何度もやればそれだけ妾の〝マナ〟が減ってゆき、確率も落ちてしまうしの。――〝マナ〟を回復しようにも今の妾では到底不可能じゃし……〝予言の子〟とは、その結果一番まともに出たもののことなのじゃ」




