村人パワー
福岡を出ると、山を越えながらの旅となる。人は全くおらず会うのは獣とアンデッドのみである。
山に敷かれた自動車道はアスファルトが裂け、倒れた木に封鎖されており道としては非常に使い辛いものとなっている。
道なき道を進み、少しずつ佐賀に進んでいる。山の中で夜を越し、早朝に再び行動を開始する。時には草木をかき分けて山を越えた先には、小さな村があった。
小さな盆地には一面の田畑が広がっており、ところどころに木造建築の小さな家が点在している。
山から見下ろすと、ほんのわずかに何か動いていることが確認できる。それが人か魔物かは上から判断できなかったが。
「一度平地に降りましょう? 疲れたわ」
有希の言葉に頷くと、山を下り村へ向かう。村の畑を見ると手入れされており、人が居ることが確認できた。
「死王のアンデッドも、こんな小さな村は狙わないのかね?」
そう言いながら村を歩いていると、静かな村に銃声が響く。
「あっちだ!」
英斗は自分たちが狙われているのか一瞬考えるも、すぐに前方で戦闘が始まっていることに気付く。
全力疾走で向かうとそこには十人程の村人が、百を超えるアンデッドに襲われていた。
「ヤスさん、子供連れて逃げえ!」
痩せぎすで肩の張った大柄な老人が猟銃を持ちながら、近くの老婆に叫ぶ。老婆は背は曲がっているものの、眼光鋭く鍬を持ちアンデッドと懸命に戦っていた。
スキルだろうか、その猟銃で打ち抜かれたアンデッドの頭部が爆発する。榴弾のような物だろう。
その猟銃の慣れた手つきで操り、いくつものアンデッドを爆破する。
「シゲ一人でなんとかできる数じゃなかろうばい! 畑仕事で鍛えたこの体を舐めるんじゃねえ!」
ヤスと呼ばれている老婆は年を感じさせない動きで、アンデッドの首に鍬を打ち付ける。その一撃でアンデッドの首が大きく抉れ、地面に頭が落ちる。
他にも三十代程の男女や、中学生くらいの子供達もみな鎌や武器を持ち、アンデッドに立ち向かっている。
「爺さん達だけに任せるんじゃねえ!」
「後ろのあいつがボスじゃあ!」
ただの村人とは思えないくらいの素晴らしい健闘であるが、なんせ多勢に無勢であった。そして彼等の背には血だらけの女性が、か細い息をしながら仰向けに倒れていた。
「ああああああ!」
だが、その束の間の均衡は、老婆の悲鳴により崩れ去る。老婆が骸骨騎士の凶刃に倒れたのだ。
「婆様!」
それを見た剣を持つ男は大声で叫ぶ。
「どいてろ!」
次の瞬間、英斗は両手に鉄の玉を生み出すとそこから無数の鉄の棘を生み出しアンデッド達を狙う。
鉄の棘はアンデッド達に近づくにつれ枝分かれし、最終的には五十を超える棘となり、アンデッド達の頭部を貫いた。
「誰じゃあ!?」
シゲと呼ばれていた猟銃を持つ老人は、こんな田舎に現れた突然の援軍に驚愕を隠せない。
「味方よ!」
英斗の一撃で半分以上の仲間を失ったアンデッドは、標的を英斗に変える。だが、有希はその隙を与えない。
「私も、派手に行きましょうか!」
その言葉と共に、空中に五十を超える武器が顕在する。その輝く武器は残りのアンデッドを一掃した。
「す、すげえええええ!」
「何者だありゃ!」
突然の強者の登場に男達が感嘆の声を上げる。
「儂らは夢でも見とるんかのう……」
シゲがポツリと呟く。
「なに、まだボケとらんじゃろ……。現実じゃ。神様はまだわしらに生きろと言うとるんじゃ、きっとな」
ヤスは斬られた胸を押さえながら笑った。





