抗争?
翌日、朝食を食べていた英斗達は黒崎から声をかけられる。
「英斗さん、お願い。貴方のことを知った他の児童園の人が、うちの子供達にも何か遊び道具をあげて欲しいと言ってるの……。勿論断ることもできるんだけど、考えてくれないかしら?」
申し訳なさそうに黒崎が頭を下げる。
「なるほど。まあ確かにそうなってもおかしくはないですねえ……。いつですか?」
「今日」
「中々急な話ですね」
「ナナちゃんや高峰さんのことも知ってたみたいで、皆にも来て欲しいんだって。おねがいできるかしら?」
それを聞いて、英斗はナナと有希にも目を向ける。ナナ達は黙ってうなずく。
「別に構いませんよ。この後行ってきますね」
「ありがとー! やっぱりここだけ色々貰っちゃうと、後々面倒なことになっちゃんです。そのせいで英斗さんには迷惑かけます」
黒崎は何度も頭を下げる。こんな世界でも集団が集まると、しがらみは発生するものらしい。
「最近少し物騒になってますけど、俺達居なくて大丈夫ですか?」
高峰商会との仲は悪化の一途をたどっているため、最近は町全体が少しぴりついた雰囲気を漂わせている。
「代わりに、三人組の探索者の方が来てくれるから大丈夫です!」
どうやら代わりの手配は既にされているようだ。
「英斗兄ちゃん、俺の稽古はー?」
悠が英斗に尋ねる。
「帰って来たらな。少し行ってくるよ」
新たに来た探索者に挨拶をした後、英斗達は第二児童園に向かった。
徒歩二十分の距離のようで、すぐに第二児童園に辿り着く。
予め英斗達の情報を知っていたのか、ナナに大興奮する子供達。
「すげー! でっけー!」
「かわいいー!」
一番人気はやはりナナである。
「私も熊のぬいぐるみが欲しい!」
「俺は盾と剣がいい!」
「僕は絵本!」
様々な要望が大量に寄せられる。武器は却下したが、他の物を順番に生み出す。
「すげえ! 魔法使いみたい! なんでもそれに入ってるの?」
「なんでもじゃあないさ」
子供達はなんでも出てくるバッグに大興奮しながら皆凄い笑顔で喜んでくれる。それを見て、俺のスキルも捨てたものじゃあないな、と英斗も嬉しくなる。
一人一人にプレゼントを渡して終わると、園長である四十歳ほどのふくよかな女性が感謝の言葉を述べる。
「本当に助かるわ。ここでは食べ物は手に入っても、新しいおもちゃなんて手に入らないもの。贅沢かもしれないけど、たまにはこういうご褒美があってもいいと思うわ」
そう言って、何度も頭を下げる。
「いえいえ。こちらもあっちの児童園にはお世話になってますので。ではそろそろお暇しますね」
「お昼くらい食べていかない? お礼もしたいし」
「そうですねえ……」
英斗が悩んでいると、遠くで爆発音が響く。爆発音が聞こえた方向は中心街、児童園のある方向である。ついに抗争が始まったのだろうか。
そちらから黒煙が立っている。英斗は嫌な予感がした。胸の中に黒いヘドロが流れ込んだような、得もわれぬ感覚である。
「すみません。中心街で何かあったのかもしれません。もどります!」
有希とナナも心配そうな顔で頷く。
『私も行く!』
「何かあったのかもしれません。お願いします。こちらは探索者様が常駐してますので、大丈夫ですので」
園長の言葉に甘えて、英斗達は全速力で児童園に戻る。
「皆、無事でいてくれよ……」
英斗は小さく呟いた。





