戯言
ビルの最上階に戻り、夕食を共にする。
「織也が、大阪ダンジョンタワーを踏破したのか!」
シチューを食べていると、衝撃の事実が告げられる。
「ああ……。なぜか、他の者が踏破したことになっていて驚いた。まあ、どうでもいいんだが」
織也はシチューのルーを飲みながら呟く。本当に興味がないようだ。
「確かに玉閃が、黒フードを被ったソロ探索者だと言っていたな。本当にソロで踏破したのか?」
「俺が、他の人とパーティ組めると、思うか?」
中々説得力のある言葉だ。
「それにしても、ソロ討伐なんてかなり強いようね。レベルは?」
「……九十」
織也は小さな声で返答する。彼なりに、頑張っているようだが、なんせ顔が強張っている。
「うちでは最高レベルだな。そんな君でも、死王は倒せないのか」
「無理……だ。俺は一度死王に敗北し、更なる力を求めるためダンジョンタワーへ向かった。ずいぶんあの頃より強くなったとは、思うが、まず俺の攻撃では、殺せない」
「いかに英斗君が規格外かが分かるな。英斗君、私達で必ず道を作る。君は死王討伐に全力を注いでくれ」
千鶴が英斗に方針を伝える。
「分かっています。一週間後に決着をつけましょう」
英斗は知らない織也に六郎から聞いた情報や、スキルについて話す。
「そんな隠し通路が……。俺もその策に、乗ろう」
「ありがとう。織也のスキルはなんだ?」
「俺のスキルは『重力』。重力を、操るスキルだ。軽くしたり、重くしたりな」
織也が人差し指を上に翳すと、皆の体が宙に浮く。
「おお!」
「逆に、重くしたりもできる」
その言葉と同時に、体全身にとてつもない重力が襲ってくる。この重力の中では満足に動くことも難しいだろう。
「これは、面白いスキルだな。汎用性も高そうだ」
「ああ。良い、スキル」
スキルを褒められて嬉しかったのか織也は小さく笑う。
その後も皆で今後について話し合った後、眠りに着いた。
翌日も皆で森の中を捜索した。英斗は大量の自動人形を生み出し、捜索を命じる。こうなれば人海戦術である。
「便利な能力だな、本当に」
背後から、千鶴から声をかけられる。
「自慢の能力でして」
「そうだろうな。なあ、英斗君」
「どうかしましたか?」
その千鶴の真剣な声色に何かあったのか、と心配になる。
「君は、有希と付き合ってるのかい?」
「ゲホッゲホッ!」
とつぜんの質問に、英斗はせき込む。
「付き合ってなんて、ないですよ……」
「そうなのか。娘の距離が近いから、てっきりそうなのかと……」
「彼女には今までお世話になってはいますが、そういう関係ではないです」
それを聞いて、千鶴は少し考えこむようなそぶりを見せる。
「あの子も、もうすぐ二十歳だから今更口出しなんてするつもりはないが……。娘をよろしく頼むよ」
そう言って、英斗の肩を叩く。
「だから、そういう関係じゃないんですって!」
「なに、ただパーティとしての話だ。少し素直ではないが、中々可愛い子だろう?」
「まあ、それは……そうかもしれませんが」
「ハハ、親バカの戯言として、聞き流してくれ」
英斗が千鶴に翻弄されていると、自動人形から通信がある。
「自動人形から連絡が。何か見つけたようです」
「ほう。向かってみようか」
英斗と千鶴は、自動人形の元へと向かう。





