第七十五話・臥薪嘗胆、50歩100歩の道も一歩から
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はい。朝っぱらからニュースでとんでもないものを見て、頭を抱える俺ちゃんだよ〜。
昨日、部室で転移門を作ってしまい、慌てて閉じたのは良いのだけれど、まさか『札幌市妖魔特別区域』と名前のつけられた中央区結界内に巨大な転移門が発生しているとは思ってもいなかったよ。
って言うか、そう言う名前なのね、あの結界。
近くに行って鑑定眼を使いたいんだけれど、朝一番で忍冬師範から『浩介は、結界内には絶対に入るな』って言う連絡があったので、普通に学校に行くことにしたんだ。
……
…
「と言うことで、俺が結界内に入ると、体から発する魔力で転移門がどうなるか分からないので、立ち入り禁止になりましたわ、わっはっは」
「まあ、そうだよなぁ。昨日の瀬川先輩から聞いた『転移門』の発生条件、しっかりと一致したからな。そりゃあ、師範も来るなって言われるわ」
そんな話をしつつ、箒に跨って上昇開始。
そのまま真っ直ぐに学校に向かう。
あんなフラグまみれの結界内に、わざわざ好奇心丸出しで向かうほど俺はアホじゃない。
寧ろ、俺を遠ざける師範の判断が正解だわ。
そして学校に向かうと、校門の周りに取材陣が待機している。
そんなの知らんわ、部室から登校だわ。
………
……
…
「乙葉君、ちょっと校長室に来てくれるかな?」
「こ、と、わ、る。俺が呼び出される正当な理由を述べてくれたら考えます」
教室に入ってすぐに、学年主任の先生が俺を呼びにきた。
「防衛省の偉い方が、あなたの力を貸してほしいと」
「断ってください。特に、あの結界の中の転移門の件でしたら謹んで御辞退申し上げ祭り候」
「乙葉は早漏なのか?」
「うるせぇ織田。お前は黙って魔法の修行探したらどうだ? と言うことですので、絶対に手伝いませんし話も聞きません、以上です」
そこまでキッパリと言い切ると、先生はため息をついて教室から出ていく。
さて、そんじゃ逃げる準備するか。
このパターンだと、このあとは教室に乗り込んでくるだろうなぁ。
「ユータロ、俺は早退するわ。こんな事案に巻き込まれたくないわ」
「俺も同伴する。学校フケてカラオケでも行くか」
「いいね」
「ラララ無○君〜」
鼻歌混じりで教室から出ると、ちょうどこっちに向かってくる背広のおじさんたちの姿を発見。
「君が乙葉浩介君だね。申し訳ないが協力して貰うよ、事は急を要するのでね」
「こ、と、わ、る‼︎」
そう叫んで廊下の窓から外に飛び出す。
すぐさま祐太郎も飛び出したので、俺たちは一瞬で魔法の箒を換装すると、そのまま急上昇‼︎
「うわ‼︎ 乙葉の奴、空飛んだぞ‼︎」
「箒に跨って飛ぶとか、マジで魔法使いかよ‼︎」
「乙葉ぁぁぉぁ、その箒を売ってくれぇぇぇぇ」
「「「 築地くーん。今度後ろに乗せて‼︎ 」」」
罵声と怒声と黄色い悲鳴を背中に受けて、俺と祐太郎は高度を上げてから透明化した。
先に透明化しておけばよかったと思うけど、背広のおっさん、予想よりも早く動いたのでそんな余裕はなかったよ。
……
…
「マジで、実力行使で来たか?」
「可能性あるよなぁ。さて、様子でも見ますか?」
透明化したらこっちのもの。
敢えてこの場から離れるのではなく、ゆっくりと高度を下げて校門外にあるハーフトラックの上空まで向かう。
すると、待機していた自衛官が何処かに連絡をしているらしい。
そして真っ赤な顔で校舎から歩いてくる川端政務官の姿もキャッチ、マイハート‼︎
「空を飛んで逃げるとは。あのガキは、今の日本の状態がわかっておるのか、よりにもよって国内に大氾濫の門が現れたのだぞ、選ばれた魔術師なら、その義務を果たして門を破壊しろと言うのに……」
「川端政務官、どうしますか?」
「四人はガキの実家を抑えろ、帰宅したところを捕まえるんだ」
「ですが、現状では協力要請はできますが無理強いはできませんが」
「いいから捕まえろ‼︎ そうすれば、あとはなんとでも出来る‼︎ 先に家族を制御すればいい、分かるな?」
「りょーかいっす……」
うわぁ、物騒なことを叫んでいたよ。
しかし、実家を制御ねぇ。
ゆっくりと高度を上げて、祐太郎と対策会議。
「どうする? あの剣幕だと何かあるぞ?」
「どうせ、東京で井川さんに仕掛けた思考誘導でも俺にするんだろうなぁ。それで俺を上手く操れば、あとはあの男の手柄になるってか? 先に家族を制御して俺をコントロールしようってか?」
すぐさまカナン魔導商会からレジストリングを購入する。
一つ10万クルーラで、在庫は21。
全部購入して、6つを祐太郎にパス。
「代金後払い、レジストリング6つな。2つは活性化してルーンブレスレットに登録しておいてくれ。それと」
「分かってる。新山さんと先輩の分だろ?」
「そっちは頼むわ、俺は実家まで行ってくる‼︎」
ここで二手橋。
特戦自衛隊が居ないのなら、学校はひとまず安全地帯。
こっちは任せる、俺は実家まで向かう‼︎
………
……
…
はぁ。
頭が痛いわ。
なんで大氾濫までまだ時間があるのに、転移門が発生しているかなぁ。しかもだよ、川端政務官はここぞとばかりに乙葉浩介を捕まえるために学校に乗り込むって言うじゃないか。
俺の能力『思考誘導』『記憶改竄』は、使い所が難しい妖魔能力。
それを知っていて、川端は乙葉浩介を捕まえてから、自分の駒にするために俺に乙葉浩介の記憶の改竄をするように命じている。
まあ、俺としては『盟約』があるから、あと5年は川端の部下でいるしかないし、奴の命令に逆らうと後で酷い反動が来るからなぁ。
あ〜、やだやだ。
誰か、川端をぶっ殺してくれないかなぁ。
そんなことを考えていたら、校舎から顔を真っ赤にした川端が出てきたぞ。
あ、成る程、逃げられたのか、ざまぁ。
それでこれから乙葉の実家に向かうと?
俺に家族の記憶を改竄させる気か。
はいはい、命令なので従いますよ。
なので、頭の上で姿を隠している乙葉君、早く実家まで行きなさいな。
君とは直接会ってないので、今は川端の命令を聞く必要もないからね。
………
……
…
早い。
とにかく早い。
お約束なら転移魔法ぐらいは使えてもいいんだけれど、残念ながら俺には使えない。
だが、魔法文明の利器である魔法の箒があれば、自宅まで直線ですぐなのさ。
一気に高度を下げて自宅中庭に直接着地。
すぐさま透明化を解除して家の中に入ると、リビングでのんびりしている両親を確認。
「ん? 浩介、サボりか?」
「いくらなんでも、サボりっていうのは感心しないわよ? 何があったの?」
勤めて冷静な両親。
ならば簡単に説明しましょうそうしましょう。
「防衛省の川端政務官が実力行使に出た。親父たちを洗脳して、俺を確保しようとしている」
「そりゃまた、随分な話だな。それが本当なら、何かしら手を打つ必要があるか」
「その通り、ということで、こちらの指輪をプレゼント。これは」
「あら、レジストリングじゃない。未登録の伝承級マジックアイテムなんて、久しぶりに見たわ」
目をキラキラと輝かせながら、お袋は俺が空間収納から取り出したレジストリングを手に嬉しそうである。
「浩介、レジストリングを着けろという事は、防衛省には妖魔がいるのか?」
「いるよ。そいつが記憶改竄能力者なので、親父たちもそれを装着して置いてくれないか」
「はいはい。それで、この後来るのか? それならどうすればいい?」
あっさりと俺の話を飲み込んで、親父とお袋はレジストリングを二つずつ装備した。
しっかし、このレベルの魔導具を知っている両親って一体……。
「まあ、適当に話を合わせて、断って構わないよ。俺は姿を消してこの辺りにいるからさ」
──ス〜ッ
そう説明してから、インビジリングで姿を消す。
「中級妖魔の『透明化』と同じ効果ね。気配は消せないし、赤外線カメラにも反応するから、まだまだ改良の余地はあるわよ?」
「マジか? って言うか、なんでそんなに詳しいんだよ?」
「お父さんも私も、元はヘキサグラムの研究員よ? その前は日本の『陰陽府』にいたんですけれどね」
「ああ。決して表に出ない日本の行政府の一つだな。今は解体されて跡形もないけどなぁ」
淡々と説明されると、何か怖いのですが。
なあ、親父もお袋も、今度ゆっくりと話をしないか?
そんなことを考えていると、暫くして玄関の辺りが騒がしい。
「来たか。どれ、それじゃあ話をつけてきますか」
親父が立ち上がって玄関に向かうので、俺もこっそりと後ろからついていくことにした。
まさか、個人宅に|IRカウンター(赤外線ゴーグル)をつけてくるなんて事はないだろうからなぁ。
………
……
…
「乙葉ですが。今日は何かありましたか?」
「私、日本国防衛省の川端と申します。本日は、妖魔特区に発生した転移門の除去作業におたくの息子さんの力をお借りしたく参りました」
メガネがキラーンと輝きそうな川端。
そして親父も負けてはいない。
「残念ですが、お断りします。うちの息子を、そんな危険なところに送るわけにはいきませんので」
「事は重要なのですぞ? この日本に魔術師が再来したという事は、今回の転移門についても日本国で処理しろという神託以外の何者でもありません。それを、貴方は拒むと?」
出たよ、神託。
残念だな、うちの親父は神託と名の付くものは神託だろうが信託だろうが一切信用していない。
「お断りします。もしも転移門のあるあの区画に息子が行ったとして、それが向かい水となり転移門が覚醒したら、その時の責任はあなたが取るのですか?」
「はっはっはっ。何を世迷い事を仰りますか。そのような可能性はありませんが?」
「では、この件について御神楽様にお尋ねしましたか? 魔力の高いものが近寄ることによって転移門が覚醒したという事実は、過去にも存在したと思われますが?」
おや?
その説明を受けて川端の顔色が悪くなったぞ?
「み、御神楽様には後ほど報告する予定です。事は一刻を争います、何卒、御協力を」
──パシッ
その刹那、空気が硬直した感覚が走る。
川端の後ろに立っている人魔・陣内が『思考誘導』を発動した。
慌てて親父のステータスを確認したが、しっかりとレジストしたらしい。
当然、俺も予めレジストリングをセットしてあるのでセーフ。
『思考誘導』が範囲型ではなく対象指定で助かったよ。
「お断りします。お帰りはそちらですので、どうぞ」
ニッコリと笑いつつ告げる親父。
これには川端も、慌てて後ろの陣内を見る。
「ど、どうなっている?」
「あ〜。レジストされましたわ。川端さん、残念ですが打つ手なしですわ」
耳を弄りつつ、陣内がそうつぶやく。
ただ、その視線は親父ではなく明らかに俺の方を向いている。
「な、なんだと? そんなバカな事があるか? 妖魔の力に対抗するだと?」
「あ、やはり妖魔能力でしたか。タイプは『思考誘導』…中級妖魔の能力の一つですね? となると、その後ろの陣内さんは人魔ですか……初めて見ましたよ、『ブレインジャッカー』の氏族の方は」
ニコニコと笑う親父と、眉を顰める陣内。
この張り詰めた空気を、早くなんとかして欲しいのですが。
「へぇ。俺の氏族名まで知っているとはね。川端さん帰りましょうや、これはタチが悪すぎる」
「なんだと、そんなことが許されるか‼︎ええい、いいか乙葉、このわしが本気を出したら、貴様などすぐに逮捕拘束することもできるのだぞ」
「へぇ。どのような罪状で?」
「そんなの後からでっち上げれるわ。乙葉京也を捕らえろ‼︎」
その川端の命令に、陣内を除く三人の自衛官が動いた。
そかそか、動いたならこっちも動くか。
『魔力変換……麻痺の魔力を作成、矢となりてかの敵を撃て‼︎ 三式拘束の矢』
対象を三つに増やし、第四聖典で新しく魔術を作り出す。
実は、第四聖典って『俺が作った魔法が登録される』のではなく、『新しく魔法を作り出して登録する』って言う効果があるらしい。
今まで見えていなかった第三聖典の魔術が『魔術創造』と言うことを、この前知ったばかりなのよ。
──バジバシバジッ‼︎
土足で乗り出してきた自衛官が次々と麻痺して倒れる。
これには何が起こったか、川端も理解していない。
「な、なんだ、何が起こった?」
「さぁ? そんじゃ川端さん、帰りますか。これは相手が悪すぎますわ」
「なんだと? つまり、これは乙葉京也がやらかしたことか? よし、それなら暴行容疑で逮捕するぞ、陣内、乙葉京也を捕らえろ‼︎」
「嫌っす。俺は魔術特化妖魔ですので、近接戦とかは全くダメっすから。それに、その命令は『盟約』には含まれていませんぜ」
それだけ告げると、陣内は外に出ていく。
残された川端は真っ赤な顔でスマホを取り出すが、陣内と入れ替わりにやってきた忍冬師範が取り上げた。
「そこまでにしてもらいますか。川端さん、乙葉浩介については、指示あるまでは手出しはしないって命令が出ていませんか?」
「なんだ誰かと思ったら忍冬か、丁度いい、暴行の現行犯で乙葉京也を逮捕しろ」
「はぁ。誰か、その現場を見ていましたか?」
「わしが見ていた、それだけで十分だろうが‼︎」
「乙葉京也さんは何もしていませんぜ、大方、暑さで倒れたんじゃないっすか?」
後ろから陣内が叫ぶ。
すると川端は忌々しそうな顔で玄関から出て行った。
すぐさま第六課の面々がやってきて自衛官たちを外に出すと、忍冬師範が頭を下げて外に出ていく。
「ふぅ。見た感じでは川端は妖魔に操られていると言う節はないね。寧ろ陣内とかいう人魔の方が、危険だな」
「え? 親父はそこまで分かるのか?」
「長い間、妖魔を研究していたからね。憑依されているかどうか、操られているかぐらいは分かる。それよりも記憶改竄できる妖魔の方が危険だ。話から、盟約によって川端に従っていると言うところが濃厚だろうが、あのタイプは手綱がなくなると危険だ」
おおう。
流石は妖魔の研究者。
そういった蓄積された知識には、俺は全く歯が立たない。
「さて、今日のところは引き下がったようだが、あのタイプは必ずまた来るからね。今のうちにあちこちに連絡して置いた方がいいか。あとは大丈夫だから、浩介は学校に戻りなさい」
「は、はっ‼︎ 乙葉浩介、学校に戻ります‼︎」
思わず敬礼して外に出ると、魔法の箒で一路、学校に帰還。
しかし、うちの親父も怖いわ。
その親父が頭の上がらないお袋って、十二魔将よりも怖いんじゃね?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ




