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3-2




 なでなで……霊王さまはそのお腹をなでながら、お姉ちゃんの質問に答えた。

「いかにも。妾の腹にはお前の想像どおり、〝子〟が入っておる。ちなみに妾の年齢は……まぁ、実年齢はともかくとして、肉体的な年齢をお前たち人間に換算すると……そうじゃな…だいたい〝十三歳〟といったところかの?」

「じゅうさ……!! やっぱり私と同じじゃないですか! それなのに何でもうお腹に子どもが!?」

「……? 何を言うとる? お前ら人間の女とて、皆十五~六にはツガイを見つけ、もう子を宿しておるではないか。たかだか二~三歳の違いじゃ。べつに、それほど驚くようなことでもなかろう?」

「それは! ……そうですけど…でも! 二歳も違えば全然違いますよ!」

「……ねぇ、お姉ちゃん?」

 遂に我慢ができなくなってしまったボクは、お姉ちゃんの服を引っ張って聞いた。

「何でそんなに驚いてるの? 霊王さまのお腹には赤ちゃんが入ってるだけなんでしょ? そんなのメイミルの町にもいっぱいいたよ?」

「いや、いたけど! そうじゃなくて……だってまだ十三歳だし、その…いくら何でも色々早すぎるというか……何というか…………」

 ほっほ~? と、お姉ちゃんの言葉を聞いた霊王さまは、何やら、ニヤ~、といたずらっぽく笑って、お姉ちゃんのことを見つめた。

「〝早すぎる〟…か……そうかそうか」

「……な、何ですか……?」

 負けじと、じっ、とお姉ちゃんも霊王さまのことを見つめる。

 ――しかし次の瞬間。勝負はすぐについた。

 いや、な? と霊王さまはニヤケ顔のまま続けた。

「……早い、だとか何とか言ってるわりには……結構、色々〝知ってる〟みたいじゃな、と、思うて……な?」

「なぁあ!!?」

 ぼんっ!

 突然、お姉ちゃんの顔は真っ赤になって、そしてなぜか爆発した。

 お姉ちゃんはそれから、爆発のせいでボサボサになってしまった自慢の長い髪の毛もそのままに、慌てて話した。

「ちちち! 違います! 私、何も知らないです!!」

「ほぉ~? 何も知らんとな? では、なぜそんなに慌てておるのじゃ? ん?」

「しょ、しょれ、は……!!!」

 ……遂には、口まで回らなくなってきてしまった。

 お姉ちゃんはもう、どうやら霊王さまの方を向いていられなくなってしまったらしい。リンゴみたいな真っ赤な顔をして、ぷい、とそっぽを向いた。そして、まるで消え行くような小さな声で呟いた。


「…………し…知らない……もん……」


「うむ! そうかそうか……お前、中々可愛らしい娘じゃの!」

 かっかっかっ!

 そう、霊王さまが満足げに高い声で笑った、その時だった。

「――つーか俺様のことはスルーかよ!!」

 ズボアァッ!! お姉ちゃんが向いたそっぽ…その先の壁からめり込んでいた身体を引き抜いた魔王は(……あ、なるほど。この部屋の〝穴〟はそうやってできたのか……)大声で叫んだ。

「おい、霊王! テメーいい加減にしろよ!? 毎回毎回ぶっ飛ばしやがって! そろそろ俺様も本気でキレるぞ!?」

「――そればっかりには俺も同感だな!」

 と、続いて神王さまも壁から身体を引っこ抜く。

「霊王……毎度毎度壁に大穴開けやがって……ここを誰の城だと思ってやがる! いい加減にしねーとテメーもぶっ飛ばすぞ!!」

 ゴゴゴゴゴ! とまた……二人が霊王さまを睨みつけたその瞬間、地震が起き始めた。

 ――だけど、それは霊王さまが二人を睨みつけ返した数秒後…すぐに止むことになってしまった。

 ……というのも、

「ほぅ? 妾を相手にケンカを売るとは……いい度胸じゃな、お前ら?」

 おい、魔王。と霊王さまはまず、ギロリ、と魔王を睨みつけた。

「な……何だよ?」

「……うむ。お前、今、〝キレる〟…とか何とか言っておったようじゃが……それはオカシイのではないか?」

「あ? 何でだよ?」

「……いや、な? だってお前……〝魔族〟じゃろ? 魔族といえば妾たち〝精霊〟と同じように、誰かから〝召喚〟…〝依頼〟を受け、その願いを聞く代わりに、代価となるモノをもらうもの……その際の依頼主…つまりは〝客〟じゃ。――魔王。お前はその客を粗末に扱うのか?」

「え……いや、〝契約〟だし、そんなわけには……」

「――そうじゃ。そんなわけにはいかん。なぜなら妾たちにとって客とは〝力の源〟であり、〝メシ〟に当たるもの……客は大事にせねば…のぅ?」

「……な、何が言いたいんだよ?」

「……うむ。では今一度問おうか、魔王よ……そこにおる子どもらは妾たちのいったい〝何〟じゃ?」

「え? そりゃあ……」

 ――はっ!! 魔王は声を上げた。

「……〝客〟だ……しかも、遠方からわざわざ出向いてくれた……!!」

「そうじゃ。〝客〟じゃ。――のぉ、魔王? いいのかのぉ? 魔族の〝王〟たるお前が、大事な大事な〝客〟をほっぽって、目の前でケンカを始めるなど……いいのかのぉ?」

「………………」

「――座れ」

「……はい」――魔王は、俯いたまま、元いた席に座った。

 まずは一人……そう呟くと、次に霊王さまは神王さまの方を、ジロリ、と睨みつけた。

 ビクン! と神王さまの身体が跳ね上がる。

「な…何だよ霊王? 俺はべつに……」

「……べつに、何じゃ? お前、さっき妾に何と申したのか、もう忘れたのか? 覚えてないのなら妾が代わりに言うてやろうか?」

「……」

 しぶしぶ、神王さまは答えた。

「……その……ぶっ飛ばす…って……」

「……誰をじゃ?」

「……霊王を」

「では、妾はいったい〝何〟じゃ?」

「……? お前は〝精霊族〟の〝王〟――」

 ぽんぽん――その時だった。霊王さまは神王さまの答えを遮るように、わざとらしく、お腹を優しく叩いたのだ。

 瞬間、だった。

 ――はっ!! 神王さまは声を上げた。

「……〝妊婦〟……ッッ!!!」

「そうじゃ。〝妊婦〟じゃ。精霊だの〝王〟だのという前に、〝妊婦〟じゃ。――のぉ、神王? いいのかのぉ? 〝秩序を守る〟存在である神族の〝王〟たるお前が、本来守るべき存在であるか弱き〝妊婦〟を、極悪非道にも〝ぶっ飛ばす〟などという発言……いいのかのぅ?」

「………………」

「――座れ」

「……はい」――神王さまも、俯いたまま、元の席に座った。

 ……今まであれほど騒いでいた二人が、まるでウソのようだ。

 二人は無言のまま、悔しそうに歯を食いしばり、拳を握りしめていた。

「うむ! それでいいんじゃ、それで!」

 かっかっかっ!

 それを見て、霊王さまはまた満足そうに笑ってから話した。

「――さて、ではガキ共も黙らせたことじゃし……おい、エルよ。その子らも座らせてやれ。立ったまま話を聞くのも、何かと疲れるものじゃろうからな」

「かしこまりました」

 今までずっと無言のままボクたちの後ろに立っていたエルさんは、それから端に置いてあった椅子を二つ持ち、ボクたちの目の前に置いた。

「――さぁ、ファナさん。シーダさん。こちらへどうぞ。……あ、椅子の大きさは神王様たちの大きさに合わせてありますので、ファナさんたちにもピッタリだと思います。安心してください」

「あ、はい……おいで、シーダ」

 ……どうやら、お姉ちゃんもいつもどおりの表情に戻ったようだ。

 うん、と頷いて、ボクはお姉ちゃんの手を取り、席へと向かった。


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