悪女?
「あら、私より先に人が居るなんて」
そう言ったのは、綺麗な黒髪を腰まで伸ばしている美少女であった。そして、英斗は彼女を見た覚えがあった。
その後ろにはもう1人40代程の女性が居た。
「君は、確か……高峰さん?」
そこに現れたのは、文明崩壊直後に会った少女高峰有希であった。あれ以来一度も会っていなかったがこんなところで会う事になるとは思ってもいなかった。
「貴方は……石生成のスキル持ちの人ね」
英斗は高峰の言葉を聞き、少し動揺する。あの頃はスキルを隠していたからだ。
「そ、そうだよ」
「そんなスキルでギルドマスターになれると思えないんだけど……」
と疑いの眼差しでみられる。
「ま、まあ……嘘も方便と言いますか……」
嘘を吐いたのは事実なので、気まずくて目を逸らす。
「やっぱり嘘だったのね。酷い人」
高峰はそう言うと、大きく顔を逸らして奥の席に行った。それを見ていた宍戸が耳元で言う。
「英斗さん、高峰さんとお知り合いなんですか? 彼女、中央ギルドのギルドマスターですよ!?」
「そうなの!? まあ俺と会った時から強かったから納得だけど。そう言えば、結構前に新聞に載ってた気がするな」
「そうです、戦姫と呼ばれるカリスマですよ。あの可憐なルックスと派手な戦闘スタイルで中央区で彼女を知らない者はいない程です」
「スキルは『槍術』って聞いてたけど、そんな派手かね?」
英斗は疑問を持つ。
「『槍術』? 彼女のスキルの詳細は知りませんが、空中から無数の武器を生み出し、その武器を使い縦横無尽に飛び周りながら戦っていましたよ」
英斗は、彼女も嘘をついていたことに気付く。やはり少なくとも『槍術』ではない。高峰の方を見ると、にやりと笑いながらこちらを見ていた。
「あいつ……。自分も嘘ついてんじゃねえか……」
英斗は呆れながらも、高峰を責めれなかった。その後しばらく沈黙が流れた後、再び扉が開く。そこに現れたのは、真面目そうな男であった。四十歳を超えているが、見た目はまだ若いナイスミドルと言う言葉が似合いそうな男だ。
その後も多くの人が入って来る。見知った顔である台東区ギルドマスターのレオと、中野区ギルドマスターの榊もやってきた。先ほど入ってきた男が挨拶をする。
「本日は多忙な中集まってくれて感謝する。千代田ギルドマスターの妻夫木忠正だ。正午には始めるためそれまでは自由にしていてくれ」
そう言って、妻夫木は頭を下げる。榊の横には亀井が居た。亀井は英斗を見つけるとこちらにやって来る。
「久しぶりだな、月城さん。月城さんのお陰で命を救われた。ずっとお礼が言いたかったんだ、本当にありがとう」
そう言って、亀井は深々と頭を下げる。
「いやいや、ご無事で何よりです」
「あのスタンピードの時、月城さんのポーション、そして手紙が無ければきっと死んでいた」
「もしそれで助かったのなら、亀井さんが中野ギルドと良い関係を築けていたから助かったんですよ。中野ギルドでも頑張っていると聞いてます。今日も顔が見れて良かった」
英斗は、亀井が中野ギルドに段々馴染んでいっていることを風の噂で聞いていた。
「なにかあったら、必ず力になる。言ってくれ」
亀井は真剣な顔で言う。その言葉が嬉しかった。
「ありがとうございます」
英斗も頭を下げると、榊もやってくる。
「月城さん、久しぶりですね。お元気そうで何よりです。この間魔物の群れと命がけで戦ったばかりなのに、またこれですね」
と苦笑交じりに榊は言った。
「本当に……。このままじゃ本当にあのスタンピードの再来になります。何か対策を練らないと」
英斗は溜息がちに言う。そこにレオもやってくる。
「月城さん、久しぶりだな。無事に戻ってこれたようでなによりだ」
「レオさんのホルミスの指輪のお陰でなんとかなりました。ありがとうございます」
「なに、役に立ったなら良かったよ」
そう言って握手を交わす。既にマスター同士が顔見知りなのが珍しいのか、他のマスター達の目線が集まる。
すると、一人の美女がこちらにやってきた。胸元の空いた綺麗な真っ赤なドレスを身に纏い、こんな世界になってでも手入れを欠かしていないのだろう、ウエーブのかかった艶のある金髪を靡かせている。年齢は20歳ほど、陶器のような綺麗な白い肌に、真っ赤な口紅を唇に塗った美人である。
周りには二人の男がボディーガードのように立っている。
「楽しそうにお喋りしているわね。私も混ぜてくれないかしら?」
優しく、艶のある声で言う。
「初めまして、杉並ギルドマスターの月城英斗です。どうぞよろしく」
「新宿ギルドマスターの天笠レミナよ、よろしくね」
レミナはそう言うと、英斗の手を握り、顔を英斗の顔に近づける。目があった瞬間、何か違和感を感じた。とっさに右手で自らの太腿をつねる。その痛みにより、先ほどの違和感が消える。
「あら、残念。ふふ、また遊びましょう」
レミナはそう言うと、英斗から遠い席に向かって歩いて行った。間にいる二人の男は、英斗を睨みながら去っていく。英斗は、レミナにスキルで何かされたように感じた。はっきりとは分からなかったが、謎の何かを……。
「あれはいったい」
レオは首をかしげる。その様子を見て、宍戸が言う。
「彼女の後ろに立っていた男性、前ギルドマスターですよ。確か八重樫さんです。いつの間に代わったんでしょう。八重樫さんはプライドが高いと聞いてましたが……」
人の下に付くような人ではない、と宍戸は疑問を持つ。
「良く分かりませんが……危険な女性であることは確かですよ……」
英斗は、疑惑の目をレミナに向けていた。レミナはにっこりとほほ笑んでいる。どうやら皆一筋縄ではいかぬ者達のようだ。





