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059_未来に向けて

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 059_未来に向けて

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「それで今日はどのような要件で?」


 呼んでいないし、来るとも聞いてない。

 それでもここまで入り込めるのだから、面白い人物だ。なにせこの厩橋城は簡単に入り込める場所じゃない。それに小太郎さんの配下の目も光っている。


「陰陽師の術を見たくての」

「俺、陰陽師じゃないですよ」

「っひっひっひっひ。謙遜、謙遜」

「いや、謙遜ちゃうし」


 完全に陰陽師認定されている。こういう勘違いさんに違うと認識させるのは難しいんだよな。人の話を聞かないタイプだ。


「貴方は不思議な術を使いますよね。俺は陰陽師ではないですが、貴方の術を見せてもらえますか」

「っひっひっひっひ。いいじゃろうて」


 容姿が三十くらいの女性だから、本当に喋り方に違和感しかない。


「そこの屏風絵を見てくださるかの」


 山水画が描かれた屏風。

 何をするのかと、彼女と屏風を注視する。


 彼女がクイクイと手招きする。すると屏風絵の中の舟が動きこちらへ向かってくる。

 小さな舟には一人の船頭が乗っている。漁師かな?


 舟は次第に大きくなり、ついには屏風から抜け出して俺たちの前にまで出てきた。

 彼女がその舟に乗り込み、屏風絵の中へと戻っていく。


 へー、なかなか面白い趣向だ。


「ふむ。初めて見る術だが……」


 屏風絵の舟には、二人の姿がある。

 俺は今まで彼女がいた場所を見つめる。


「ふむ。幻術の類か。面白いものを見せてもらいました」


 魔法ではない。これが陰陽師の術なのかは分からない。でも彼女が舟に乗ってないのは分かる。

 気配というのは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚などを脳が認識して分かるものだ。俺の場合はそこに魔力と気を感じることができる。

 彼女の魔力は先ほどと変わらず、そこにあった。


 すーっと彼女の姿が現れる。


「っひっひっひっひ。なぜ分かったのじゃ?」


 彼女が使った力は、魔力ではない。

 俺の知らない特殊な力のようだが、気に似ている。

 おそらく修行によって気の特殊な扱い方を覚えたのではないだろうか。


「面白い術ですね。それでは俺も一つお見せしましょうか」

「楽しみじゃ」


 外に出てもらい、彼女の手を取る。

 一気に飛び上がり、上空千メートルほどへ。


「っひっひっひっひ。こりゃたまげた。幻術ではない。真に飛んでおるのじゃ」


 北へと向かい、上野から越後、そして海の上空へと至る。


「どのような術なのかさっぱり分からぬわ。さすがは陰陽師殿じゃ」

「俺は陰陽師ではないですよ」

「陰陽師でないと言うのであれば、なんじゃと言うのじゃ?」

「それは秘密です」

「っひっひっひっひ。それも一興。っひっひっひっひ」


 厩橋城へと戻り、楽し気に笑う彼女を地上に下ろす。


「楽しきひと時であった。感謝するのじゃ」

「いえいえ。面白いものを見せてもらった礼です」

「しばらくここで世話になりたいのじゃが、良いかの?」

「うちは働かざる者食うべからず。無駄飯喰らいはお断りです」

「っひっひっひっひ。それならば、飯代くらいは働くとするかの」

「それなら歓迎しますよ」


 彼女は楽しそうに笑った。


「おお、そうじゃった。儂は果心居士(かしんこじ)と申す。よしなにの」

「賀茂忠治です。忠治と呼んでください」


 果心居士……どこかで聞いたような?

 う~ん、思い出せないな。




「そんなわけで、果心居士さんです。しばらく厩橋城で過ごしてもらうことになりました」


 皆に果心居士さんを紹介。


「っひっひっひっひ。果心居士じゃ、よろしく頼むぞえ」


 容姿からは想像できないしわがれた声に、小太郎さんと伊勢守さんは平常心を保ったようだけど、皆は驚いた。

 ただ、小太郎さんは心中穏やかではない。小太郎さんの配下の目を掻い潜って厩橋城に侵入されたからね。

 小太郎さんの配下の職務怠慢ではなく、果心居士さんが特殊なんだから責めたらダメだよ。





 果心居士さんがやって来て、一番喜んだのは上野之助さんだった。

 俺と果心居士さんの間を行ったり来たりし、陰陽師の術を学ぼうとしている。もっとも俺は魔法だし、果心居士さんのも陰陽師の術じゃないと言っている。

 俺は陰陽師の術を見たことがないから、果心居士さんの術が本当に陰陽師の術じゃないかは分からない。


 果心居士さんはすぐに馴染んだ。なんでも元は僧で、説法は得意なんだとか。

 しかも元は興福寺の僧だったらしいが、女だとバレて破門されたらしい。いや、その顔なら女だとすぐにわかるでしょ。

 なんとも不思議な人だけど、悪い人ではない。上野之助さんなんか結婚を申し込むんじゃないかと思うほどの懐きようだ。





 俺の新しい領地に、城を築こうと思う。

 三浦半島が望める海岸近く。ちょっとした高台になっている場所。


 鶴見川と帷子川かたびらがわの間にある場所だ。

 治水をちゃんとし、両川から水を引いた堀川を整備し、三重の水堀と城壁に守られた城にした。


 厩橋城よりも大きい敷地で水堀と城壁は三重だけど、厩橋城よりも堅牢にしたつもりだ。

 同時に水運と海運の拠点になる港も築いた。

 十日ほどかかったけど、満足いくものができた。


「この城は鶴見城でいいかな」


 鶴見川のそばに造ったから鶴見城。安直だが、意味が分かりやすいと思う。


「江戸湾が朝日の光を反射して綺麗だね」

「海の匂いがするのじゃ」


 娘の鳳を左腕で抱き、胡蝶を右腕で抱きしめる。

 なんという幸せな時間だろうか。

 異世界で戦い続けた十三年だったが、時代は違うけど帰ってこれてこうやって家族を得ることができた。


「これからもずっと一緒でいような」

「改まってどうしたのじゃ?」

「幸せだなと思ってな」

「妾も幸せなのじゃ」


 鳳と胡蝶、そしてこれから生まれてくるであろう家族を、俺は力の限り守り抜くと誓う。



 ――― 完 ―――


 

ご愛読ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 面白かったんだけど、終わり方がね。 [一言] 新田包囲網とか見たかったです
[良い点] やはり歴史ものは楽しいですね。 [気になる点] 戦争は、ほぼ、主人公が一人で片付けておりますが、ここまで来ると、何処まで行けるのか?が楽しみです。 [一言] お忙しいでしょうが、早く続きが…
[一言] マジで終わりか~、正直もっと続きが見たかったな~
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