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055_甘い芋、甘い人

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 055_甘い芋、甘い人

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「甘いのじゃ!」

「本当に甘いな」


 上州芋が収穫できた。

 早速焼き芋をしたら、胡蝶が匂いに釣られてやってきた。さすがは女の子。

 現代で品種改良されたものに比べれば、甘味は劣る。それでもこの時代では十分に甘いものだし、胡蝶は頬が緩みっぱなしだ。

 上州芋は牧場の猪や牛の餌にもなるから、たくさん作りたい。でも甘くて人気が出そうだから、餌は麦がメインかな。


「新田学校の子供たちで食べようか」

「いいのかえ?」

「食べるために栽培したんだから、いいよ」

「童たちも喜ぶのじゃ!」


 山間部を切り開いて、畑を作ろう。

 上州芋は保存もきくから、非常食としてもいいからね。

 来年はもっと多くを栽培できるから、もっと多くを食べさせてあげられるだろう。




「そんなわけで上州芋を栽培するために、山間部の開発をしたいんですよ」

「いきなりですね。でも食料が生産できるのはいいことだと思います。どの土地を考えているのですか?」


 俺の厩橋城はかなり開拓が進んで、ほとんどで米の生産ができる状態になっている。それを上州芋にしてとは言えないから、どこかの山間部を切り開いて育てたい。

 勝手に山間部の開発はできないから、お義兄さんに場所を融通してもらうことにしたんだ。


「お義兄さんの直轄地で、いいところはないですかね?」

「そうですね……国人たちにさせましょう。山間部の国人なら喜んで栽培すると思います」

「米が作れないような場所を切り開く必要があるけど、頼まれればそれくらいしてあげますよ」

「あまり忠治殿がやると、国人たちがそれを当然だと思い込みます。ほどほどでお願いしますね」


 止めないけど、ほどほどにと釘を刺されてしまった。

 これまでもちょっとやりすぎている気がしないではない。素直に従いましょう。


「あと……いっそのこと甲斐で栽培してもらったらどうですか? あそこは山が多いですからね」

「なるほど、それはいいですね」


 どうせ春まで時間がある。武田さんにも声をかけよう。





 ▽▽▽ Side 今川義元 ▽▽▽


 こんな馬鹿げた話があるのか?

 あの武田晴信が、新田に従属だと?

 信濃を割譲してさらに従属など、あり得ぬ。

 我が家中は、連日この話で持ち切りだ。


「和尚が逝ったばかりだというのに、難儀な話よのう」


 今年は儂にとって厄年かと思う酷い年だ。

 だが、これで東と北が安定するやもしれぬ。

 我が今川が新田と同盟を組めば、後方が確実に安定するはずだ。


 今までは北条が関東管領と戦い、越後の長尾、そして新田と争った。それが決着しそうになったとおもうたら、今度は武田が新田に従属。

 関東は新田を中心に回り出している。いや、すでに回っているのだろう。

 新田を無視しては、足元をすくわれることになろう。


 和尚はこれを見越していたのだろうか。さすがは我が師であるな。

 だが、もう和尚はおらぬ。今さらながら和尚の大きさが分かる。

 和尚が亡くなったことで、今川を潰してはならぬ。そして必ず上洛を果たしてみせるわ。


 前回は新田との誼を結べたが、同盟をせぬわけにはいかぬであろうな。

 関口では頼りないか……。

 では誰を使者とする? 考えてみると、和尚以外に外交を任せられる者がおらぬ。


 ここは朝比奈備中守にするか。備中であれば、判断を間違わぬであろう。

 問題があるとすれば、備中も老齢だということだ。そろそろ六十になる。長旅がキツい年齢じゃ。長くは仕えられまい。

 息子の左京亮(さきょうのすけ)も有能である。備中に同道させて今から外交を学ばせるとするか。





 ▽▽▽ Side 真田弾正忠 ▽▽▽


 我が領地も変わったものよな。

 儂がこの地を離れる以前は冬を越せるのか、不安な日々を過ごす民が多かった。

 それが新田家に臣従してから、飢えることを心配する者は少なくなった。


 民は食わせてくれる領主を歓迎する。

 そういった領主のために、一生懸命働いてくれる。


 賀茂様のおかげで、千曲川の氾濫を恐れる必要はなくなった。

 さらに農業用水とかもうす水路により、今まで水田に出来ぬ場所も田圃にできて収穫量が激増しておる。

 全て賀茂様のおかげだ。厩橋城に足を向けて寝られないのう。

 しかも田圃の形を揃えて苗を植えるだけで、同じ面積でも収穫量が二割から三割も増えた。苗を作る必要はあるが、その程度の手間で収穫量が二割以上増えるのだ、悪くはない。むしろ歓迎するべきことだ。


 塩も越後のものが安く手に入る。

 賀茂様は戦いに強く、民を飢えさせない。

 新田に臣従してからは、攻められることもなくなった。食べるに困らなくなった。

 以前は厳しい表情をしていた民たちだが、今では笑みが見られる。領国が明るくなったわ。


 猪牧場も良いわ。

 脂は石鹸の材料になるということで、よい値で買い取ってくれる。

 肉も食料として活用できるし、乾燥させれば保存食にもなる。

 さらに毛皮を加工すれば、寒い冬を越すために使える。たしか防寒具といったか。


 さらに林檎とかいう果実の栽培だ。こちらはまだ木が大きくなっておらぬゆえ手間がかかるだけなのだが、数年後には甘酸っぱい実が成るはずだ。

 賀茂様に林檎の実を食べさせてもらったが、あれは旨かった。賀茂様が言うには、林檎の実は食べても美味いが酒にすることもできるのだとか。

 どんな酒になるのか、今から楽しみだわい。


 武田大膳大夫も新田に半臣従状態だ。

 これには未だに信じられん思いだわ。

 甲斐特有の病である水腫腸満なる病に罹る者は少なくなり、罹っても薬で治るようになった。

 その原因も突き止めており、対策が行われている。いずれ水腫腸満は根絶するだろうと賀茂様は仰っておいでであった。


 堤によって長年悩まされていた洪水も収まったようだ。

 さらに農業用水が引かれ、これまで水がなくて田圃にできなかった場所も開墾されているという。


 武田大膳大夫が礼を言うために金山城と厩橋城へ訪問したというではないか。

 儂はてっきり堤を築いたら新田に反旗を翻すと思うておったわ。それが大膳大夫めは、笑みを浮かべ感謝していたのだ。

 あの大膳大夫が笑うなど、考えもせぬことであった。変われば変わるものよのう。


 大膳大夫も苦しんでおったのだと、あの笑みを見た時に思うたものよ。

 だからといって信濃で行った悪逆非道の数々を、民や国人たちは許してはおらぬ。

 武田の支配を受けていた月日を、今でも地獄であったと皆は語る。

 こうして笑って暮らせるようになる前は、本当に酷い時代だったのだ。


 大膳大夫は信濃の所領を新田家に割譲した。

 今や信濃で新田でないのは、木曽と守護の小笠原家くらいなものだ。後は全て新田の所領になった。


 木曽はかなり攻め立てられていたようだが、生き残ったわ。

 小笠原も多くを失った。金山城には、使者がひっきりなしにやってきて所領を返せと言っておるらしい。甘いことを言う。

 たしかに大膳大夫の行いは目に余るものがあるが、攻めて攻められるは戦国の世のならいではないか。

 武田に所領を奪われたのは、小笠原が弱かっただけのこと。

 それを新田になったから返せとどの口が言うのか。

 そんなことだから、武田にいいようにされるのだ。


 守護家である小笠原がしっかりしておれば、我らは武田に蹂躙されずに済んだかもしれぬ。小笠原家を主家と思うておる者はおらぬであろう。我らは新田の臣であり、賀茂様の忠実な家臣なのだ。


「父上、小笠原はどう出るでしょうや?」


 酒を飲みながら思案しておると、我が家を継いだ源太左衛門が儂に問うてきた。


「どうにもならぬであろう。お家が残っただけでもよしとして、新田の風下で生きていくしかあるまい」

「納得するでしょうか?」

「せずにどうする? 新田と戦うのか? 今や上野、武蔵、そしてこの信濃の大部分を従える新田と? ふふふ。儂なら新田に臣従するわ。そのほうが豊かになる。武田大膳大夫と轡を並べるのは業腹(ごうばら)だろうがな」


 源太佐衛門がなんとも言えぬ、妙な顔をしたわ。

 信濃の誰もが武田大膳大夫をよう思うておらんからのう。






 ▽▽▽ Side ??? ▽▽▽


 陰陽師殿も忙しいお方じゃな。

 甲斐におったと思えば、上野におる。

 上野におったと思えば、信濃におる。

 信濃におったと思えば、武蔵におる。

 神出鬼没というのは陰陽師殿のことをいうのであろう。


 陰陽師殿に会いに来たが、気づけば動いておりまだ会えておらぬ。

 儂の身にもなってもらいたいものだわい。




 +・+・+・+・+・+・+・+・+・+

 朝比奈泰能(備中守)

 朝比奈泰朝(左京亮)


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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