038_儲け話
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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038_儲け話
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天王寺屋さんとの取り引きが終わり帰ろうかとなった時、それが目に入った。
「あれは何を積み込んでいるのですか?」
天王寺屋さんの船に、たくさんの木箱が運び込まれているのだ。
「あれは銅です。明へ銅を持っていくといい値で売れるらしく、倭寇が博多で買っていくそうです」
「銅……ですか……」
何か引っかかる。何が引っかかるんだ? 考えろ俺……。
「どうかされましたか?」
天王寺屋さんが俺の顔色を窺っている。
変なことを言われないか心配してるのかな?
俺はそこまで無茶なことは言わないと思うんだけど?
しかし、明はどうして銅を欲しがる?
銅銭を造るのに、銅が必要なのは分かる。
だが、明は広大な国だ。
銅くらいいくらでも採掘できるんじゃないか?
わざわざ日本から海を越えて銅を輸入するのは割に合わないんじゃないか?
それとも日本の銅はそれだけ安いのだろうか?
「その銅を見せてもらってもいいですか」
「それは構いませんが、ただの粗銅ですよ?」
天王寺屋さんは木箱の一つを開けて中を見せてくれた。
手に取らせてもらい、よく見る……。
そうか、これは……ふふふ。明が欲しがるわけだ。
これはいいものを見つけたぞ!
「天王寺屋さん。俺と組んで儲けませんか?」
「ほう。賀茂様と組んでですか。興味深いですな。お茶を立てましょう。詳しい話はそちらで」
錬金術には鉱物(金属)に含有している金属を知ることができる術がある。それによって微量だが、この粗銅には金と銀が含まれていることが分かった。
つまり、粗銅から金と銀を取り出せば、ぼろ儲けができるというわけだ。
明は銅も欲しかったかもしれないが、何よりも金と銀が欲しいんだ。
何せ現代では銅一キログラムより、金一グラムのほうが価値があるのだ。
それはこの時代も同じだ。換金率は違うが、金が貴重なのは今も現代も同じなのさ。
「なんと……そのようなことが……」
「粗銅に金と銀が……」
天王寺屋さんも藤吉郎さんも驚いているね。そりゃそうだ。俺も驚いているんだから。
「俺ならこの粗銅から金と銀を取り出せます。つまり―――」
「私めが粗銅を集め、賀茂様が金と銀を取り出し、また私めがその金銀を引き取るのですね」
さすがは天王寺屋さんだ。みなまで言わなくても、理解してくれる。
「しかし賀茂様。堺と厩橋城を輸送するには、かなりの手間暇がかかりますが?」
「それなら大丈夫です。定期的に俺が堺までやってきます」
「大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫です。その代わり小さな屋敷を用意してください。俺が堺にくる時に使える屋敷を」
「その程度ならすぐにでも」
「とりあえず月に一回、堺を訪れます。戦がある時はこれないですが、事前に分かっている時は連絡します」
俺の提案を聞き、天王寺屋さんは凄くやる気になった。
「すぐに賀茂様の屋敷を手配します」
「俺の滞在は少しですから、屋敷を管理する人も手配しておいてくださいね」
「承知しました」
あとは報酬の話だ。藤吉郎さん任せたよ!
喧々諤々とやり合った二人。
取り出した金と銀の半分がこちらの取り分になった。
うちはお金を一切かけない。俺が堺と上野を往復して錬金術を行使するだけで、大量の金と銀が手に入りそうだ。
あと石鹸に関しては、今まで通り。上野で引き取ったものを、天王寺屋さんが堺へ、そして博多へ輸送する。
なんでもかんでも俺はしないから、そこは商人として努力してください。
さて、交渉も終わったから、胡蝶にお土産を買って帰ろう。
「一カ月後にまた顔を出します」
「はい。できるだけの粗銅を集めておきます」
「お手柔らかにお願いしますね」
天王寺屋さんと別れた。
「天王寺屋殿はさすが会合衆の筆頭格ですね。二十一万貫も支払ってさらに粗銅を買い漁る資金力には驚きます」
「豪商は伊達じゃないね」
「しかし銭はあることろにはあるのですね。関東では銭不足だというのに」
「え? そうなの? 銭不足なの?」
うちの蔵には二万貫プラスアルファあったよ?
「銭は明から購入するらしいですよ」
「え? 日ノ本で造っているんじゃないの?」
「私鋳銭を造っている大名や商人もいるそうですが、粗悪なものしか造れないみたいで、鐚銭とか悪銭と言われています」
「へー、そうなんだー」
でも江戸時代は小判とか造っていたよね?
江戸時代はもう少し後だから技術力が上がったのかな?
粗銅や銭の話で時間を食ってしまった。
帰りは飛ばそう。
「ぎゃーーーっ」
マッハ超えで飛んだら、藤吉郎さんが悲鳴をあげた。ごめんよ、急いでいるんだ。
尾張に入ったのは、夕方前だ。
真っ青な顔をした藤吉郎さんの家族が待っていてくれた。
「どうも。上野国の厩橋城主賀茂忠治です。いつも藤吉郎さんにはお世話になっております」
「へ、へぇ……」
なんかぽかーんとされた?
「普通のお武家様はそんな遜った自己紹介しませんから……」
顔面蒼白から立ち直った藤吉郎さんが教えてくれた。
そういえば、この時代の武士は農民に対して尊大な態度をとるんだったね。
でも俺はそんなこと気にしないから。
そもそも武士ではないし。
集まったのは藤吉郎さんのお母さん、姉、弟、妹、姉の夫だ。
「全員、この丸の中に入ってください」
地面に直系五メートルくらいの円を書き、その中に全員入ってもらう。
「よし、目を閉じてください」
最初はちょっと酔うかもしれないからね。
目を閉じるのは、その対策。
周囲に人の気配はない。よし、転移!
一瞬で光景が変わる。
石造りの部屋だ。床には幾何学模様の魔法陣が描かれている。
これは転移の出口用の魔法陣になる。
この魔法陣がある場所には正確に転移できるけど、そうじゃないとズレたりするんだ。
下手をすると壁の中にめり込んでしまい、そのまま昇天することになる。
だからこの魔法陣がないと、危険すぎて転移は使えないんだよね。
「もう目を開けていいですよ」
「「「え?」」」
今まで屋外にいたのに、いきなり石造りの部屋の中にいるのだから困惑するのも理解できる。
混乱している藤吉郎さんとその家族だが、外に出てもらう。ここは立ち入り禁止区域だからね。そこんところよろしくね。
藤吉郎さん一家は長屋のほうへ、俺は胡蝶の元へ。
「ただいまー」
「お帰りなのじゃ」
胡蝶が飛び出してきた。
侍女さんが困った顔してるよ。もう少しお淑やかにね。
「疲れた~。お風呂湧いてるかな?」
「湧いてるのじゃ! 一緒に入るのじゃ!」
「おう! 一緒に入ろう!」
ノリノリで風呂場に向かったが、肩を掴まれた。
「殿。お帰りなさいませ」
「……や、やあ、爺やさん。帰ったよ」
「早速ですが、米の売買に関してお聞きしたく」
「今? 明日で」
「今にございます」
「はい……」
爺やさんの圧が凄い。
「爺や。そんなの明日でいいのじゃ」
「北の方様は大人しく部屋でお待ちを。いいですね!」
胡蝶でも後ずさる目力が凄い。
仕方なく爺やさんに報告をする。
そんなに多くのことはないから、さっさと終わらせよう。
尾張で織田信長さんに会ったこと。
米の販売は二十一万貫。うちが十四万貫、お義兄さんが七万貫になったことを報告。
あと粗銅の錬成をすることになったから、月に一回は堺へ行くことも。
「尾張の織田家ですか。たしか武衛家の被官で守護代をされている家が織田だったかと。ただ織田はいくつかの家があったはずですが、どの織田ですかな?」
「え?」
「……まさか聞いてないのですか?」
「すみません」
家がいくつもあるなんて聞いてませんよ。
「あ、でも織田信長さんの織田だから!」
「信長……聞いたことがありませんな。調べさせましょう」
「藤吉郎さんなら知っているかも。ほら、尾張出身だし」
「そうですな。明日にでも確認してみます」
結局明日なんだね。藤吉郎さんと一緒に報告で良かったんじゃないの?
「しかし十四万貫ですか。蔵が足りませぬな」
「増築します」
そんな目で見なくても増築するから。
「で、最後の粗銅とはなんでございますか?」
だから目力凄いから!
「粗銅の中に金と銀が混ざっているので、それを取り出してうちと天王寺屋さんで儲けようという話になったんです」
「なるほど。そのために月に一回、堺へ赴くわけですか」
「そそ。粗銅を厩橋城まで運んでもらうと、それだけ費用がかかるから俺が天王寺屋さんのところまで行くほうがね」
「ね。ではございません。はぁ……。殿は上野国を治める新田上野介様の義弟であり、一門衆筆頭なのですぞ。それなのに軽々しく国外へほいほい行くなど、はぁ……」
その深いため息、止めてください。
俺が凄く悪い気になっちゃうから。
ご愛読ありがとうございます。
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