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「――うむ。では皆席についたことじゃし、改めてまずは自己紹介といこうかの?」
霊王さまは私たちが全員席に着いたのを確認してから、こほん、と一度咳払いをして、続けた。
「――まずは妾からじゃ。妾の名は、〝霊王・ナチュア〟。ナチュア・クレナディールじゃ。お前ら人間族が最もよく用いる魔法、〝召喚〟により呼び出され、手を貸している〝精霊族〟の〝王〟じゃ」
「え…〝召喚〟? 〝精霊〟?? 〝王〟さま???」
くてん、と弟の首が傾いた。どうやら、全く意味が理解できなかったらしい。……私も、だけど。
「ん? ああ……そういえば、人間界ではまだ、魔法は極一部の者しか使えんのじゃったな? ん~……とはいえ、困ったの……どう説明していいものか……?」
そう、霊王さまが困り果ててほっぺをかいた、その時だった。
「――霊王様。私が代わりに説明いたしましょうか?」
と、私たちのすぐ後ろに座っていたエルさんが手を挙げた。それには霊王さまも、「おお、それはすまんな」とすぐに身を引く。
それを確認してから、エルさんは振り向いた私たちに微笑みかけ、優しく説明してくれた。
「――〝召喚〟というのは、〝精霊界〟から魔法で呼び寄せた〝精霊族〟に〝マナ〟を……つまりは〝ゴハン〟をあげる代わりに、自分たちの仕事を手伝ってもらったり、代わりに仕事をしてもらったりする魔法のことをいいます。……嫌な記憶かもしれませんが、メイミルの町を襲った盗賊団が使っていた〝人型〟……あれがその〝召喚〟という魔法にあたります」
「あれが……〝召喚〟……」
「……はい。――あ、ですが、精霊族が盗賊団と手を組み、悪さをしていた、ということではありませんよ? 精霊とはあくまでも〝召喚〟によって呼び出され、力を貸しているだけにすぎません。大きな〝力〟を持つ精霊ならばともかく、〝人型〟など、それほど大きな力を持たない弱い精霊たちは、〝魔法の制約〟によって命令されたことには逆らえないようになっているんです。ですので、悪いのはやはり、それを使った盗賊団ということになりますね。――話が少し逸れてしまいましたが、霊王様とはそんな精霊たちをまとめる〝精霊界の王〟でして、人間界では女性の王のことを、女王、と呼ぶそうですが、こちらの世界ではそれを皆統一して、〝王〟と呼んでいます。……今回は、分かっていただけましたでしょうか?」
「――あ、はい! 今回はだいじょうぶです。ほとんど……ね、シーダ?」
聞くと弟も、うん! と元気よく答えた。
「今度のはとってもよくわかったよ。ありがとう、エルさん!」
「ふふ、どういたしまして……霊王様、このような説明でいかがでしょうか?」
「うむ、バッチリじゃ!」
そう答えた霊王さまは、続いて魔王さま(?)と呼ばれていた子の方を杖で指して話した。
「――では、神王の方は先ほど自分たちで紹介していたようじゃから飛ばすとして…次は魔王じゃ。ほれ、魔王。ちゃんと自分で自己紹介せぇ」
「あー、分かったよ。言えばいいんだろ、言えば?」
よっこいせ……言葉とは裏腹に、わざわざ椅子の上に立った魔王さま(?)は、今まで霊王さまに黙らされていた分、大声で自己紹介を始めた。
「――俺様の名は〝魔王・サタン〟! 〝魔界〟を治める〝魔族〟の〝王〟だ! ちなみにサタンってのは〝魔界の王〟の称号のことで、本名はメルクリってんだ! よろしくな!」
「あ、よろしくお願いしま――って!? 〝魔族〟!?」
魔族って、あの!? 私が声を上げると、それには神王さまが答えた。
「そう。人間界や神界にきて色々悪さをして逃げて行く、〝あの最悪〟の魔族だ。……魔族はお前ら人間の間では〝恐怖の象徴〟とされているらしいが……だったら俺たち神族と手を組んで、その象徴とやらを滅ぼしに行こうぜ? ――ああ、安心しろ。こいつは俺がぶっ殺すし、こいつ以外はほとんど雑魚だからお前らにもやれるさ」
「んだと神王!? 確かに俺様は最強で他のやつらは足元にも及ばねぇが、それでもお前ら神族ごときには――!!」
「――はいはい! もうよいではないか! まったくお前らは会う度に……あー、さて。妾たちの紹介は以上じゃ。次はお前らの……って、どうした、娘っ子?」
「……」
「……? おーい、娘っ子~」
――はっ! 呼ばれて、ようやく私は気がついた。すぐに謝る。
「ご…ごめんなさい! 何だか知らないことがいっぱいで……それに〝魔族〟って、〝お話〟の中だけの存在だと思っていたので、びっくりして、その……」
「んあ? 〝お話〟だぁ?」
とすん。席に座り直した魔王さまが聞いた。
「お話って…何だよ? おいエル? 俺様たちって人間界ではどういう存在なんだ?」
「――はい。先ほど神王様もおっしゃっておられましたが、人間界では魔族は〝恐怖の象徴〟とされております。〝召喚士〟として魔族を使役する者も多少は存在しますが…大半は古来より前者の考え方をしております。よって、この子たちの言う〝お話〟とはおそらく……悪いことをすると、悪魔がやってきてお前たちを食べちゃうぞ~……という、人間界特有の〝戒め〟というものなのではないかと……」
「……へ~。そうなのか?」
こくこく! 全力で私は首を縦に振った。
どうしてだろう? 私、ちゃんと良い子にしてたはずなのに……魔族って聞いただけで、なぜか緊張しちゃうんだよね……。
ふ~ん。と魔王さまはさほど興味もなさそうに、しかし納得して話した。
「……まぁ、確かに、魔族の中には力を貸す代わりに、〝体の一部〟をよこせ、って言うやつも結構いるからな~。なんか、それをいっぱい集めたやつがすごいとか何とかで……」
「……どーでもいいけどよ? そろそろ話を進めようぜ? ――おい、エル? そいつらの名前は……えーと……何て言ったっけ?」
「――はい。こちらのお姉さんの方がファナさん。弟の方がシーダさんです。室内でも帽子を外さない理由は、二人が人間族の中でも奇なる種とされる、〝獣人〟だからです」
「〝獣人〟じゃと? ……ああ、人間共の中で差別されているとかいう、あの?」
「はい。その〝獣人〟です。……実際にこの子たちも、今まで貧しい暮らしを強いられてきた身にあります」
「なるほどの……他の種族のことじゃ。妾がとやかく言うことではないのかもしれんが……少しばかり容姿が異なるだけで、人間は何をそんなに……」
「……おい。だからそろそろ……」
「あー、分かっておるって。そう急かすな」
やれやれ、そう呟いて、霊王さまはまた、こほん、と一度咳払いをしてから話し始めた。
「――さて、これで全員の自己紹介が終わったわけじゃし、そろそろ本題の、なぜお前たちがここに連れてこられたのか、その理由について話したいと思うのじゃが……」
「え? 理由って……私たちの〝不思議な力〟を研究するためなんじゃ……ないんですか?」
思わずそう聞いてしまった私に、霊王さまは「まぁ、それもあるがの」と一言置いてから続けた。
「実は、それ以外にも……いや、むしろこちらの方が〝本命〟と言わざるを得ない理由が、妾たちにはあるのじゃ」
「……ほん…めい……???」
ああ、霊王さまは頷いた。それから、何もない天井を仰ぎながら、ゆっくりと語り始めた。
「――あれは、今から〝千年〟も前の話じゃ……」
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