第600話・夜郎自大、花は桜木人は武士(レムリアーナ冒険譚・その8)
神威化枯渇状態。
まあ、よくあるファンタジー小説の世界でいうところの魔力枯渇状態のようなものであり、軽度のものならば意識の喪失程度で収まり、最悪の場合は死に至る。
といっても、俺の読んでいた小説の中では魔力枯渇状態で0になって死亡するという設定る小説は殆どなく、大抵は魔力の減少によって具合や気分が悪くなるといった設定のものが大半であった。
では、リアル世界である俺の情況はどうかいという、神威枯渇の場合は最低活動領域と呼ばれている神威量まで回復しない限り意識は喪失したまま。
回復のために深い眠りに付くというのが定石であるので、こうなる事は必然であったといえよう。
「……ああ、やっぱり飛空艇の中だったか」
意識が戻って目の前に広がっているのは、あの幻想郷レムリアーナで搭乗していた飛空艇グレスレーテッド号の客室。
ふと時計で時間を確認すると、やっぱり時差というものは存在するものの、こっちの世界の1時間が俺たちの世界の20分程度という事が理解出来た。
まあ、この時間差っていうのも確定ではなく、夢の中ゆえ時間の概念も揺蕩う存在であるらしいとは魔皇紋ヘルメスさんの言葉。それならば、眠りに付いて元の世界に戻るタイミングはこちらの意思でコントロール出来るのではという仮定に繋がったのだが。
問題は、眠りに落ちた時の俺の情況。
「……神威枯渇時様態で落ちたという事は、肉体が再稼働時様態まで回復するまでは大体丸々一日の睡眠を必要とする。そう考えると、今、俺が元の肉体に意識が戻ったとしても、目を覚ますことがないのでそのまま眠りに付いている状態になる。それならば、意識を失っているという事情を考慮した上で、現地時間で36時間程の情報収集時間を与えられたと考えてもおかしくはない」
――ピピッ、ピピッ
そう理屈をこねて結論を出した時、壁に設置されて類モニターの呼び出し音が響いた。
あ、これってアラームじゃね? そう思って確認してみると案の上、目覚まし時計としての機能が初期設定のまま稼働していただけ。
「まあ、新山さんには悪いけれど、一足お先に情報収集を再開する事にしようかねぇ」
という事で、俺は身支度を整えた後、朝食を取る為にダイニングルームへ。
よく見ると奥の方で楽団らしき人達が静かな演奏を奏でている。
うん、こういった楽しいひと時を俺一人で楽しむっていうのは、ぶっちゃけどうかと思うよね。
そう考えていると、俺の目の前に保安責任者のエレキシュガルさんが、一人の女性を伴ってやって来た。
『食事中のところ、申し訳ありません。この後、お時間はありますか?』
丁寧な口調でそう問いかけてくるエレキシュガルさんとは対極的に。同行してきた女性は俺の事をじっと睨みつけているんだが。これってどう考えても、穏便な話し合いっていう状況ではないよねぇ。
「時間でしたら作ることは可能ですが。ちなみにそちらの女性は?」
『それにつきましては、後程という事で。では、食事の後でこちらにお迎えに上がりますので』
そう告げて頭を下げるエレキシュガルさん。
そしてふと、同行していた女性のしぐさを見てみると、どうやら両手に腕輪のようなものが嵌められていて、それで腕は拘束されている。手錠のような腕輪で、何かしらの技術によって拘束されているんだろうなぁ。
まあ、とりあえずは食事を楽しんで、話し合いはそれからというところだな。
………
……
…
――飛空艇グレスレーテッド号・保安管理室
食後のデザートを堪能したのち、俺は迎えに来た保安官と共に管理室へ。
そしてそこでエレキシュガルさんと再会した後、今度は別の部屋へと移動。
といっても、保安管理室の近くにある牢屋のような場所で、その隣の部屋に案内された。
ちょうど隣の牢屋には先ほどの女性が投獄されており、俺の方をじっと睨みつけている真っ最中。
「お待たせしました。それで、俺に何の用でしょうか?」
『ご足労頂き感謝します。実は、その女の件で色々と伺いたいことがありまして。乙葉浩介さまは異邦人でいらっしゃいますよね?』
「ええ、最初にそう説明されていますから間違いではありませんが」
『実は、そちらの女性も異邦人です。しかも密航者でして』
「はぁ、密航者ですか。それにしては、俺とは対応がかなり違いますよね?」
確か異邦人って保護対象じゃなかったか?
俺の時はつとめて穏便に、賓客扱いをしてもらっているのだけれど、どうしてこうも差がついている?
『ええ。彼女は異邦人ですが犯罪者でもあります。実は先日の夜、この飛空艇グレスレーテッド号の外部装甲の一部が破壊されるという事件が発生しました。急遽保安部の者達が現場に駆け付けたところ、破壊された外部装甲から離れていく未知の飛行艇の姿がありました。そして、その亀裂の部分にこの女性が立ち止まっていて、私達の行動を阻害しました』
「んんん? 昨日の夜ですか?」
『ええ。そうですね、丁度ディナータイムの真っ最中であったかと』
あ~、心当たりあるわぁ。
恐らくだけれど、エスパー乙葉とニンジャ新山の奇襲を受けたタイミングだわ。
そして彼女はその仲間っていう事か。
二人が無事に逃げる為の捨て石? いや、逃げ延びてから単独でどうにか出来る能力でも 持っているっていうところだろうなぁ。
「それで、俺に何をしてほしいと?」
『私達の技術では、この者の身分などをサーチする事が出来ません。かろうじて両腕をスタン・ワッパで拘束し身体能力を1/10まで低下させていますが、いつまた暴走するかもしれぬということで急遽、乙葉さまの魔術で詳しい事情を調べていただきたいのです』
そうエレキシュガルさんが説明してくれると、隣室に設置されている椅子に座っている女性がこっちを向いてニマニマと笑い始めた。
『そんな男に私の事が判るっていうのかい? 面白いねぇ』
「あ、あまり迂闊な事は言わない方がいいですよ、瀬川ミヤビさん。職業は……戦闘用サイボーグですか。そっちの世界の瀬川先輩って、前衛担当なのですね」
――ガバッ!!
ほらね。
俺の天啓眼では、彼女のデータはこういう感じに映っているんだよ。
『ピッ……瀬川ミヤビ、瀬川重工製戦闘用サイボーグ、生体脳と脊髄、生殖器官の一部以外は人工生体パーツによって構成されたサイボーグ。脳とその記憶は瀬川重工の会長のクローンであり、彼女はその21番目に作られた実戦用異空間戦闘特化型』
ね、ワクドキが溜まらんでしょ?
しかも天啓眼よろしく、彼女の設計図やら何やらまで魔導書に記されているようなんだよ。
いやぁ、これは表に出せませんねぇ。
「と、それで瀬川さん……まあ、瀬川21とでも呼びましょうか。あなたの目的は『創世のオーブ』で、エスパー乙葉とニンジャ新山と共にここにやって来た。作戦が失敗した為、あなたは彼女達を逃がした後、単独で逃げようとしたが失敗し拘束されたでファィナルアンサー?」
そう問い掛けてみると、突然表情が硬くなる。
まあ、何も語りたくないというところか、もしくはプロテクトだな。
そして俺は魔法使い、残念なことに技術的プロテクトを解除できるだけの技術は持ち合わせていない。
まあ、魔法で電子ロックも開けられるから、ひょっとしたら彼女の精神的プロテクトも解除できるかもね。
『ふむ、反応が消えたという事は事実であったと?』
「まあ、俺の魔術は完璧ですからねぇ。その気になれば、彼女の好きな異性や人に言えない恥ずかしい事まで全て暴露できますが。あ、そうそう、あなたに仕掛けられている精神プロテクトですが、俺の魔術で解除出来ますので無駄なことはしない方がよろしいですよ?」
『……殺せ』
鉄面皮の口元から零れた言葉が、それですか。
まさか瀬川先輩の外見でクッ殺を言わせるとは思っていなかったよ。
しかもクッしていないからね。
そしてクッさせる気もないからね。
そういうのは食欲魔人でクッするのが得意などっかの姫様だけにしてもらうよ。
「ちなみにですが、現状ではこれ以上の情報を得る事は出来ません。という事でこの後の作業手順としては彼女の精神プロテクトを解除した後、洗脳魔術で人格から何から全て書き換えて協力的にするという作業になりますが。その際、彼女の体内に仕掛けられている自爆装置も解除しなくてはなりません。それについてはちょいと俺は専門ではないので、いっそ新しくホムンクルスでも作って彼女の魂をまるっと移したほうが早いですがどうしますか?」
淡々とエレキシュガルさんに説明するけれど、あ、彼女と同席している保安官もドン引きしているわ。そりゃそうだ、説明している俺もドン引きしているからね。
あくまでも彼女の精神を揺さぶる為にそう告げているんだけれどさ、やっぱり鉄面皮状態は変化なし。さすがは瀬川先輩の外見だけあって、そういうところは強いよねぇ。
『それで情報が得られるのであれば、やむなしというところですが。さすがに異邦人に対しての処置としてはかなり重いものになるかと』
「まあ、そうなんですけれどねぇ。かといってこのまま放置するわけにはいかないのですよ。彼女が狙っているのは俺の命と、あとこいつですから」
――シュンッ
空間収納から、宝楼嶺魔から受け取った石板のコピーを引っ張り出す。
――キュインッ
すると、牢の向こうにいる瀬川21が突然立ち上がり、両腕に嵌められていた腕輪を引きちぎってから、俺たちのほう向かって走ってくる。
そして一瞬で牢屋を手刀で切断すると、俺に向かって身構えたんだけれど。
「ま、その反応で充分だわ。術的拘束!!」
パチンと指を鳴らすと。床から魔力によって形成された鎖を放出、瀬川21の全身をがんじがらめにして固定した。
『その石板を寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
「こ・と・わ・る!!」
素早く石板を空間収納に収納すると、そのまま彼女の頭めがけて熟睡を発動。いくらサイボーグでも、脳が生体パーツで魂も存在する以上は眠りに付く。
そのまま鎖で固定された状態で意識が途切れていくんだけれど最後まで必死に手を伸ばし、俺につかみかかろうと必死だったようで。
これ、傍から見たら俺って完全に悪役だよね。
さて、これからどうするかなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




