神魔会議②
咳ばらいをした後、セイルは再度口を開く。
「やられた二人目はカルテット・サバンです。 彼女を討ったのは中国所属の「斉天大聖」王・破浪 (ポーラン)」
再び皆が息をのむ。
「彼女までやられたのか……。我々上級種族に逆らうなんて愚かな奴らだ……。必ず彼等の仇を討つぞ!」
魔人達が人を馬鹿にしながらも、怒りの叫び声をあげる。
「たしかに、人間達は我々より大きく弱い。だが、まれに人を大きく超えたもの『超越者』が生まれることもございます。先ほど挙げた彼等はおそらく、そのレベルにまで達しています。皆さん、油断はしないようにお願いします。アメリカと中国のタワーは多くが既に踏破されています。日本も二基ともタワーが踏破されていますね」
セイルの何気ない言葉に、サンドラともう一人の男に視線が集まる。
『サンドラ、レイモンド、他の踏破された地区担当もそうだが……何をやっている? 踏破される時はお前達が殺された時のはずではないのか?』
メシスが静かに尋ねる。
「仰る通りです……。おめおめと情けなくも生き残ってしまいました。必ず大阪ダンジョンタワーを踏破した男を殺して、捧げてみせます……」
レイモンドと呼ばれた男は、恐れつつもしっかりとメシスの炎を見つめながら答える。その男は作り物のように美しい顔をしていた。腰まである青い長髪もその顔にとても似合っている。
「私も必ずや、踏破者を殺してみせます」
サンドラも同様に答える。
「日本にはまだ『超越者』は生まれておりませんが……中々なルーキーが居るようですね。『創造者』月城英斗と言うそうです。彼がイフリートの討伐を行ったようですね」
司会であるセイルから、英斗の名前が出る。
「人間がイフリートを仕留めるとは……。これ以上成長する前に、叩きますか?」
ある魔人が、メシスに尋ねる。その男は筋骨隆々で髭を生やし、全体的に見目麗しいと言われている魔人達にとっては珍しい容姿をしていた。だが、その強さは言うまでも無く、魔人内でも上位であることが伺える。
「ガーベイル様お待ちください! 私が、必ず踏破者全てを殺して見せます!」
サンドラはその男に、必死で訴える。自分の地区の人間を、他の魔人に仕留めさせるなど大恥もいいところである。それはサンドラのプライドが許さなかった。
『日本には我が宝具もある。それは分かっているな? あれを破壊させるわけにはいかぬ。前々からあれの破壊を考える馬鹿がいることは報告に上がっている。もし破壊でもされようものなら……分かっているな? サンドラ、レイモンド』
「「はっ!」」
『まあ、あの宝具はレガシーに持たせているから心配は要らぬと思うが……これ以上の失態は許さん。肝に銘じておけ』
静かだが、威厳のあるその言葉にサンドラやレイモンドだけでなく、多くの魔人もより一層気を引き締めた。
その後もいくつかの報告があった後、セイルが最後に口を開く。
「それでは本日の神魔会議はこれで閉会とさせて頂きます。次回の開催はまだ未定ですが、皆さんのより一層の飛躍をお祈り申し上げます」
そう言った後、メシスが口を開く。
『確かに人間は脆弱であるが……奴等にはユースティアの加護があることをゆめゆめ忘れるな。だが、以前の世界でも我々は人類を滅ぼした。今回も油断することなく、職務を遂行せよ!』
「「「「「はっ! 必ずこの世界のすべてをメシス様に捧げます!」」」」」
再び全ての魔人がメシスの大火に跪き、礼の姿勢を取る。これにより、小さな島で開催された人類にとっては最悪の会議は幕を下ろす。
皆それぞれの持ち場に戻るために、神殿を出ると羽を生やし旅立つ。レイモンドとサンドラも日本に戻ろうと、腰を上げると、メシスから声がかかる。
『良い報告を期待しているぞ』
その短くも、優しい言葉は二人のやる気を出させるには十分なものであった。
「「はい! 必ず素晴らしい報告をさせていただきます!」」
レイモンドと、サンドラは神殿を出ると、巨大鴉を呼ぶ。
「これからどうするつもりだ?」
レイモンドがサンドラに尋ねる。
「私はレガシーの所へ向かうわ。部下の情報だと、あいつらは九州に向かっているらしいし。魔法具を狙っているに違いない……そこを仕留める」
「そうか。俺も行こう。万が一、魔法具を破壊されたら、俺達は終わりだ」
「足引っ張らないでよね」
「抜かすな」
二人は巨大鴉に乗って、九州へ向かい始めた。





