第九十一話・平穏無事? 寄らば大樹の陰(飛行のライセンス)
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前略。
妖魔特区の内部はすっかり変わりました。
この一ヶ月で、ジャングルのように植生が変化し、奇妙な生物があちこちを徘徊しています。
高層ビル郡は、突然時間が進んだかのように風化劣化し、ある建物は崩れ落ち、またあるものは巨大な植物に取り込まれたかのように、その姿を変貌させてしまいました。
それでも、俺の作った対妖魔結界に守られた北海道庁、札幌市役所、そしてティロ・フィナーレはその姿を風化させることなく、まるで妖魔特区最後の砦のように佇んでいます。
………
……
…
『大通り12丁目ゲート区画』が切り取られたかのように文明が残っているのに対して、妖魔特区内は大自然そのもの。
俺と祐太郎、新山さん、瀬川先輩の四人は、要先生に頼まれて『大通り12丁目ゲート区画』にやって来た。
内部調査じゃなく、ゲート区画から見た感じで構わないので何かわかったことがあったら教えて欲しいって。
「……まさか、ここまで変化しているとはねぇ」
「乙葉君、実はこの大規模変化は妖魔特区だけじゃないのよ? 実は妖魔特区の外周障壁の外も、少しずつ変化し始めているのよ」
「「 な、なんだって‼︎ 」」
うん。
今年最初のギバヤシは良い。
でも瀬川先輩は椅子を出してすぐに深淵の書庫を展開、そこに付き従うように新山さんが横で一緒にモニターを見ている。
「先輩、何かわかりますか?」
「地球型植生ではないわね。植物図鑑にも動物図鑑にも当てはまるものがないって言うことは分かったわ」
「築地君の鑑定眼で分かりますか?」
「やってみるか」
お、祐太郎が結界ギリギリに立って、中の植物を調べている。
「ユータロ、分かるのか?」
「ツタ植物だったり、食虫植物だったり。個体名は流石に鑑定できないのが辛いわ」
「どれどれ。ツタ植物は『キラーホイップ』、食虫植物は『ハングリーメイト』だな。あの蔦は人間に巻きついてから寄生するタイプだ」
「流石だよなぁ。サーチゴーグルの鑑定じゃ、固有名詞とかは出てこないんだよ」
ふむふむ。
俺のは自前の鑑定眼だからね。
固有名詞どころか、シークレットデータも思いのままさ。
「先輩の方はどうですか?」
「深淵の書庫の解析有効半径のデータは収めたわ。けれど、奥の方はどうなのかわからないから」
「中に入って調べるのが一番なんですけど、危険ですから入りたくないのですよ」
「そうだなぁ。流石に妖魔が蔓延る区画だからなぁ。中に入るのは危険だわさ」
「それじゃあ、これで調査は終わりということで良い?」
後ろでどこかのお偉いさんと話をしている要先生に問いかける。
うん、そこにあるのは外務省とか防衛省の役人さんだよね、俺知ってる。
「これで調査を終わらせるだと? 何を考えているんだ君たちは?」
「植物や動物のサンプルを何も回収していないではないか、それで調査完了とはよく言ったものだな‼︎」
──イラッ!
「これだから常識を知らない高校生は。良いかな、一度引き受けた仕事は何がなんでもやり通したまえ、そんな事では社会に出てから通用しないぞ‼︎」
「分かったら、とっとと中に入りたまえ‼︎」
──イライラッ‼︎
「要君、君は内閣府から派遣されてきたのだろう? この子供たちの手綱をしっかりと握らなくてどうする‼︎」
「これだから第六課は使えないと言われるのだよ? いっそ、君たちの所有している退魔法具を全て特戦自衛隊で回収した方が良いのかもしれませんなぁ」
──プチン!!!!
「ええっと。俺たちの依頼されたことは、この妖魔特区の12丁目ゲート区画での視認調査ですが。そう書類には書いてありましたが?」
「調査なら内部まで入って徹底的にやるべきでは? 相手は妖魔なのだぞ? いつ我々人類に対して敵対するかも知れんのだ、それが君たちはわかっていないのか?」
──パンパン‼︎
もう限界……かと思った時。
要先生が、思わず手を叩いちゃってるよ。
「はいはーい。全員撤収‼︎ 君たちにお願いした部分については全て終わったので、ここから先は『特戦自衛隊』の任務になります。私たちは民間協力者として許されている部分を遂行しましたので」
ああっ、要先生の目がマジオコ状態だ。
「あとは……『大金もらっているくせに幹部連中は椅子に座ってふんぞりがえって、ただ部下たちに命令して良い結果だけを自分たちの手柄にしている防衛省幹部の皆さん』にお任せしましょう」
「か、要君なんだその言い分は! 私たちを誰だと思っているんだ?」
「椅子に座ってふんぞり返っている偉いだけの議員さんの腰巾着ですよね? 私は第六課所属の『退魔官』ですが、同時にこの子たちの教師でもありますので。それでは失礼します」
軽く一礼して俺たちの元にやってくる要先生。
そして役人さんたちが何か叫んであるのを全て無視して、俺たちは妖魔特区を後にした。
………
……
…
「あの、あそこで啖呵切って大丈夫なのですか?」
新山さんが心配そうに要先生に話しかけているが、先生はなんだかスッキリした顔。
「良いの良いの。妖魔特区外には特戦自衛隊の車輌が大量に待機していたでしょ? あれは特戦自衛隊が任務で待機しているのよ。今日の18時の時点で私たちが調査による成果を出せなかった場合、彼らが突入してサンプル採取を行うのよ」
「……だから、俺たちにとっとと回収してこいって騒いでいたのか」
「それで、俺たちから回収したサンプルの手柄は、あの場の現場指揮官のものか。ろくなもんじゃないな」
やっぱり政治家にはろくな奴がいないわ。
妖魔等関連法案が可決されてからは、特に妖魔によって利権を得ていた議員たちの反対が大きくなっている。
それでも妖魔にとっては、まだ俺たちの世界は住みにくい世界であることに変わりはない。
表立って自分が妖魔だって宣言した人魔もそこそこにいる。
けれど、そういう人たちはそれまで培ってきた『静かな平和』と引き換えに、『危険な隣人』というレッテルを貼られてしまった。
中には、妖魔としての力を有効活用して人間たちに受け入れられている人魔もある。
妖魔だ人間だなどと騒いでいるけど、これって人種差別の延長のように見え始めている。
受け入れることができるかどうか、ただそれだけなんだけどなぁ。
「さて、それじゃあ今日はこれで解散で。報酬は指定口座に振り込んでおくからね」
「「「「 はい‼︎ 」」」」
あ〜駄目だダメだ。
から元気で返事したけど気分がネガティブだわ。
とっとと帰ってのんびりするに限る。
「オトヤン、カラオケ行くか‼︎」
「乗った。新山さんたちも行く?」
「行きます‼︎」
「カラオケでは、乙葉君のチート能力も発揮されないから良いわよ」
甘いぞ先輩。
俺のスキル『一般生活・全般』にはカラオケも含まれているのだよ‼︎
それじゃぁ、俺の歌を聞けぇぇぇ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日、日曜日。
早朝から、我が家に来客あり。
──ピンポーン
朝食を食べているところにやってきたのは、忍冬師範でした。
「うっす、こんな早くに何があったのですか? 妖魔の襲撃?」
「それは昨日の特戦自衛隊だな。彼らも妖魔特区の中で地獄を見てきたところだよ。今日は届け物を持ってきたんだ」
大きな荷物が後ろに置いてある。
よし、それじゃあ忍冬師範も朝ごはんをどうぞ。
トーストとベーコンエッグ、サラダにきんぴら牛蒡、あとは搾りたてフレッシュジュースで宜しければ。
「美味い……これは何処のベーコンですか?」
「浩介、何処産だった?」
「異世界カナンの肉屋の手作りだよ。卵はラフィンバードとか言うやつだって。冒険者に依頼して朝イチで回収してもらったやつらしいから、鮮度は抜群だってさ」
「……検疫……いや、浩介のやることを気にしていたらダメか。その異世界カナンに、浩介はいけるのか?」
「行けるなら、とっくに出かけてきているよ。全て魔法陣による錬成だよ」
危ねぇ。
親父たちも、異世界の食材は俺が錬成しているって説明しているの忘れていたわ。
朝はどうも思考が緩くなるなぁ。
そして朝食を食べ終えてから、ようやく本題。
俺が本題を後にして忍冬師範に朝食を勧めたんだけどね。
……
…
「今日は、これを渡しにきたんだ。祐太郎には私から手渡しておくから、これを瀬川さんと新山さんにも渡して欲しい」
俺のを含めて、大きな袋が三つ。
確認するのに中身を出すと、自動車教習所で貰うみたいな教本と書類が収められている。
「これは?」
「魔法の箒の使用許可申請書類一式だ。必要事項を記入して最寄りの国家公安委員会に提出、その場で筆記試験があるから勉強はしておくように」
「へ?」
「へ? じゃない。祐太郎から相談を受けていてな、ようやく法案の隙間を縫って捻じ込んで来たんだ。これが許可されたら、公道での魔法の箒の運転免許が申請されるからな」
は、はあ?
祐太郎、いつの間にこんなことを。
いや、俺も前から考えていてんだけどさ、話をねじ込む相手がいなかったんだよ。
その点を考えると、祐太郎なら忍冬師範や親父さんにはなしができるから、そこから話が流れたんだろうなぁ。
「感謝します、これで堂々と空を飛べるぞ」
「まだ受かっていないから安心するな。自信がついた段階で受験申請をすれば良いさ。実技講習もあるから、しっかりと受けるように。それじゃあ失礼します」
「はい、ありがとうございました‼︎」
なんとまあ、これはすぐにlinesで連絡した方がいいよね。
そして連絡した2時間後、午前11時には祐太郎の家に全員集合となりました。
──ドサッ‼︎
「あの、これが話にあった試験問題ですか?」
「基本的には、原付免許試験の内容と同じですね。車道を走ることを前提にした試験かと思われますね」
ふむふむ、そうなると一筋縄ではいかないか。
少し真面目に勉強しますか。
「あら? 私は原付免許を持っているので、申請と講習、実技講習で終わりですわね」
「え? 先輩、いつのまに免許を取ったのですか?」
「今年の頭ですね。予め勉強はしていましたし、手稲の運転免許試験場で一発でしたわよ」
なんと恐るべし先輩。
それじゃあ、分からないところは先輩に聞くとして、今日からは時間のある時は免許申請のための勉強会をすることになった。
因みに午後からは祐太郎の家の庭で、魔法の箒と魔法の絨毯の実技練習。
カラーコーンを使ってコースを作り、そこを飛ぶ練習をしたんだよ。
なにやらサイン入りのカラーコーンがあったけど、敢えて質問はしないよ、祐太郎が聞いて欲しそうにウズウズしているけどパスだ‼︎
三日間の詰め込み勉強ののち、全員で北海道公安委員会に書類を提出、その日の午後に試験。
翌日の実技講習を経て、俺たちは免許証を習得したよ。
『小型特殊免許』で、条件等に『魔法の箒、魔法の絨毯に限る』って表記されている。
原付とは言い難く、かと言って16歳で普通免許は無理なので、分類的には小型特殊で条件等で制限をつけることにしたらしい。
そして裏面には、『高度149m以下での飛行のみ許可する、許可番号……』と、ドローンと同じ扱いでの飛行許可まで記されている。
本当なら、専用の免許証を発行するのだけど、前例がなく対応が難しいので、今回はこのような許可となったらしい。
「……それで、これがナンバープレートですか」
「はい。魔法の箒もしくは魔法の絨毯の後ろ側にぶら下げるか固定してくださいね。方向指示器とライトの設置義務もありますけど、それは魔法で問題ありませんので」
公安委員会の受付で、俺たちは免許証とナンバープレートを交付された。
外に出て自分たちの箒や絨毯を取り出すと、俺がそれぞれの箒に魔法でナンバープレートをロックする。
その光景を一眼見ようと、警察官や事務員たちが集まってくるけど気にしない。
「これでよし。それじゃあ、はじめての公道での飛行、楽しみながら帰りますか」
「そうだな。それじゃあ、ありがとうございました」
「「「 ありがとうございました 」」」
全員で集まった警察官たちに頭を下げて、それじゃあ始めてのツーリングと行きますか‼︎
……
…
そして、俺たちが免許を取ったのを何処で聞きつけたのか、後ろから取材のクルマが追いかけてくる。
まあ、無視。
高度を上げて、そのまま行動上空を飛行する。
「今の高度が10mなので、最高速度は60kmか」
「高度による最高速度の変化っていうのが、まだ覚えきれていないけどなんとかするか」
「魔法で、その辺りのシステム的な部分は登録できないのかしら?」
「やってみないとわかりませんが、調べてみますか……って、新山さん、大丈夫?」
ふと気がつくと、新山さんは真剣な目で正面を睨んでいる。
「だ、大丈夫です。まだこの高度に慣れていないだけですから」
「東京に行った時は、楽々飛んでいたのに?」
「街の中と何もない空では感覚が違いすぎて……」
そうだよなぁ。
まあ、その辺りは慣れてもらうしかないか。
電線に引っかかって事故にあったら大変だからね。
そんなこんなで途中で別れ、皆帰路につく。
許可をもらっての初飛行、そりゃあ精神的に疲れるだろうから。
俺は早速高度計と速度計の術式を組み立てて、カナン魔導商会から購入した魔晶石に術式を組み込んで『速度・高度計』を仕上げると、それを量産化してゆっくりと休むことにした。
意外と、街中を飛ぶのって疲れるみたいだね。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




