035_織田信長
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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035_織田信長
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今年の秋はありがたいことに豊作になった。
厩橋城下では新田開発も進んで、豊作と合わせて去年より多くの米が穫れた。
上野では米の値が下がっている。
そこで俺はあることを考えた。
「余った米を忠治殿が買い取るというのかな」
「はい。他の国で不作になった国があれば、そこで売ってこようかと思いまして」
「なんと……忠治殿が商人のようなことをするのですか?」
俺、両替してるし。今さらだよ、お義兄さん。
「俺だからできることがありますからね」
お義兄さんの許可をもらって、上野の国人から余った米を買い取った。
俺が用意した資金は、厩橋城の蔵で眠った二万貫。
お義兄さんの下にいる国人領主に声をかけ、四万石が集まった。
一石で五百文は、今の相場より少し高い。それほど上野の米相場が下がっているんだね。
うちの米は売らない。子供がたくさんいるかね。皆、よく食べるんだよ。
「藤吉郎さん。準備はいいですか?」
「はい。問題ありません」
俺よりも口が上手い藤吉郎さんを連れて行く。
商売をするなら、俺よりも藤吉郎さんのほうが上手くいきそうだからね。
「うっひゃーーーっ!?」
藤吉郎さんが叫ぶ。
「落ちませんから、大丈夫ですよ」
「ひゃ、ひゃい!」
とりあえず、藤吉郎さんの故郷である尾張国へ向かった。もちろん飛んでいる。
地上を歩いてとか、海上を船でいくつもりはない。胡蝶と長く離れていると禁断症状が出て来るんだよね。
上野から西へ飛んでいくと海野さんが守っている蟻三城がある。信濃の先には美濃と言われる国があるらしい。美濃と言われてもよく分からないが、その先に尾張があるのだとか。
尾張はあの織田信長を輩出した国だから、俺でも知っている国名だ。
そこで思ったんだけど、もしかして藤吉郎さんはあの豊臣秀吉ではないかな? この容姿で尾張出身と聞いて、もしかしたらと思ったんだ。
確証はないけど、藤吉郎さんはかなり優秀だから可能性は高いんじゃないかな。
もしそうならいい人材を登用したと、自分を褒めてやりたいよ。ただ、晩年の豊臣秀吉はかなり調子に乗ってしまったから、そうならないように見守らないといけないね。
途中、信濃の諏訪で米の相場を調べた。
藤吉郎さんがいい仕事をして、すぐに米相場は分かった。
諏訪は武田家の支配下にあるからか、米の価格は結構高い。戦ばかりしているから、まともに米も育たないんだと思う。
美濃でも相場を調べたが、こちらはそこまで高くない。尾張はやや高かったかな。
俺が上野の国人から一石を五百文で購入した米は、美濃だと九百文で売れる。尾張だと一貫丁度、そして諏訪だと三貫と八百文になる。
今のところの売り先は諏訪が最有力かな。
これってさ、美濃や尾張で米を買っても儲かるよね?
ただ、すでに四万石の米を買い取っているため、俺が自由にできる銭はすでにない。あとは両替用の銭だからね。
「ここが儂の生まれ育った中村です」
藤吉郎さんの生家に寄った。
藤吉郎さんはよく働いてくれるから、家族を上野に連れてきたらどうかと提案したんだ。
「おっかー。おっかー」
「あれまぁ、日吉か」
ん? 日吉? 藤吉郎じゃないの?
「今は藤吉郎と名乗っていますが、子供の頃は日吉と呼ばれていたんです」
ああ、なるほど。この時代、幼名があって元服すると名前が変わるのは普通だからね。
でも農民はそういうことないよね? 藤吉郎さんの家は農家らしいから、そこまで名前を変えないと思うんだけど?
「儂のような農民出は、お武家やお公家に仕える際に名前を変えたりするんです。そのままの者もおりますがね」
へー、農民も名前を変えるんだ。
「儂は以前の主に仕える時に変えました」
まあ、名前どころか家名まで変えるからね、この時代は。お義兄さんなんて、岩松から新田に家名を変えたくらいだ。
そのおかげで、誰がどんな名前を名乗っていたか、分からないんだよね。
藤吉郎さんは実家に泊ってもらい、俺は近くの那古野という場所に向うことにする。
「明日の昼前には迎えにくるから」
「へい。ありがとうございます」
那古野は現代の名古屋市辺りだと思う。字が違うだけだし、それくらいの想像力はあるかな。
近くに熱田神宮があるというから、詣でようと思った。
熱田神宮は三種の神器で有名な天叢雲剣もしくは草薙剣と言われる神器があるのだとか。
あまり興味ないけど、せっかく日本に帰ってきたんだから、寺社巡りはしたいかな。
この時代は城下に町はあまりない。寺社領のほうが商業は発展している。俗にいう座というものだね。
上野でも尾張でも、どこでも寺社にはそれなりの力があるんだ。
熱田神宮のそばにも湊があって、交易が行われている。
尾張の湊で有名なのは、津島らしい。海ではなく川の湊なんだとか。津島は美濃との交易の拠点なんだとか。木曽の木材も川で運ばれてくるんだとか。
うちも利根川に湊を造って物流を増やしたからね。川でも湊があると、栄えるんだよね。
二礼二拍手一礼。
いい商売ができるようにと願かけしたいところだけど、家内安全・無病息災を祈った。
熱田神宮から那古野の城のほうに歩いていると、馬に乗って瓜を食べている人を中心にした五人ばかりの集団が前からやってきた。
瓜を食べているのは二十前後で、着物をかなり着崩している。
俺の脳裏にある人物の名が瞬時に浮かび上がった。
―――織田信長。
この青年があの織田信長なのか。
有名な東京グループの松岡●宏によく似た、やんちゃそうな容姿だ。
意識してないようだが、殺気を無造作に放っている。周囲の人が迷惑してそうな人だね。
「お前、何者だ」
馬を止めたと思ったら、瓜を投げ捨てて俺を睨みつけてきた。
普通の人なら、その殺気に当てられて動けないだろう。
しかしこの若さでここまでの殺気を身につけるとは、彼は危ういと思った。
殺気のことを意識してないだけに、皆に勘違いされているんじゃないかな。
「上野国厩橋城主、賀茂忠治」
俺が名乗ると、信長さんは右側の眉尻をピクリと動かした。
「上野の国人がこんなところで何をしているんだ」
「京のほうへ向かう途中で寄ったまでですよ」
京へ行くとは言ってない。あくまでも「京のほう」だね。
「ついてこい」
信長さんは馬を反転させると歩かせた。
これ、ついていかないといけないのかな……?
まさに有無を言わさずってやつだよ(笑)
向かった先は那古野城下。
屋敷に入ると綺麗な女性が出てきた。この人も視線が鋭いけど、俗にいう切れ長の目だね。
「またそのような恰好でお出かけになったのですか?」
信長さんを諫めるのではなく、笑って許す懐の深さがある女性だ。
「帰蝶。客だ」
「あら、お客人があるのでしたら、先触れくらいくださいな」
「む、そうか……分かった」
信長さんは尻に引かれている?
帰蝶さんは下女に足を洗う水を持ってこさせて、俺の足の汚れを落としてくれた。
もちろん信長さんの足もね。俺より汚れているし。
「自己紹介が遅れて申しわけありません。俺は上野国守護新田上野介様に仕えています、厩橋城主賀茂忠治といいます」
「まあ、上野ですか!? 遠いところからお越しになったのですね」
帰蝶さんはうちの胡蝶に名前が似ている。親近感が湧くね。
容姿は胡蝶が可愛い系で、帰蝶さんは美人系。俺は可愛い胡蝶が大好きだ!
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