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進路は?

「お父様が崩壊前に最後に立ち寄った場所なら知っているでしょう? 最後は日本、それとも海外? あの人は簡単に死ぬような人じゃない」


「お嬢様、もしやお探しになるおつもりですか? そんな遠くまで危険です! もし場所が分かりましたら、報告いたしますので!」


 有希が探すつもりなことに気付いた爺やは大声で止める。


「遠くまで、ということは遠くに居ることは知ってるのよね。もう昔の何もできない頃の私じゃない! 遊びじゃないの!」


「そこの男は何ですか? 貴様がお嬢様を誑かしたのか? 恭一郎様になんの用かは知らんが、そのためにお嬢様に近づくとはいい度胸だ」


 爺やは英斗を睨みつける。


「それは失礼しました。月城英斗と申します。恭一郎さんに伺いたいことがあってここまで参りました。彼女が娘さんだったのは偶然です。DWTプロジェクトについてご存じですか?」


 その言葉を聞いた爺やの顔に動揺の色が浮かぶ。


「貴様、どこでその話を聞いた! 何者だ!」


 爺やは殺気を放ち、剣を握る。


「知っているのですね。私は魔物をこちらに転移する魔法具を探しております。それを破壊して魔物をもうこの世界に呼ばせないために。世界を、昔のような平和な世界にしたいと考えています。そのために恭一郎さんの情報を聞きたいのです。どうか、お力を貸していただけませんか?」


 そう言って、深々と頭を下げる。それを見た爺やはどうしていいか分からないという顔で立ち尽くす。


「彼は信頼できる人よ! 爺やも世界がこのままでいいとは思ってないでしょ?」


「それは別に貴方が考えなくても良いことです」


 爺やは困ったような声で言う。


「うちが、高峰財閥が関わっているのなら他人事じゃないでしょう? この世界を私達でなんとかできるなら、頑張りたい。お願い、爺や」


 有希は強い意志を持った瞳で爺やを見つめる。しばらく黙っていた爺やは、やがて観念したかのように溜息を吐く。


「……仕方ありません。立派な淑女になられましたな、お嬢様。爺やは嬉しいですぞ」


「ありがとう、爺や!」


「恭一郎様は、崩壊前最後の予定地は名古屋でした。子会社の社長との打ち合わせに臨まれていたはずです。あの方なら必ず生きていらっしゃるでしょう……奥方も同じです」


「すみません、ありがとうございます!」


「お前に教えたわけではないわ、小僧! 儂はまだお前を信用などしておらん! お嬢様に教えただけじゃ!」


 頭を下げる英斗に、大人げなく大声を上げる。英斗達が帰ろうとすると、爺やから声がかかる。


「お嬢様をお守りしろよ……英斗とやら」


 その嫌そうな頼み方を聞き、英斗は笑う。


「お任せください」


「ふんっ!」


 英斗達はこうして名古屋に向かう。







「あの爺さん、素直じゃなかったなあー」


「英斗は警戒されてたわね」


 有希は笑いながら、ナナの頭を撫でている。今英斗と有希はナナに乗って移動中である。

 有希はナナに乗っての移動と知ると、いつものクールさを完全に捨て、とろけるような笑顔で飛び跳ねていた。


「ナナちゃんに乗れるなんて……! これだけで名古屋に向かうかいがあったわ」


 弾むような声で言う。


『速いでしょー!』


「本当に速いわ! かわいいし、強いし、完璧……!」


 憧れの車に乗る少年のような喜びようである。


 英斗達は昔は東名高速道路だった道路を走りながら名古屋に向かっていた。宍戸からコピーした紙の地図や標識を頼りに進んでいるものの現在地も曖昧になりつつあった。


「ここどこなんだろうなあ」


「神奈川県じゃない? ここまで道が崩れてちゃたどり着くまではしばらくかかりそうねえ」


 崩れた道は、ナナを背負って飛んでの移動である。途中野盗に出くわすことも多い。特に美しい有希を見ると男達は、舌なめずりをしながら襲い掛かってきた。全員有希に斬られていたが。


 結局英斗達が名古屋に辿り着くのは旅を始めて三日後のことであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな世の中じゃ財閥当主の娘なんて肩書きは欠片も意味が無いのにね。爺さん拘りすぎだわ。
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