第八十九話・呵呵大笑を以て、貴しとなす(日常の裏では、相変わらずの国会議員たち)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
明日は北海道から東京へGO。
その前に、やらなければならないことが、男にはある。いや、男でなくても学生ならあるんだけどね。
そう。
冬休みの宿題。
夏休みよりも短いので、提出物が少ないから、それほど時間は掛からない。
それならばと言うことで、俺と祐太郎、新山さんの三人で一緒に終わらせることにしたんだよ。
昔から、一人より二人がいいさ、二人より三人がっていうだろ?
「成る程ねぇ、魔力と闘気と妖気の違いかぁ」
「そう言うこと。羅睺さんの話では、それぞれがジャンケンみたいになっているらしくてな、それ以上は羅睺さんは教えてくれなかったわ。オトヤン、何かわかるか?」
ふむ。
ジャンケンの必勝法だよなぁ。
相手が魔力なら妖力が上。
相手が妖力なら闘気が上。
相手が闘気なら魔力が上。
実に、さんすくみの状態である。
そして魔族、つまり妖魔の使う攻撃パターンは物理か妖力がベース、魔術師系は魔力。
獣人族は闘気か魔力が攻撃のベースにあるらしい。
「ユータロは闘気が使えるから、妖魔の攻撃は防ぎやすく、魔力攻撃に弱いのか。それで、俺が魔力ベースだから闘気は防ぎやすく妖力攻撃に弱いと」
「そう言うこと。相手が妖魔なら、実はオトヤンの魔法は威力が減衰しているんじゃないか?」
ん〜。
有り余る魔力で捩じ伏せてきたからなぁ。
そう言われても、比較対象がないんだよなぁ。
「あ、あのですね? なんで二人は雑談をしながらスラスラとテキストを進められるの?」
「「 天才だから? 」」
「……はぁ。元々頭のいい築地君は兎も角、乙葉君はスキルよね?」
「そうだよ。と言うことで、本日はこんなこともあろうかと、ご用意しておきました。『学力増進メガネ』〜」
はい、スキルオーブで俺の所持している『学業エキスパート』を付与した魔導具を今朝方作ってきたのよ。
「ほい、これを貸してあげよう」
「これって、つけると頭が良くなるの?」
「頭が良くなると言うよりは、回転効率が高くなる?」
そう説明してから、新山さんは眼鏡をかけてテキストを見る。
「うん、考えて理解するまでの時間の短縮っていうところかな? さっきまで分からなかった部分も、じわじわとわかってくる」
「でしょ? そんじゃ全力でよろしく。俺はお昼ご飯作ってくるから」
ぶっちゃけるとだね、俺の宿題はもう殆ど終わらせてあるんだよ。
多分だけど祐太郎もね。
今日は新山さんの力の底上げと、俺の耐性強化についての話がしたかったんだよね。
新山さんに渡したメガネは、これからもきっと役に立つだろうけど、あげるって渡しても遠慮されるのがわかっているからね。
だから貸し出し。
「さて、今日の昼ごはんは炒飯‼︎」
予め用意した、オーク肉のチャーシューとスプリンターオニオン、それとカナン魔導商会で新しく発売されたらしい『ハーメルンバード』っていう鳥の卵。
調味料は日本のものを使うけど、炒飯にとって何よりも大切なのは米。
そう、カナン魔導商会から米を買いましたよ。
『カナン米』っていう名前から察するに、カナンって街か国の名前なんだろうなぁ。
一度行ってみたいよなぁと思うけどさ、こっちのゴタゴタが一段落しないと手を出せないし、何より転移魔法なんて無いからなぁ。
「あ……そもそも転移魔法なんて調べたことないわ。まあ、それは後で考えるとしますか」
──ジャーン‼︎
取り出しましたる『ミスリル中華鍋』。
実はこれ、カナン魔導商会の『装飾品』の特価品メニューにあったんだよ。
恐らくだけど、入手したのはいいものの使い方がわからなくて特価品に適当に並べたんだろうな。
「まずは、ミスリル鍋を加熱して油を回します」
加熱します。
加熱。
加熱しろ?
え? 全く熱くならないんだけど、何これ?
慌てて、ミスリル中華鍋を鑑定したさ。
『ピッ……サムソナイア・ミスリル北京鍋。名工サムソナイアが作りし、異世界の鍋をモチーフにした壁飾り。耐熱性に優れているミスリル鋼を使用し、ドラゴンブレス程度では融解することはない』
ほほう。
これは横に置いておいて、普通のフライパンで作ることにするか。
なんでミスリルで中華鍋作ったんだよ? サムソナイアってアホなの?
「ま、まあ、気を取り直して、それじゃあ始めますか……まずは鍋を熱して卵を炒めて〜」
そんなこんなで炒飯の出来上がり。
え? 作る工程を知りたいの?
炒飯の作り方なんて、goggleでググればいくらでも出るよね? 俺のは材料が一味違うだけだから。
なお、分かってはいたけれど、向こうの世界の食材を使った料理って、こっちの世界の星5つは軽く超えちゃうんだよね。
結果としては、今日の午後はまともに宿題なんてできなくなり、続きは来年になってからということで話はついた。
まあ、そのあとはのんびりと魔法の話や耐性ジャンケンの考察なんかで時間が経ったんだけどね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京都新宿区市ヶ谷。
防衛省市ヶ谷本庁では、特戦自衛隊幹部による臨時会議が行われているところであった。
「……ヘキサグラムが妖魔に敗北した。それは良い、あいつらは自分たちこそ至高の存在みたいな顔をしていたから、少しは痛い目を見て、そのエリート意識を根底から改善して欲しかったからな」
「問題はそのあとだよ。機械化兵士の回収はやむを得ないと理解している。キャリアーに運ばれてしまった時点では、我々はどうすることもできない」
先日の国際妖魔評議会の視察時に起こった、ヘキサグラムの独断行動。
そして妖魔特区内での戦闘と、その敗北。
全てが映像として明るみになった。
問題なのは、ヘキサグラムと比較された特戦自衛隊の存在意義。
アメリゴの知恵を結集したヘキサグラムでさえ、妖魔相手に完全なる敗北を喫したのである。
ならば、日本が誇る特戦自衛隊は、妖魔に勝つことができるのか?
現時点での、特戦自衛隊の対妖魔戦出動要請は0。
これは、事件が起こっていないからではない。
事件が起こったのち、まず先に内閣府国家公安委員会所属『第6課』が緊急出動し、妖魔を駆除している。
防衛省管轄である特戦自衛隊は、出動要請が出てからのタイムラグが大きすぎるのである。
それに、対妖魔兵器の保有量が桁違いに違う。
第六課は、元々所持していた退魔法具に加えて、妖魔特区が発生したときに『現代の魔術師』からミスリル製武具を購入している。
魔法金属ミスリルは、この世界中何処を探しても、存在するのはたった一箇所だけ。
イングランド、それも閉ざされた魔法区画『アバロン』のみ。
魔術が完全に失われてしまった現代では、このアバロンからごく少量のみ採取できるミスリルは、対妖魔兵器としては格段に優秀な金属である。
何よりも、妖魔の肉体に傷をつけられるのである。
妖魔は実体化しても対物理攻撃特性は残っているため、魔術及び退魔法具以外ではかすり傷一つつけることなどできない。
それを行えるのがミスリルであり、イングランドはミスリル採掘によって他の先進国に遅れを取らないのである。
だが。
その殆どが自国内で消費されており、技術提携をしているヘキサグラムとイングランドの『英国騎士団』以外ではミスリルを手に入れることなど不可能に近い。
「何故だ、どうして第六課はあのような大量のミスリル兵器を持っているんだ? 乙葉浩介は、あのミスリルをどこから手に入れているんだ?」
乙葉浩介謹製ミスリルのロングソード。
イングランド型ミスリルソードは、切断面にミスリルをコーティングしてあるのに対して、乙葉のは刀身全てがミスリル。
粉末化したら、一振りの乙葉型ミスリルソードで、イングランド型が100振りは作ることができる。
「わ、分かりません。乙葉浩介の渡航履歴でも、彼が諸外国に行った形跡はありませんし、国内でも東京や横浜近辺に旅行に出かけた情報しかありません」
「そもそも、彼は自分でミスリルを作り出すことができるのではないのですか?」
「そんなことができる人間が存在するのか? 乙葉浩介は妖魔じゃないのか?」
閣僚の一人が声を上げて叫ぶ。
それを傍で聞いていた川端政務官が、チラリと視線を横にずらす。
そこでは、静かに話を聞いていた人魔・陣内が頭を左右に振っている。
「彼は人間です。どのようにして調べたかについては詳しくご説明できませんが、彼は魔術師となり、自らの力でミスリルを生み出しています」
川端が手を挙げて発言すると、またも会議室はざわめきたった。
「そ、それならば、彼の身柄を拘束してでも、我々日本政府に対して協力させるべきではないのか?」
「あの忌々しい結界のおかげで、どれだけの予算が北海道に割り振りなおされたと思っている?」
「既に、来年度予算案では対妖魔対策費がかなり組み込まれているのだぞ? そんなところに回す予算があるのなら、特戦自衛隊の予算を増やして欲しいものだ」
口を開ければやれ予算だなんだ。
ここにいる閣僚の中で、いったいどれだけの人が本気で日本の対妖魔戦略を考えているのか。
川端政務官は苦々しい顔をしつつ、手を挙げる。
「それではどうしますか? 先のヘキサグラムの暴走、その結果露見された妖魔の脅威。人と妖魔との共存を政府は提唱していますが、未だ手を取り合うどころか、妖魔の凶悪さが表に出ただけです」
「だからこそ、一刻も早く妖魔特区を解放してだね、あの場に居合わせた妖魔を殲滅する必要があるのだよ? 川端君、乙葉浩介の件で君は失態を犯したじゃないか?」
だからなんですか?
私はですね、貴方達のように机上の空論を続けて時間を潰し日和見している訳ではないのですよ?
寧ろ、乙葉浩介を必要と感じているからこそ、私は動いたのですよ?
「まあ、その話はよしましょう。それでみなさんは、あの妖魔特区を解放するのですか? 妖魔の脅威が知れ渡った現在、彼処を解放しようとしている派閥は叩かれまくっているのですよ?」
寧ろ、凶悪な妖魔を収監する『妖魔収監所』として使った方がいいという意見も出てきている。
私としても、そちらの方が有効活用できると信じているから、妖魔特区解放については『今』は反対である。
「そこだ、そこだよ君。そこで乙葉浩介の出番だよ。彼が防衛省特戦自衛隊に任官して、妖魔を殲滅すれば、我々の風向きも変わるだろうが?」
「それだけではない。報告書には小さくしか書かれていなかったが、新山小春とかいう娘の力も必要だ。魔法でどんな傷も治せるなど、神の奇跡以外なんでもないと人は信じているだろうからな」
「プロパガンダとしても十分だ。それにだね、知り合いから『彼女に病気を癒してほしい』という声が届いてだね」
「ええ。私どもとしても、彼女にはより多くの人を助けてほしいのだよ」
ちっ。
このハイエナ共、あの娘にまで目をつけたのかよ。
しかし、あの件はヘキサグラム内部で処理されていて、外には出てきていないはずなんだが。
まあ、何処かで話し合いでもしたんだろうな。
「彼女の件も、乙葉浩介と同じく慎重に対応した方が宜しいかと思いますが」
「分かっていない。川端君、君は何も分かっていない。今は時間が足りない、急いで対応しなくてはならないことが多すぎるのだよ……まあいい、新山小春の件はこちらでも手を回してあるから」
なんだと?
こいつら、いつの間に。
あの小僧も娘も、俺の手駒になるんだぞ?
貴様ら太った豚共には、匙一つ分の益すら譲る気はないからな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ふぁぁぁぁ。よく寝たわ」
天気、雪。
気温、マイナス8度。
雪降り積もる札幌。
「寒すぎるわ‼︎」
慌ててカナン魔導商会からレジストリングを購入して活性化すると、急いで着替えて外に飛び出す。
『ピッ……冷気耐性を獲得しました』
よし。
これで寒くない。
あとは祐太郎と新山さんを待つだけ。
万が一のことを考えて、航空機の路線図はスマホに入れてある。
そんなことをしていると、そろそろ待ち合わせの時間になる。
「さて、そんじゃ行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
「ちゃんと大晦日の夜には帰ってきなさいよ」
「分かってるって」
祐太郎宅中庭では、既に祐太郎と新山さんと、あとはなんで要先生?
「オッス」
「オッスオッス。それでさ、なんで要先生も一緒なの?」
「ええっと、私がお願いされました……」
オズオズと、小さく手を挙げる新山さん。
「ん? どういう事?」
「私が新山さんにお願いしたのよ。帰省したくても飛行機のチケットが取れなくてね、それで新山さんが今日、コミケに行くので東京に行くっていうから、まさか魔法の箒で行くのって聞いたの」
「それで、私は絨毯ですって言っちゃって.…ごめんなさい」
ん〜。
まあ、特に問題があるかと言えば、ない。
これが全く見ず知らずの人だったり、政府関係者だったら困ったことになったと思うけど、要先生は顧問だし、良いんじゃないか?
「俺は構わんよ。魔法の箒だと狭いので新山さんの絨毯に同乗する感じで」
「という事。オトヤンがダメ出しするはずないって言ったろう?」
「ありがとう。それで、どこから乗るの? 千歳空港? 丘珠?」
「築地家エアポート。つまり此処からだよ」
──ヒュヒュヒュッ
次々と魔法の箒と魔法の絨毯を取り出すと、俺と祐太郎は箒に跨り、新山さんと要先生は絨毯の上に乗った。
「あ、先生、土足禁止ですので靴は脱いでくださいね」
「あ、そ、そうなのね。靴はどうするの?」
「私が預かりますので」
要先生の靴を受け取ってブレスレットの収納バッグに収める。
俺が空間収納を使うのと同じ仕草で収納するので、俺たち全員が同じ能力を持っているように見えてしまう。
「……魔法って、本当に便利ね……って、新山さん、これは何?」
「クッションです。あと、お茶のセットも。移動時間が退屈かも知れないので。乙葉くん、どれぐらいで到着予定?」
「高度3万メートルまで上昇してから、目指せ東京2時間のんびりコース。急ぐ必要もないし、昼には到着するから」
「途中の休憩は一声かけてください。高速のサービスステーションでトイレ休憩しますから」
「……至れり尽くせりの空の旅ねぇ。それじゃあ、よろしくお願いします」
要先生が頭を下げたので、それじゃあ行きますか。
ゆっくりと上昇してから姿を消すと、あとは高度を上げてから東京へGO!!
年内の更新は、本日を持って終了させて頂きます。
本年度は、当作品をご覧いただき誠にありがとうございました。
来年度も、どうぞ宜しくお願いします。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




