僻んじゃって
翌日、英斗と子供達がかくれんぼをしていると 園の外からこちらをちらちらと覗いている影がある。
一瞬身構えたが、よくみるとアリスである。
ナナは素直になれないアリスを咥えて、中に連れてくる。
「大きい犬じゃ」
『犬じゃなくて、ナナだよ!』
「なんか聞こえる!?」
ナナの念話に驚くアリス。
「ナナは念話ができるから普通に話せるぞ」
それを聞き、アリスは口を開けてぽかんとしている。
「凄いのじゃ!」
アリスは、ナナに抱き着き、その柔らかい毛並みを堪能している。
「アリスもかくれんぼするか?」
「うむ!」
アリスが来ていることに悠が気付く。
「またアリス来てるー!」
「お前には会いに来ておらん!」
指摘されたアリスが顔を背ける。
「アリスちゃんってとっても強いんだって~?」
アリスのことを知った女の子達がアリスに群がる。
「うむ。わしは特別強いぞ!」
と鼻高々である。普段のアリスはおそらく大人といることが多いのだろう。近い年齢の子と話せて嬉しそうだ。
だが、それを見て面白く無さそうな者が居た。悠である。
「俺の方が強いし!」
そ、それは無理があるんじゃないか!?と英斗は驚く。
「ほう……何レベじゃ?」
「うっ……百だし!」
悠が苦し紛れの嘘を吐く。
「そんなばればれの嘘を吐くでない。わしは七十五じゃ。凄かろう、凄かろう」
と勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「アリスちゃんすごーい! 大人より強いじゃん!」
と周囲の女の子が歓声を上げる。
「なんだよ……! お前なんてただの怪力女だろ! このゴリラ!」
その言葉にショックを受けるアリス。きっ、っと悠を睨みつけた後、目元には涙が溜まり溢れ始める。
「言いすぎよ、悠!」
「アリスちゃん、大丈夫?」
「謝りなさいよ!」
周りの女の子達が悠を責めたてる。
「くそっ!」
悠はそのままどこかに走って門を出て逃亡する。ナナは英斗の方を見る。
「何やってるんだ……」
英斗は頭を掻きつつ、苦笑いをする。だが、このまま放っておくわけにもいかないため、英斗は悠を探し始める。
「あいつ、中々隠れるの上手いな」
英斗は廃ビルなど様々なところは探し、ようやく壊れたコンビニの中で小さく蹲っている悠を発見した。
「探したぞ、悠」
「英斗兄ちゃん……」
その目は少しだけ赤くなっていた。
「何やってんだ、帰るぞ。言いすぎだ」
「俺、嫌われたかな……」
「そうかもな」
「うう……」
悲しそうに、嘆く悠。
「いやならちゃんと謝りな。このままじゃ嫌だろう?」
「うん……。俺も強くなりてえよ。あんな速く動いて、皆を守りたいよ。いつまでも守られてばっかりじゃ……」
アリスの凄さを目の当たりにして、少し焦りもあったのだろう。大人が凄い分には納得もできるだろうが、アリスは同年代。悠も意地を張ってしまったのだ。
「分かった。また暇なときに稽古つけてやるから。謝るぞ」
英斗はそう言うと、外に出て打ち上げ花火を放つ。それを見て、アリスがここまでやってきた。
アリスを見て、どこか気まずそうにする悠。だが、どこか覚悟を決めた顔をして、頭を下げる。
「ごめんなさい! 酷いこと言って。アリスが俺より強くて……俺僻んじゃって……本当にごめんなさい!」
悠は正直に心の内を伝える。それを聞いて、アリスは腕を組む。
「……仕方のない奴じゃ。もうレディーにそんな失礼なことを言ってはいかんぞ」
といって、手刀を頭に決める。
「いてっ!」
どうやらだいぶ手加減をしたようで、悠は頭を抑えるだけで済んだ。
「そんな怪力じゃないじゃろう?」
そう言って、綺麗な顔で笑う。それを見て、悠の顔が真っ赤に染まる。
英斗は、惚れたな?と思いながら二人を微笑ましく見守る。
「青春だねえ」
その言葉を聞き、英斗の方を振り向く悠。
「英斗兄ちゃん、頼んだぞ」
「ああ、また見てやる」
アリスという強大すぎる目標を立てた悠を見て、英斗は心の中で同情していた。
「ふふ、子守りですか~? 東京ダンジョンタワー踏破のリーダーと聞いてたので、もっと狂暴かと思ってましたので驚きです」
そう高く可愛らしい声で声をかけてきたのは、ほおずき会の戦闘の一手を担う美少女、荒久根ほむらである。
「荒久根さん、こんにちは。元々俺は穏やかな性格ですよ」
「そうみたいですねえ」
「パトロールですか?」
「最近は色々荒れてるので、私が見張ってあげてる訳です」
「いやー、皆のために偉いですね」
「いや、皆のためじゃなくて、華頂様のためなんですけどね。これすると、とっても褒めてくれるんですよ~」
そう言って、顔を真っ赤にしながら両手で顔を抑えるほむら。
「本当に華頂さんのことが好きなんですねえ。ここに来る前からの仲と聞いてますよ」
「そうなの! 華頂様は私のヒーローなのよ~! 私は元々神戸の者なんだけど、文明崩壊直後の神戸は本当に荒れててね、私も屑共に襲われそうになったのよ。今の私なら一撃で仕留められるんだけど、当時はスキルの使い方も分からなかったし。もう終わりと思ったら、華頂様が助けてくれたの! 全然似てないんだけど、私には天使に見えたわ!」
ときらきらした目で言う。
「当時から優しかったんですねえ」
「それが最初はぶっきらぼうだったの! 旅をしているうちに段々穏やかになっていって……。最初のぶっきらぼうな華頂様も好きなんだけどね」
「今は穏やかそうですから、想像できませんね」
「私いっつもアプローチしてるのに、中々受け入れてくれないし。けど、だからこそ燃えるんだけど!」
「年の差を気にしているのかもしれませんね」
華頂は三十、四十くらいに見えたが、ほむらはまだ二十歳前だろう。
「確かにすっごく歳離れてるけど、愛があればそんなの全く関係ないと思うのにー!」
英斗はほむらのその情熱に驚いていた。このご時世にここまで恋に全力を注げる人は少ない。素直に称賛していた。
「うまくいくように祈ってますよ」
「ありがと! じゃあまだパトロールの途中だから!」
ほむらは手を振りながら、パトロールのため消えていった。





