#3,〝秘王〟と〝予言〟。 3-1
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――〝全てを話す〟。
そう私たちに言い放った、〝霊王さま〟と呼ばれていた私と同じくらいの年齢の女の子は、それから肩越しに、くすり、と小さく微笑み、次のように続けた。
「よし。そうと決まれば善は急げ、じゃ! ……とはいえ、さすがにこんな無駄にだだっ広い、落ち着かん部屋で話すのもなんじゃから、ここは一つ、〝いつもの部屋に〟移動しようではないか。――構わんな、神王よ?」
ああ、と答えて、階段を下りてきた神王さまは頭をかきながら話した。
「どうせ、〝あいつ〟もそこでのん気に茶でもすすってんだろ? 話を分かりやすくするには好都合じゃねーか。さっさと行こうぜ」
「決まりじゃの」
頷いた霊王さまは、エルさんに何やら手で合図を送り、「かしこまりました」とエルさんが答えたのを確認してから、
「――では、妾は先に〝戻ってる〟での。早ぅこいよ?」
そう話し、文字どおり、〝ぱっ〟、と消えていなくなって……
「「!!!???」」
〝消えた〟!! 弟が思わず声を上げて、今の今まで霊王さまがいたはずの中空を手探りで探してみたけれど……やはり、答えは変わらなかった。そう、〝消えた〟のだ。まるで最初からそこにはいなかったかのように…………。
……何もないところから突然現れた時もそうだったけれど…いったいどういう仕掛けになっているのだろう? …まさか〝霊王〟だから、〝おばけの王さま〟……とか言わないよね?
ぶるる…頭の中で広がる想像に私が身震いを起こした、その時だった。
「おい、お嬢ちゃん、坊主、何いつまでもそんなとこでボケっと突っ立ってんだ。さっさと行くぞ。ついてこい」
「――あ、は、はいっ!!」
そう答えて、急いで弟の腕を捕まえた私は、慌てて神王さまの後を追った。
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――馬の蹄のような形の大きなテーブルの周りに、椅子が置かれただけの小さな部屋。
なぜかそこら中、壁に大小様々な〝穴〟が開いているその場所にボクたちが案内されて入ると、それとほぼ同時に、部屋の中から声が上がった。
「――お? やっときやがったか神王……そいつらが霊王の言ってた〝予言〟のナンタラか?」
部屋の一番左奥の席……そこにいたのは、上半身裸の上に茶色い革のコートを羽織っただけの、ボクと同じくらいの年齢の、男の子の姿だった。
――だけど、お行儀悪くテーブルの上に脚を乗せて座っているその子の姿は、明らかに普通の人間の〝ソレ〟とは違っていて、ボクたち〝獣人〟と同じように、その頭からは〝鋭い角〟が、そしてズボンの穴からは自分の背丈ほどもある細長い〝黒い尻尾〟が生えていた。
「子だ、子! 〝予言の子〟!」
神王さまはそんな男の子のすぐ目の前…今度は普通の椅子だ…に座ると、なぜだか嫌そうな顔で話し始めた。
「いい加減覚えろよ〝魔王〟……霊王が〝予言〟してからいったい何百年経つと思ってんだ? つーかそれこそいい加減にその髪切れよ。何でわざわざ右目隠してんだ? 邪魔だろ」
はっ! 〝魔王〟と呼ばれたその子は、神王さまに指摘された右目を覆う長い黒髪を指でつまみながらそれに答えた。
「何百年も経ってるからむしろ忘れたんじゃねーか……それに、テメェこそいい加減に覚えろよ。この髪型はそういう〝ファッション〟だ! 邪魔でもねーし……まぁ? そういうことに全く興味もねぇ〝センス無しのおっさん〟には一生分からねぇカッコよさ、ってもんかもしれねーけどな?」
「あ?」
――ピキッ…それを聞いた神王さまのこめかみに血管が浮き上がった。
「……んだと、コラ? 何が〝ファッション〟だって? もしかしてテメェのその〝海藻〟みたいな髪型のことを言ってんのか? こりゃあ笑わせてくれるぜ!」
「ああ!?」
――ビキビキィ! それを聞いた魔王と呼ばれた子のこめかみにも血管が浮き上がる。
「……もっぺん言ってみろこの白髪ジジイ! かっ消すぞ?」
ゴゴゴゴゴ! と、その時だった。二人が睨み合う形となったその瞬間、〝地面〟が揺れ始めたのだ。
地震だ! お姉ちゃんは騒いだけれど、二人にはそんなお姉ちゃんの声も、そしてこの地震すらも、まるで意中にはないようだった。
ダン! 立ち上がってテーブルを踏みつけ、身を乗り出す魔王に対抗するように、神王さまも同じように身を乗り出してテーブルを両手で強く叩いた。
「何べんでも言ってやるよ! この〝海藻〟! ちったぁ鏡を見てから物を言え!」
「んだと……!! やんのかテメェ!!」
「上等だ! 〝千年前〟の決着、今ここでつけてやろうじゃねーか!!」
「それはこっちのセリフだ!! 今度こそぶっころ――」
――瞬間、だった。
「――止めんかこのガキ共がっっ!!!!!」
ズンッ! 「――ごはぁっ!?」
ドゴォ! 「――げふっ!?」
ズドォ! 「――がっはっぁりがとうございまーす!!」
――突然、その怒声と共に〝光る木の根っこ〟のような物が現れたと思いきや、それは言い争っていた二人のお腹に直撃し、二人はそのまま後方へと大きく吹っ飛ばされて……あれ? 今、〝変な声〟が混じっていたような気が……???
――ずっどーん!
そして、二人がほぼ同時に、仲よく対面の壁にめり込んだ――数秒後のことだった。
いつの間にか地震も止んだ中、「まったく」……という、聞いたことがある女の人の声……ボクは光る木の根っこが戻って行くその先を見てみると、部屋の奥にあった扉。そこから出てきたのは、先ほど、ぱっ、と消えていなくなってしまったはずの霊王さまの姿だった。
霊王さまは…さっきは後ろからしかその姿を見ていなかったから気づかなかったけど、まん丸に張ったお腹を重そうに、木の杖を突きながら神王さまと魔王のちょうど間の席に座っ――
「――あれっ!?」
――と、お姉ちゃんが声を上げた。
お姉ちゃんはその、わなわな、と震える指で霊王さまのお腹を指差して聞く。
「霊王さま……その〝お腹〟って……え!?! 何で!? だって、霊王さまって私と同じくらの歳なんじゃ……???」
……? 霊王さまのお腹が……どうかしたのだろうか? 確かに張ってはいるけれど……?




