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サンドラ③

「なぜ貴方が!?」


「話はあとだ。あれくらいで死ぬたまじゃねえんだろ?」


 二人が吹き飛ばされた先を見つめると、瓦礫から起き上がるサンドラの姿があった。


「効いたわ……。次から次へと……人間ってのは徒党を組むから嫌いなのよ」


「それが人の強さだ」


「レイブン、このゴミを殺しなさい!」


 サンドラが叫ぶと、今まで他の人間を襲っていた巨大鴉が人を(ついば)むことを止め、その六本の羽で羽ばたく。

 レイブンのその大きなつぶらな瞳が玉閃を捕らえていた。玉閃はレイブンの相手をするべきか逡巡するも、諦める。


「少しあの鳥の相手をしてくるわ。嬢ちゃん、負けるなよ?」


「当り前よ」


 有希は軽く言うも、その体がボロボロなのは誰が見ても明らかであった。


「すぐに戻る!」


 玉閃はそう言うと、レイブンに襲い掛かっていった。


「一瞬でまた一人になったわね」


「あんたこそ、今まで余裕ぶってたのに鴉なんて呼んで。だいぶん効いてるんじゃない?」


「……すぐ殺してあげる」


 有希は再び槍を周囲に浮かせつつも、槍を手に持ち向かい合う。


『有希。雪原の中心に誘い込んで、一分半そこに留めて? 私は雪に隠れつつ、魔法の詠唱を行う。その後は上空に逃げて欲しい』


 有希の脳内にナナの念話が響き渡る。有希は表情を読まれないように努めると、無言で槍を投擲する。

 投擲に合わせて襲い掛かると、槍を消し剣で斬りかかる。有希の一撃を大剣で受け止めた後、大振りで一閃する。


 有希はそれを後退して回避した後、そのままさりげなく雪原へ後退していく。


「逃がさないわよ!」


 サンドラがそれを追い、お互い雪原に足を踏み入れる。サンドラは大剣を消すと、右手に大量のナイフを取り出す。

 それを慣れた手つきで放つ。有希は鋭い動きで躱すも、ナイフは躱された後も急旋回し有希の背後を負い続ける。


 有希は盾を生み出しナイフを受け止める。


「マジックアイテムよ」


 サンドラは笑うと、右手に双剣を取り出した。その双剣は傷一つ無く、輝くような刀身であったが、どこか妖しさも兼ね備えていた。

 サンドラはその双剣を綺麗な動作で扱っている。どうやら彼女のメイン武器と言えるもののようだ。


 有希は愛槍『グングニル』を握ると、静かにサンドラに近づいた。そして、弾丸のような研ぎ澄まされた突きを放つ。

 サンドラは避けるも、右脇が僅かに貫かれる。有希の目はもはやただサンドラのみを見据えていた。


 サンドラの双剣による振り下ろしを、動作の最初期に突きで妨害する。技の出始めを封じるのだ。

 だが、全ての技を止めることはできない。サンドラによる振り下ろしを槍の柄で受け止める。

 その一撃は重く、有希の足に痛みが走る。有希は槍を回し、剣を受け流すと、サンドラの頭部に突きを放つ。


 サンドラはそれを躱し、双剣を使い目にも止まらぬ連撃を放つ。肩や、腹部を斬られつつも、有希はサンドラの足を貫いた。

 有希はすぐさま槍を抜くと、距離を取る。


「このアマァアアアア!」


 サンドラは叫ぶと、手を上に翳す。すると、有希の上空に巨大な低層ビルが現れる。

 有希は覚悟を決めると、残りの魔力の大部分を使い千を超える武器を空中に生み出した。


千年宝武(ミレニア)


 空中に浮いていた武器がビルを目掛けて矢のように飛んでいく。その一刀一槍の威力の凄まじく、見る見るビルが粉砕されていった。

 数秒後、粉々になったビルの瓦礫の山の上に、堂々と立つ有希の姿があった。


「人の癖に……やるじゃない」


 素直にサンドラは有希に賛辞を贈る。


「だけど魔力を使いすぎたんじゃない? 私はまだ残ってるわよ?」


「そうかもしれないわね。けど、私の出番はもう終わり」


 有希はそう言って、翼を広げ上空に向かう。有希の言葉に僅かに違和感を感じるサンドラ。だが、地面から広がる光がその思考を断ち切った。


「魔法陣!? 誰が!」


 サンドラは本能的に跳ぶももう遅かった。


地獄の氷檻(コキュートス)


 サンドラを囲むように、巨大な牢獄が生まれる。氷で出来たその檻は美しくも恐ろしい。サンドラは宙に浮いたまま、即座に体が凍り付きそのまま氷像となり果てた。

 その威力に有希はごくりと息を呑む。


 ナナは、雪原から顔を出した。


『有希、時間を稼いでくれてありがとう。これはまだ時間がかかるんだ』


「これだけ凄い威力だと、かかりそうね……」


『まだ私じゃ長時間この檻を保てない。じきに溶けると思う』


「大丈夫なの?」


『多分、もう死んでると思う』


 ナナの言葉に驚きつつも、有希は疲れで雪の上に倒れ込む。


「ごめん、英斗。後は頼んだよ」


 有希は英斗を信じているのか、その声に怯えは無かった。

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