第601話・阿頼耶識、それって塞翁が馬?(レムリアーナ冒険譚・その9)
睡眠術式で瀬川21を眠りに付かせたのち。
俺はエレキシュガルさんに頼んで、ベッドのある個室を用意してもらった。
といっても、独房の一つを貸してもらっただけなので、そこの瀬川21を横に眠らせたのち、再度術的拘束を発動。
今度は目に見える魔法の鎖を用いて彼女の体を固定してみた。
そして周囲の安全を確認したのち、パチンと指をはじいて却下を発動、彼女の睡眠状態を解除してみた。
すると、一瞬で睡眠時様態から覚醒したらしく、自身の状況を必死に確認しているようで。
――ギシッ、ギシッ
必死に四肢を動かしてベッドから起き上がろうとするものの、完全に固定化しているので身動きなんて取る事は出来ない。
いや、ほんとどこから見てもさ、俺って悪の科学者スタンスだよねぇ。
「私に何をするつもりだ?」
「まあ、無駄な抵抗ができないっっていう事は理解してもらったと仮定して。教えて欲しいんだ、どうしてあんたたちが【創世のオーブ】を求めているのかっていう事を」
いきなり意味も分からず襲われたこっちとしては、何のために創世のオーブを探しているのか教えて欲しいっていう事。まあ、そんなことをペラペラと話すような瀬川21ではないとは思っているけれどさ。
「君にその理由を説明したとして。速やかに私達に創世のオーブを渡してくれるのか?」
「まっさかでしょ。俺たちの世界だって滅ぶか滅ばないかっていう瀬戸際なんだからさ。ただ、そっちの世界の事情なんて知らないから、こちらとしてもアドバイス出来る何かがあるんじゃないかって思っただけだよ」
「その言葉に偽りはないと誓えるのか?」
「そりゃあ、もう。俺のいる世界だって、あの災禍の暁でほぼ回復不能な状態にまでなったんだから」
そこから、俺が無茶して時間軸を巻き戻す事で今の世界は存在している。
もっとも、何もかもが綺麗に巻き戻っているのか、それとも【巻き戻った世界】に俺が帰還したのか、いくつもの可能性が存在する事は俺だって理解している。
あの虚無の空間、幻想郷レムリアーナで出会った破壊神の残滓に見せられた、別の時間軸の俺の存在、それらを見せられて、今の俺が戻った時間軸が本当に自分のいた世界なのかっていう保証は誰にも出来ない。
それでも、俺は俺の世界に戻ったって自信を持って言えるからね。
そうじゃないと、悲しすぎるんじゃない?
それにさ、何となくだけれど魂のレベルで安心しているんだよ。
ここは俺の救った世界だって。
そう考えつつ、目の前の瀬川21をじっと見ている。
うん、口元が微妙に動いているのと、摩訶不思議な言語をぼそぼそと呟いているのは理解した。
そしてそれが、高速演算を行っている最中であるということも天啓眼で確認した。
「……私の世界は、破壊神によって滅びの道を歩んできた」
表情は全く変化せず、それでも瀬川21はゆっくりと話を始めてくれた。
………
……
…
私のいた世界は、地球と呼ばれている
広大な神宙領域に浮かぶ星であり、多くの生命体が生活している。
そうだな、文化・文明などについては、君たちの世界である真刻界とほぼ同じであろう。
というのも、地球も、君たちの世界も、一つの創造神によって作られたものであるらしいから。
まあ、世界の創造神話などはどうでもいい。
問題なのは、私たちの世界・地球を監視している神々の住まう領域で、軍神が暴走を開始したことから始まる。
ある日、世界中から見える月が深紅に輝き三つに分割した。
その時から、世界中に巨大な門が出現し、大量の化け物が世界中を蹂躙し始めた。
それは妖魔と呼ばれている存在であり、私たちの世界とは異なる時空間に存在する世界からやって来たという。
多くの人々の命が失われると同時に、月が輝きを強くし始める。
そしててあるとき、三つの月が重なり世界中に深紅の光が注がれたとき。
「神が降臨した……」
狂気に陥った軍神が、他の神々の死体を引きずりながら地球を徘徊した。
そしてある日、世界の中心にある巨大な岩から【封印されし右手小指】というものを引きずり出したとき。
「世界が崩壊し、星が砕けた……」
私たちは、その軍神降臨を事前に予知し、その対策を計画。
多くの人間や生命体を宇宙へと逃し、母なる母星を捨て、3重惑星の一つに移住した。
長い年月をかけてドーム都市群を増やし、そこに降りることができない人類は母船の中で今も冷凍睡眠状態で目覚めるときを待っている。
そして長い年月が経過したある日。
私達を統治管理しているマザーブレインが、ある予言を発してくれた。
それが、【創世のオーブ】という、神々の齎した奇跡の産物。
それがあれば、母星を元の状態へと戻し、全てをやり直す事が出来る。
【創世のオーブ】とはすなわち、世界を作り替えるための鍵。
そして、それは私達の世界ではない、異なる世界に存在するという。
………
……
…
「そして、私たちは一つの答えを導き出した。それが夢の中に存在する世界、幻想郷レムリアーナに【創世のオーブ】があるということ。そしてそれを知るものが、私たちの最後の希望である世界最強のエスパー・乙葉浩介の偽者であるということ。残念ながら、マスター・乙葉は貴様に敗れ、今は現実世界に戻り傷が癒えるのを待っている……」
「ふぅん。それで、君はこの幻想郷レムリアーナに残った道標であり、エスパー乙葉がここに戻ってこられるように待機しているっていう事か」
「可能ならば、マスターの帰還より先に【創世のオーブ】を回収するべきである。そう判断したのだが……」
それで俺を探し出す前に発見されてしまい、現在に至る……か。
「なるほどねぇ。それで、君たちが求めている【創世のオーブ】だけれど、残りの欠片はすでに入手しているっていう事かな?」
「賢人が解析を行った。だが、のこり一つの所在はいまだ不明」
「ああ、そういうことか。それにしても……うちの世界にもそっちの世界にも、【創世のオーブ】が存在しているっていうのはどういう事なんだろうなぁ。創造神が齎した世界を生み出すシステム【創世のオーブ】、これがいくつもの世界に存在しているっていうのはどういうことだろうか」
腕を組んで考えてみるが、答えなんて出てこない。
かといって、妖魔特区で待機しているであろう瀬川先輩まで念話が届くはずもなく。
「創造神は、いくつもの世界を生み出している。その一つが君たちの世界、そして私たちの世界。それ以外にもいくつもの世界は存在し、そしてそれらの世界ごとに、統治管理する神々の住まう神界はある。【創世のオーブ】とは、その世界が壊れた場合に修復するための【創造神の加護】であり、世界神と呼ばれている神々にしか扱う事が出来ない」
「ああ、大元は一つっていう事ね。創造神がいくつもの世界を作った、そのうちの一つが俺たちの世界であり、それを見守るためにそれぞれの世界に神がいる。うん、なるほどなぁ」
それなら、彼女達が異なる世界の【創世のオーブ】を求めてくるっていうのも理解出来る。
おそらくだけれど、彼女たちの世界の【創世のオーブ】と俺たちの世界の【創世のオーブ】は異なるものであるけれど、力は同じっていう事で。
そして彼女たちの世界の【創世のオーブ】は、すでに消失している可能性も視野に入れておかなくてはならないな。
「それで、君たちの世界の【創世のオーブ】は、まだ存在しているのか?」
「私たちの世界のオーブは、一つは軍神によって破壊された。幸いなことに破壊される前に分割し、残された神々の手によって世界のどこかに隠されたという。マザーブレインは、その隠し場所について【破壊神の残滓の影響が及ばない世界】に存在する可能性があると算出し、それが幻想郷レムリアーナであることを告げた。そして貴様は【創世のオーブ】を探し出すためのギミックを所持している、それで答えは出たわけだ」
「ああ、解説どうもありがとう。さて、困ったな……」
え、困る理由?
当然ながら、俺たちの世界の創世のオーブを彼女たちに手渡す気なんてさらさらない。
かといって、こんなヘヴィな話を聞かされたうえで、『そっちはそっちでがんばって、以上』っていう事にするのも難しい。いや、突き放せばいいだけなんだけれどさ。
こういう話って、聞いた方が負けじゃない? 特に善性の高い人なら。
かといって、俺もそんなに性善説で生きているわけじゃないからなぁ。
さて、どう判断すべきかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




