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裏切り?

 死王は先ほどの織也の演説を邪魔もせずに聞いていた。


「ハハハ、素晴らしい! リーダーには見えなかったが、中々に人気者らしいな。これは九州の主を決める戦だ。なのにただ鏖殺じゃ面白くなかったんだ。少しは張り合いがでてきたな」


 死王レガシーは骨の手で拍手をしている。


「レガシー様、奴等がこっちに向かってきます。あの男の剣はレガシー様にまで届きます。ご警戒を」


「分かっているさ」


「兵を奴等に向かわせます。俺も出る、行くぞお前ら!」


 がしゃどくろは叫ぶと、部下を連れて英斗達の元へ向かった。


「がしゃどくろが部下を連れてこっちに来ている。このままじゃかちあうな」


「俺が、止める。(とど)めはさせんがな。英斗、お前は死王だけを見ていろ」


 織也が手に魔力を纏わせる。


「……頼んだ」


 互いの距離はどんどん近づいていく。


「お前をレガシー様に近づかせる訳にはいかん! ここで死んで――」


「お前の相手は、俺だ『重力場(グラビティスクエア)十倍(ツェーンマール)』」

 

 襲い掛かるがしゃどくろを、織也が重力で押さえつける。がしゃどくろが、周囲のアンデッドと共に、地面にめり込む。


「ぐうう! これが、重力場か……! おのれえ……」


 威力を強めた重力場の中でも潰れることなく、がしゃどくろは少しずつ動き織也の元へ向かっている。


「しばらく根競べだな」


 織也は不敵に笑った。






 織也を残し、英斗達は先に進む。大量のアンデッドが、英斗達に向かって襲い掛かって来るもその程度では止まらない。

 特に千鶴は今までで一番調子が良いと言ってもいいレベルで、近づく魔物を全て両断していた。


(嫌な予感がしていた気がしたが、力が湧いてくる。これなら!)


 千鶴はその刀で、遮るものを斬り裂いていく。レガシーの姿はそろそろ肉眼で確認できるほど、近づいてきた。だが、近づくにつれ、押し寄せる魔物の量が増え、移動速度も落ちてくる。

 英斗はレガシーの姿をその目で捕らえ、その速度を速める。レガシーも英斗の姿を捕らえたのか、笑っている。


「もうすぐ、届くぞ。死王さんよ」


 英斗は前に出てくれている千鶴や有希を追い越し、先頭に立った。その目はただレガシーのみを見つめていた。それゆえ気付かなった。千鶴の魔力が少しずつ変わっていたことに。

 後ろを共に走っていた有希の魔力が揺らぐ。


「えっ!?」


 有希の小さな声が漏れる。英斗の耳はその声を捕らえ、嫌な予感とともに、後ろに振り向いた。

 そこには千鶴の刀が、有希の鎧を貫き、有希の腹部を貫通していた。


(どういうことだ?)


 理解が追いつかない英斗は、その剣の持ち主の先に目を向ける。そこには、先ほどとは全く違う、目の死んだ千鶴が立っていた。

 明らかに様子がおかしいのは、一目でわかった。


「お母……さん?」


 有希も、突然の出来事に、口から血を吐きながらも疑問の声を出す。

 千鶴は無言で、刀を引き抜くと、有希の首を狙い水平斬りを放つ。英斗は動揺しつつも、体だけはしっかり動いていた。

 その一撃を獄炎刀で受け止めつつも、神力を込めた蹴りを千鶴の腹部に叩き込んだ。


「何やってんだァ!」


 英斗の叫びが周囲に響き渡る。その様子を、レガシーは歪んだ笑みで見つめていた。

 蹴りにより吹き飛ばされた千鶴は、そのまま倒れ込む。英斗は倒れそうな有希を支える。


「大丈夫か!?」


「私は大丈夫……」


 英斗は、ポーションを傷口にかける。先ほどの一撃で内臓を大きく痛めた訳では無いのか、命に別状は無さそうだ。


(一体どういうことなんだ? 操られている? それとも、そもそも別人だったのか?)


 英斗は考えつつも、起き上がる千鶴から目を離さない。

 千鶴の目は元に戻っていたものの、顔は悲しみで歪んでいた。


「わ、私は……何を……。ゆ、有希に、刀を? あ、ああ……」


 目から涙が溢れ、動揺で手が震えていた。自ら指したことが信じられないといった様子である。


「千鶴さん、貴方はいったい?」


 英斗は有希を背に隠し、千鶴を警戒する。

 千鶴は何かに気付いたのか表情を変え、その場にへたり込む。体中が震え、顔が絶望に包まれている。


「そ、そうだ……私は……」


 震えた声で、千鶴は話し出す。

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