愛の前には些細なことでしかないでしょう?
華頂は棺桶の中から子供を持ち上げると、その首元に齧り付く。
その驚きの行動に、英斗達は一瞬硬直してしまう。
「おいっ! 何やってるんだ!」
英斗は物陰から出ると、大声で叫ぶ。華頂は、反応することも無く、静かに子供を棺桶にしまうと英斗の方を向く。
「おや、月城さん。こんな所で奇遇ですね? 子供達の様子を見に来てくれたのかな?」
と何事も無かったように笑顔で言う。そのあまりの自然さに英斗はさきほどの出来事は夢だったのだろうか、と思う。
「おい、口元にソースがついてるぜ? 真っ赤なやつがよ」
英斗は自分の口元を指でトントンと触れる。華頂の口元は血で真っ赤に染まっていた。そこで華頂は初めて邪悪な笑みを浮かべる。
「これはこれは。お見苦しいところをお見せした。子供は美味しくてね」
口元の血を拭う。
「お前……魔物か?」
「私が魔物かどうかなんて今更些細な事でしょう」
「なら、質問を変えよう。子供を食べるために……お前が殺したのか?」
「貴方達馬鹿は、面白いくらいに踊ってくれましたねぇ。あの男達は私の僕ですよ。残念ながら、貴方に殺されてしまいましたが」
「貴様ァ! 屑野郎が! そんなことがばれて、今後もほおずき会を運営できると思っているのか? もう人が来るぞ」
英斗は、外から人の気配を感じていた。
英斗の言った通り、扉からほむらと玉閃が現れる。
「華頂様、お疲れ様です! おや、英斗さんもいるみたいですねー」
ほむらはのんきに言う。
英斗は華頂を鑑定するも、人としか表示されない。疑問だけが膨らんでいく。
「おい! お前ら二人とも騙されているぞ! こいつは子供を食べていた! おそらく魔物だ!」
英斗の叫びを聞くも、二人から動揺を感じられない。
「騙されるとは、心外だな。鬼灯の花言葉は偽りだよ」
その言葉とともに、華頂の体は変形していく。黒山羊の頭と黒い翼をもつ人型の魔物へ姿を変える。二本の大きな角の間には、松明が灯っている。
『バフォメット
悪魔族。高い知性を持ち、人を操り、時に神として崇拝されることもある。呪いと、炎魔法と得意とする』
姿の変わった華頂を再度鑑定すると、鑑定結果が表示された。なぜかランクが表示されていなかったが。
「やっぱり魔物かよ……! くそっ!」
「あんたが黒幕ね!」
英斗達皆が臨戦態勢をとる。そんな英斗にほむらの巨大な脚が襲い掛かる。
「好きな方が人か、それ以外か。そんなこと愛の前には些細なことでしかないでしょう?」
ほむらはにっこりとほほ笑む。微塵も自分の正義を疑っていない様子である。
「狂信者が……」
「失礼ね。愛も知らない男には分からないでしょうね。それに……あんたたちはもうすぐ死ぬわよ」
英斗の苛立った言葉に、笑いながら返す。その言葉と同時に、三体の魔物がバフォメットの後ろから現れる。その魔力から三体ともS級上位の力を感じとる。
「あの三体……どいつもやばいわよ」
『六対三……少しきついかも』
状況が厳しいのは英斗も感じていた。相手一体一体が強いのだ。だが、ここで引くわけにはいかない。魔物がトップの組織をこのまま放っておくと被害はどこまで広がるか分からないためだ。
英斗は刺し違えても、こいつらと討伐することを決意する。
決意を決めた英斗の顔を見て、高峰も覚悟を決める。
「やるのね……付き合うわ」
『私も……!』
その様子を見ながら玉閃は、プテラノドンに姿を変え空を飛ぶと、その爪で襲い掛かる。
その爪は、バフォメットの後ろに居る魔物を斬り裂いた。
「裏切ったわね! 玉閃!」
ほむらが憎々し気に叫ぶ。
「俺は最初から魔物の手下になった覚えはないぜ! 英斗、俺は高峰商会の者だ! この化物は今必ず仕留めねえと名古屋は終わりだ! だがこの人数差は厳しいぜ」
そう言って、英斗達に背を向け魔物達と対峙する。
「なるほど、共闘って訳だ。なに、商会側にはまだ強い奴がいるだろう?」
英斗はミサイルを生み出し教会の天井を破壊すると、空に打ち上げ花火を放つ。
英斗の突然の行動に、首をかしげる玉閃。だが、謎の地響きと共に現れた少女の姿を見て全てを理解した。
天井に空いた穴から顔を出したのは、アリス。高峰商会のエースである。
「英斗、わしを呼んだか?」
「アリス、あいつが子供達を殺した元凶だ! あの化物を殺して、仇を取るぞ!」
アリスは、明らかに町にそぐわない高ランクの魔物の姿を見て察する。
「あ奴らが、皆を……! 許さぬ!」
怒りの形相で、飛び降りると後ろの魔物に襲い掛かる。
『私も、後ろの魔物を仕留めるから……あいつは任せたよ』
そう言って、ナナも後ろの魔物に飛び掛かる。
有希は槍を生み出すと、ほむらの元へ歩き出す。
「愛するのは勝手だけど、他人に迷惑かけるものじゃないわ? あんたの相手は私がしてあげる」
「私の愛のために死んで?」
ほむらは背中から巨大な八本脚を生み出し、その鎌のような前脚で斬りかかった。





