悪夢の神ポペードール※怖くないよ!
シュナは、坂道を下りながら必死に走る。疲れなんて神になってから感じたことないのに、息は切れるし足も疲れた。
後ろからは大きな鉄球が追ってくる。早く走らないと、下敷きにされてしまう。
「あっ」
足元にあった小石につまづき、転けてしまう。膝が痛い、擦りむいたか。後ろを見れば、迫り来る鉄球。
「やだー!!!」
半泣きでそう叫ぶ。鉄球が体にぶつかる瞬間…
「はっ!はぁ、はぁ、はぁ」
夢から目が覚める。息は切れていて、冷や汗もかいている。一部機能は人間に寄せてあるので、汗もかけるのだ。ありもしない心臓がバクバクとしている感覚がした。
「ゆ、夢か。なんだ…」
安心する。しかしもう眠りにつく気分ではなくなった。扉を開け、リビングに行く。
深夜なのに、明かりがついていた。リビングには、薄らと隈を作った眠そうなメアリーが。
「あ、お嬢様なのです〜…こんばんは」
「こんばんは。どうしたの?」
「怖い夢を見るのです。眠るのが怖いのです」
暗い表情のメアリー。可哀想であった。
「偶然だね。私も怖い夢見たの。眠る気にならなくってさ」
「同じなのです。ここ1週間くらい、怖い夢を見続けるのです」
「ほんと?私もだよ。なんか可笑しいね」
なにか原因があるのだろうか?サタナに聞いてみた。
『神に悪戯されている様です』
「神から悪戯??」
「え、そうなのです?」
『悪夢の神、ポペードールの仕業です』
「なんか、ポペードールって悪夢の神に悪戯されてるんだって。気付かなかったよ」
「最悪なのです!お礼参りに行くのです」
「うん。行こうか、お礼参り」
ということで天界に来た。
まずは遊空殿で、アンさんに挨拶しに来た。一応神にカチコミしに行くので、アンさんにも報告しておこうと思ったのだ。
「ポペードールに会うじゃと?あやつ性格の癖強いからの…まぁいいかの」
ちょっと難色を示されたが、OKらしい。これで堂々と行ける。
「位置はまぁ自分でも分かるかと思うがの、一応今見たらここの城にいるみたいじゃ。」
アンは部下の位置が分かる能力を持っている。
地図で大きな城を示される。それは天界の西の端にあるようだ。
「ありがとう。行ってくるね」
「あぁ、気をつけて行ってこい」
転移門で城まで転移した。流石に広い天界を歩くのは面倒臭い。
城の門を叩く。
「ポペードールさーん、居ますかー!」
「はいはい、なによ私がポペードールよ」
中から身長の小さい白菫色と淡藤色の髪をした少女が出てきた。目は桔梗紫色である。ちょっと面倒くさそうに出てきた。
「シュナです。私に悪夢見せてますよね?」
「げ、シュナ!何よアンタ、カチコミに来たの!?」
「メアリーもいるのです。お陰様で寝不足なのです。一発殴らせろなのです」
「嫌なこーった!べろべろべー」
ガッ
メアリーがポペードールを殴った。メアリーは少し手が出るのが早い。
「腹立つのです」
「いった…何すんのよ!!もう怒った!悪夢を見ろ!」
ポペードールも沸点が低かった。
ポペードールがそう言った瞬間、私達は幻覚に襲われた。
大量の虫が周りから集まってきて私の体をよじ登る。
「きゃはははは!ざーこざーこ!」
ポペードールは煽る。
(うわ、これ、)
「やだーっ!!」
『ブロックします』
一気に悪夢から覚めるシュナ。
「嫌なのですー!!キャー!!」
体から何かを払うような仕草をするメアリー。顔が青い。
「メアリー!」
『メアリーもブロックします』
「はっ、気持ち悪かったのです…」
正気に戻ったらしい。良かった。
「えっなんで?なんで無効化出来るの!?」
ポペードールは焦った様子だ。目に見えて狼狽えていた。
「私全知全能の神だもん」
「それでも可笑しいわよ!私の方が位高いはずなのに!」
「関係あるの?」
「関係あるわよ!序列が上な程能力も強くなるのよ。それだけ強いとなると、高尚ポイントいっぱい貯めたんでしょ!」
「高尚ポイントってなに?」
「あんた何も知らないのね。まぁいいわ、教えてあげるわよ。神や天使は、基本は年功や能力の強さによって位が決まる。それに加えて、高尚ポイントっていう制度に則って進化するのよ。高尚ポイントは、人助けによって溜まる」
知らなかった。この子供みたいな神様も先輩なのだな、とシュナは思った。
宗教によって人の心を救いまくって、仕事もちゃんとこなしていて、全知全能。そんなシュナは、神としての序列がまぁまぁ上なのだ。
「そうなんだ。私ルツェルンとシュウィーツの国教みたいな宗教やってるから、それで貯まったのかも」
「はぁ!?国教!?そんな人間界で有名な神に勝てるわけないじゃん!しかも全知全能だし。あんたふざけてんの!?」
凄い驚かれた。
「神の大概は自分勝手で人助けなんかに興味無いから、高尚ポイントって殆どあってないような制度なのよ」
「へぇー。というか、なんで悪夢見せたの?迷惑だからやめて欲しいんだけど」
「…ちょっと遊び相手が欲しかっただけよ。それに、アンタ最近人間界で調子乗ってるらしいじゃない?それで意地悪したの。宗教やってるのは知ってたけど、まさか国教レベルで有名だなんて。しくったわ」
いじけた様子だ。靴で地面を蹴っていた。
「それに!大体あんたなんなのよー!新人なのに自己紹介もしに来ないじゃない!自己紹介しなさいよ!新人は神集めて会開いて自己紹介すんのよ!」
一気にテンションを上げて反撃してくるポペードール。
なにぃ!?シュナは雷が落ちたような衝撃を受けた。そんな話、聞いてなかった。今まで先神の神々には無意識に無礼を働いていたことになるのか。
聞いた事がないのもそのはず、実際そんな文化はない。神がいちいち挨拶にくるなんて、正直面倒なのである。ポペードールの口から出任せであった。
しかしシュナは騙されてしまった。ポペードールの口から出任せによって、前代未聞の、新神シュナによる神集会が開かれることとなるのだ。
「じゃあ今度集会開こうかな。ポペードールも来てね」
「えぇ、そうしなさい!行ってあげるから」
「あとさ、遊び相手欲しいならなるよ?友達!」
「えっ…なに!アンタ良い奴じゃん!見直したわよ!何かあったら言いなさいよ!力になってあげるわ!」
えっチョロ…?ちょっと引いた。
「え、ありがとう…」
「アンタの家遊びに行ってもいい?」
「いいよ。いつでも遊びに来なよ!」
「お茶くらいなら出すのです」
「わーい!やっぱ良い奴じゃない!」
ということで、一緒に家に戻った。
〜〜~
家に帰った。既に起きていた悪魔の皆に、事情を説明し、ポペードールを紹介する。
「悪魔達じゃない」
「まぁ部下だから…皆良い人だよ」
「別に心配してないわよ…私は悪魔って悪いやつだと思ってないし」
そうなのか。その辺の認識は個神差がありそうだ。
「そういえば、なんで悪魔達には悪戯しなかったの?」
「世界さんに似てるからよ。魔王とか四天王って、どうにも似てるのよね」
「世界さんって誰?」
「地獄の王様よ。黒の神の最下層を担う、トップオブトップ。黒の神と天使は住む階層が低いほど高位なの。知らないだろうから教えてあげるけど、神はその素質によって、黒か白に分けられるのよ。」
「そうなんだ。私はどっちかな?」
「白でしょうね。優しさで人を助けるのは白の神の性質だわ」
「そっか」
「話を続けるわよ。黒の神と天使は悪魔達と似てるけど、悪魔とは違う。悪魔は魔界に住んでいて、黒の神や天使は地獄に住む。優しさだけじゃ天界は統治されない、畏怖を持ってして下から支えるとしたのが世界さん。その畏怖によって地獄を統べているの」
知らないことばかりである。
「世界さんの本名は世元界司。同僚に麗子さんと白越さん、それからアンさんがいるわ。麗子さんと白越さんは両色類で、黒と白両方の性質を持っている。バランスよく天界を統べているの。ゼウスさんも最高神の一柱だけど、創造神じゃないから同僚ではないわね」
「日本人なの?」
「世界を作った後、1度転生して日本人として生きたらしいわ。そこで麗子さんと結婚したそうよ。世界さんの部下の神々も、世界さんに日本語で名前を付けてもらった人が何人かいるわよ」
「そうなんだ。ありがとう、ポペードール」
「ま、新神に師事してあげるのも先輩の役目かなと思ったのよ」
なんだかんだ頼りになる子供である。
「ところで、メアリーが一発殴っただけなんですか?あれ程不眠に悩まされていたのに」
アリトンが不思議そうに聞く。
「しかも友達になってきたのかよ」
オリエンスは少し呆れ気味だ。
「我が主は優しすぎるな」
「確かに、ちょっと甘いわね。もうちょっとこってり絞ってもいい気がするわ」
「えぇー!?そんなことないよー、厳しくしてるよ、多分。でしょ?アスモデウス!」
「いえ…確かにシュナ様は優しすぎる気がしますね。アルマロスの時もそうでしたが」
「えー!アスモデウスまでそんなこと言う」
「ちょっと!!厳しくされたら困るからそういうこと言うのやめなさいよ!!」
「もうちょっと殴るのです?」
ポペードールは焦る。シュナはぶすくれて、ほっぺを膨らませる。悪魔達にはそんなシュナが可愛らしく映った。
「ぶふっ」
オリエンスは吹き出してしまう。
「き、機嫌直してください、主様」
アリトンが慰める。
「別にいいけどさー。メアリーちゃん、殴んないでね。一応友達になったし」
「分かったのです」
メアリーは頷いた。
「ま、挨拶も済んだし、帰るわね。じゃ!」
「うん、またね」
ポペードールは城に帰った。
シュナは友達が1人増えたのであった。




