サンドラ②
「うぅっ!」
骨がいくつも砕ける鈍い音が響く。黒雷を纏ったその一撃は、有希を十メートル以上吹き飛ばした。有希は地面に叩き付けられると、壊れた人形のように何度も転がりながら倒れ込む。
サンドラは角に魔力を込めると、角から黒い光線を放つ。
その光線は氷壁に当たり爆発する。
「あら、わんちゃんまだ生きてたのね」
襲い掛かるナナに突きを放つサンドラ。その一撃を受けたのはナナでなく、ナナが氷で生み出した偽物である。
『雪崩』
ナナは上空から、一帯を埋める程の大量の雪を生み出した。その膨大な雪がサンドラに襲い掛かる。圧倒的な雪量でサンドラを押しつぶす算段だった。
サンドラは見事に雪崩に巻き込まれ、雪に埋もれた。
ナナはこれだけでサンドラを倒せるとは思っていない。ナナは自らも雪に同化し姿をくらませる。
すると、雪原の中心で爆発が起こる。サンドラの一撃である。苛立った顔で、雪原から体を起こす。
「なんという雪量。腐ってもフェンリルね」
サンドラは苛立ちつつも、周囲を見渡す。だが、ナナの姿は見当たらない。ナナがこの雪原のどこかにいると気付いた時には既にナナが後ろからサンドラの脇腹に噛みついた。
「グウッ! 犬っころがア!」
サンドラは痛みで顔を歪ませつつも、ナナの体に下から掌底を叩きこむ。それにより上空に吹き飛ばされる。
「舐めるな」
サンドラも同時に上に飛び右手をナナに翳すと、三階建ての鉄筋アパートそのものがナナの上部に現れる。
ナナは雪で体を包み、その上に氷盾を生み出し備えるも、突然現れたアパートに叩き潰された。
サンドラは死体を確かめようと動くも、その双眸が何かの動きを捕らえる。有希が最低限の回復を行った後、槍を構えていたのだ。一度奪われた甲冑は再度生み出されている。
「先に殺してやるわ!」
サンドラが、雪に埋もれた足で有希へ迫る。
「あんたも腹の傷は軽傷じゃないでしょう?」
有希は体の傍に三つの槍を追加で生み出し、四本の槍を自在に動かしサンドラに立ち向かう。
サンドラが左手で受け止めた武器は全て消えてしまうことに気付いた有希は左側を中心に攻め立てる。
(その戦い方は正解。だけど、動きが鈍い……。さっきの一撃はまだ相当効いているみたいね。槍の速度が遅い)
サンドラは余裕の笑みを浮かべながら槍を躱す。
サンドラのスキルは「悪魔の狩人」。左手で触れた物の所有権を奪い、自分のみが取り出し可能な異空間『ポケット』に収納する。収納した物は右手からいつでも出すことが可能である。サイズによって出し入れに魔力を消費するため建物の出し入れは大きな負担といえた。
サンドラの『ポケット』には莫大な武器や、建物、財宝が仕舞われている。
サンドラは右手に黒く禍々しい大剣を取り出すと、水平に振るう。有希は槍の柄で受け止めるも、その威力を殺しきれず後退する。
サンドラはすぐさま距離を詰めると、槍を左手で掴む。槍が有希の手から消失する。すぐさま槍を生み出すも、サンドラの左手が鎧を消し、有希の襟首を捕らえる。
(まずい……!)
有希は本能的に命の危険を感じ、背筋が凍る。
完全に間合いに入られた上に、サンドラの右腕は魔力を纏いどす黒く輝いていた。有希が死を覚悟した瞬間、北から僅かから空を斬る音が鳴る。
「赤の竜爪!」
完全に獣化した玉閃が、炎を纏わせた足の爪で蹴りをサンドラに撃ち込んだ。巨大な弾丸のようにサンドラに突き刺さると、そのままサンドラは大きく吹き飛ばされた。
有希は突然の援軍に驚き呆然と玉閃を見つめる。
「よう、嬢ちゃん。助けにきたぜ」
玉閃はそう言って、笑った。
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