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032_子供たちを集める

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 032_子供たちを集める

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 昨夜のうちに厩橋城を拡張して、二百メートル四方の敷地を確保した。

 そこに校舎と子供が住める長屋(寮)を築き、雨でも運動ができるように体育館を設置した。


 爺やさんが張り切って俺と伊勢守さんと小太郎さんの領内から親のない子供を集めた。

 親のない子供は意外と多く、八十人も集まった。


「まずは風呂だな! 胡蝶は女の子を頼むぞ!」

「任せるのじゃ!」


 風呂もちゃんと造った。不衛生では病気になっちゃうからね。

 男の子も女の子も皆やせ細っていた。病気や怪我をしている子供は、俺が魔法で治した。

 中には目が見えなかった子もいるけど、全部治した。


「たくさん食べるんだぞ! 足りなければ遠慮なんかせずにお代わりするんだ!」

「「「わーい!」」」


 城内で働いている侍女さんたちが総出で子供たちのご飯を炊いてくれ、魚や肉を料理してくれた。

 魚はともかく、肉はこの時代は食べないけど、俺が食べるから侍女さんや小物といわれる人たちも食べるようになった。


 肉は主に猪と鹿になる。たまに熊肉も食べるよ。ジビエだね~。

 味つけは味噌が基本。塩と胡椒も悪くはないが、少し臭いがキツいから味噌で臭みを隠す感じかな。


 お米と魚、肉、みそ汁。

 この時代では大名でも食べないような豪華な料理を並べるが、賀茂家の食卓としては普通の光景だ。


「お代わり!」

「おらも!」


 胡蝶たちが子供たちの茶碗にご飯をよそっていく。たくさん炊いた米がどんどんなくなっていく。


「いい食いっぷりだな。清々しいぜ」


 大人だと遠慮するかもしれないけど、子供はそういうことはないようだ。

 遠慮して食べないよりこのほうがいいけど、腹を壊さない程度にしてくれよ(笑)


 将来この子たちが文官になるかは分からないけど、文字の読み書きと計算ができれば生きていく役には立つだろう。

 俺もこの時代のミミズが這いずったような草書体を覚えないとな。

 あーでもー、あんな読みにくい文字よりも、普通に読める楷書体を使わせたほうがいいかも。お義兄さんに新田家の中では楷書体にしようと提案しようかな。そのほうが読み間違いもないと思うんだ。


 善は急げということで、早速金山城へ向かった。


「そんなわけで、読み間違いを防止するためにも、新田家内では楷書体の文字を使いませんか?」

「いきなりですが、話の趣旨は理解しました。たしかに草書体は読み間違いの可能性を否定できませんね」


 お義兄さんは前向きに検討すると言ってくれた。

 これで俺が読める文字で、書状を書いてくれたら助かるんだけどね。せめて新田家では楷書体をマストな文字にしたい。


 楷書体を流行らそうと、俺はあっちこっちに手紙を書いた。

 筆で文字を書くのは大変だ。せめて鉛筆くらいは使いたいな。などと愚痴を言っても、一気に変えるのは難しい。

 草書体を楷書体にするだけでも、結構な抵抗があると思うんだ。


「皆に諮ったら、問題ないということだったので、新田家内では楷書体を使うことにしました」

「え? もう決まったのですか?」


 ビックリだよ。こんなに早く受け入れられるとは思っていなかった。


「忠治殿が言えば、大概のことは通りますよ」

「いや、俺は無理強いをするつもりはないですけど」

「無理強いではないですよ。家内でも読み間違いなど時々ありましたから。それに読めない字を書く者もいますから、そういうことを改善するきっかけになりましたよ」

「そうですか。それなら良かったです」

「ただし、外に出す書状は今まで通りの草書体のままですけどね」


 新田家内だけでも全然いいですよ。


 俺も草書体を覚えないといけないな。

 書けないまでも、読めるようにはしたい。


 子供たちに文字を教えつつ、自分も文字を覚える。

 そこで思ったのが、教科書がないと不便だ。

 孫子やなんやかんやの書はあるけど、子供にも難しい。しかも漢字ばかりで俺も読めない。

 爺やさんが時々漢詩を教えてくれるけど、ちんぷんかんぷんで目が点になる。


 そんな中で俺は子供たちでも分かりやすいように教科書を作った。

 小学校低学年が使うような漢字と、平仮名の教科書だ。

 その教科書を魔法で作った活版印刷で増刷する。


「ななな、なんですか、これは!?」

「また面白いものを作ったのじゃ」


 活版印刷機を見た爺やさんが目をまん丸にして驚き、胡蝶が軽やかに笑う。


「いちいち手書きで教科書を作るのは面倒なんで、印刷してみました」

「印刷……?」

「印刷というのは、木や金属にこのように文字を刻み、それに墨をつけて押せば文字が転写されるものですね」

「な、なるほど……」


 爺やさんは理解が追いついてくるまでに時間がかかりそうだ。


「これはどんな文字でも印刷できるのかえ?」

「この版を作ればね。だから彫刻や彫金ができる人に、この版を作ってもらいたいわけ。そうしたら、色々な種類の教科書が作れるからね」

「面白いのじゃ! 爺や、職人を集めるのじゃ!」

「はぁ……承知しました」

「爺やさん。本を増刷したら、売れますよ。なんなら、大陸へ行って大陸の書物を買ってきて、複製しましょうか?」


 現代なら何を言っているんだと思うけど、この時代は著作権という考えはないからね。


「大陸の書物……それはいいですな! 書物は高く売れますぞ」


 活版印刷の職人が育てば、本なんていくらでも刷れる。

 この時代の書物は結構高いから、それを他国に売って儲けるのもいい。


 あと相場を操りたいと思う。

 いきなり話を変えたけど、そんなにいきなりでもない。

 米が安いところで仕入れば、子供たちを食わせる米を調達することができると気づいてしまったのだ。

 ついでに高く売れる場所に持っていき、売るだけで儲けが出る。


 この時代には通信網などないから、これをやるには多くの人が必要になる。日本各地に人を配置して、情報を集めて、米の売買をする。たったこれだけのことなのに、結構大掛かりになってしまうのだ。


 俺なら数日で日本の大きな港を回って相場を調べることができるけど、これを組織にしたい。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 紙はどうするんだろ? 問題はそっちの量産なんだが
[気になる点] ミミズが這ったような字=草書体となっていますが、行書体もほぼほぼ同じミミズの這ったような書体ですし、印刷するのには不適かと。ここは楷書体ではないかと…
[一言] 木版印刷自体は飛鳥時代から日本にある(ただし既得権益は寺院が独占。御札とか仏の御姿を刷った「印仏」「摺仏」等がある)ので、爺やさんが知らないというのはちょっと変かな? と。 活版印刷も秀吉が…
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