第六十話・栄枯盛衰は糾える縄の如し(巨大結界に包まれて)
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まさか。
要先生に乙葉君の情報がばれるとは予想していませんでした。
いえ、表に出していい情報、つまり彼が魔術師であるというのは本人が構わないと言っていたのでいいのですが、まさか異世界転生者‥‥神から加護を受けているという事実が、こうも簡単に漏れるとは彼自身も予想していなかったでしょう。
「はぁ‥‥まあ、彼のことは彼に任せておくとして、私は私なりにできることをやるしかありませんね」
今日は、私のスキル深淵の書庫の可能性実証テスト。
予め文学部の部室には、私のノートパソコンを設置してきました。
LANケーブルも接続して、パソコンはスリープ状態を維持。
「さて、それじゃあ始めます。深淵の書庫展開‼︎」
──ブゥン
私の周囲に、球形の立体魔法陣が展開します。
この全周囲魔導モニター部分には、予め指定してあった空間にある資料や文献をもとに、私の望む解答が映し出されます。
まるでスーパーコンピュータのような能力ですが、実はデータベースは指定した範囲内ということもあり、とても狭義的な用途でしか使えませんでした。
「深淵の書庫、座標空間内にあるノートパソコンと接続、検索エリアを電脳空間まで拡大してください」
『了承……接続完了』
「あ、あらら、あっさり。では気を取り直して。深淵の書庫、妖魔についての情報を検索し、『実存する妖魔による事件や関係資料』を検索してください」
──キィィィィィン
すると、全周囲モニターが真っ白に輝くと、次々とデータが映し出されます。
では次の段階に進みましょう。
「深淵の書庫、それらのデータから『札幌市』『第六課』『大氾濫』についての部分のみを検索してください。一致する単語は最低二つで』
──キィィィィィン
やがて映し出されたのは三件。
一つは妖魔による殺人事件。
攫われた人物が空間結界内にて殺害、食い殺されたという事件。
一つは第六課が探していた大氾濫について。
これは大氾濫の発生時期が今後3年以内に起こるという確定情報を基に、第一転移門を特定し、封印するという作戦について。
けれど、これは現時点では凍結されている。
そして最後の一つが、札幌のゲート発生予測地点。
人のエゴや業が集まるところが発生源になりやすいらしく、札幌市内でもいくつかの候補地点が記されている。
ススキノは言うに及ばないが、札幌大通り公園が発生候補に挙げられている。
特に霊的スポットであるとかは関係なく、人の意思が集まる場所ということも意味しているのかもしれない。
「……ふぅ。深淵の書庫、表示データをハードディスクに保存できる?」
『了承……完了』
「ありがとうございます。深淵の書庫終了で」
──シュゥゥゥゥ
静かに魔法陣が消滅する。
それと同時に!全身からは力が抜けていき、意識も朦朧になる。
「あ……これが魔力酔いとか言うやつですね。よく乙葉君が苦しそうにしていた……むぎゅう」
そこで私は意識を失ったようです。
そして気がつくと朝。
幸いなことに今日は土曜日、学校も休みなので遅刻することもありません。
午後からは札幌駅前の乙葉君のマンションに集合して、妖魔との共存についての話し合いをすることになっていますから。
そこで深淵の書庫を展開して、色々と調べるのもいいかもしれませんね。
私の深淵の書庫は、使うことで経験値が加算されるようですから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌市最大の歓楽街・ススキノ。
その外れにある、古い雑居ビル。
そこには大勢の妖魔が集まっている。
すべてが現妖魔王派であり、人間との共存についてもろ手を挙げて喜んでいない者たちである。
その中心では、一人の人魔が酒を飲んでいた。
「百道烈士様、十二魔将第三位、暴食の配下すべて揃いました」
「よろしい。さて、我が家族たちよ、人間どもは我々との盟約を無視し、我らの存在を公にした。そればかりではなく、噂では先代妖魔王の魔将共と手を組んでいるらしい」
十二将第三位・暴食のグウラこと百道烈士は拳を振り上げて叫ぶ。
それも嬉しそうに。
「暴食王、我らはどうすればよい。この隙に共存派を粛清するのか」
「来る日のために、結界を破壊する準備をするのか」
「我らが暴食王よ、言葉を!!」
この場にいるのは、全て人を糧としか見ない者たち。
特に百道烈士は、このすすき野を拠点として数多くの人間を喰らっていた。
土地柄、この地は『色欲』のテリトリーでもあるのだが、幸いなことに色欲王とは仲が悪くはない。
お互いの主義主張を侵さない限りは、狩場が重なろうともいがみ合うことはなかった。
「明日だ。明日の正午、堂々と狩場を作り出す。結界魔を集めろ、俺の指示する場所で待機させろ!! このサッポロは、明日より妖魔王様再臨のための贄牧場とする!!」
――イエァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
拳を上げて歓喜の声を上げる人魔の群れ。
直後、一人、また一人とビルから飛び出していく妖魔たち。
そして百道烈士を除くすべての妖魔が部屋から出ていくと、彼はゆっくりと椅子に座った。
「日本にいる十二魔将は俺と色欲のルクリラだけか。まあ、ほかの国のことなんか俺には関係ない、大氾濫の日、どの国に妖魔王殿が転移門を開くのか。開いた国は魔国となり、その地は魔都となる。そこに俺がいるのかいないのか、ただそれだけだ‥‥」
――スーッ
そう呟くと、部屋の片隅、影の部分からフードを纏った人物が姿を現した。
「「グウラよ、我が主はこの地に訪れるというのか?」」
その声は男性と女性の二つの声。同時に放たれたように聞こえるが、一人の人魔の発した声である。
「ルクリラか。ちょうどお前の話をしていたところだ、東京は確かお前のテリトリーだよな、準備は始めたのか?」
そう問われて、愛染娘々はフードを外す。
純白の髑髏が現れ、そしてすぐに髑髏の表面に筋肉組織が生み出されると、やがて金髪の妖艶な女性の顔がそこに現れた。
「この姿の時は愛染娘々って呼んでほしいわね。人が折角、陣中見舞いに来たっていうのに」
ニコニコと笑いつつ、愛染娘々が椅子に座る。
そして無表情のまま、百道烈士のほうを見ている。
「東京は駄目ね。神楽境が張っている結界があるので、どうしても力が半減するわ。私は別の地に移動するから、その挨拶のついでに来たっていうことだけど‥‥このサッポロもかなりまずいわよ?」
「なぜだ? この地には呪符師もいない、かの第6課も、面倒くさい御影はもういない。脅威のないこの地こそ、魔都となるにふさわしいとは思わぬか?」
「ふぅん。まあ、貴方がそう言うのなら別にいいわ。私は西に向かうから‥‥それじゃあ、お気をつけてね」
――スーッ
静かに愛染娘々の姿が消えていく。
それを見据えてから、百道烈士は近くにある椅子を抱え上げ。彼女のいた場所に向かって叩きつけた。
――ドッゴォォォォッ
「ふん。せいぜい負け犬のようにほえたてているがいいさ。明日になれば、すべてが始まる。そして明日から、この地は魔都となるべく第一歩を踏み出すのだ!!」
〇 〇 〇 〇 〇
日曜日。
文学部魔法使いチームは、いつものように札幌駅横にある俺のマンションに集まっていた。
時刻は午前10時、まあ、集まったところで魔法の練習とか、装備の見直しとか、簡単な話し合いという名の駄弁りパーティーであった。
そう、そうなるはずであったのだけれど。
「それで、なんで要先生までいるかなぁ?」
「あ、あのですね。私の今日のスケジュールは乙葉浩介君の監視‥‥護衛でして、万が一があったときのために近くにスタンバっていたのですよ。そうしたら、ここのマンションの一階に瀬川さんや築地君がやってきてですね」
「俺が下手な変装を見破ったというわけ。それで、トイレを貸してほしいんだとさ」
「はぁ、トイレ程度でしたらどうぞどうぞ。普通はそういうときのために、監視って二人付きませんか?」
「まだ私と一緒に動けるメンバーが決まっていないだけです。井川巡査長は東京に出張で向かっていますし、忍冬毛警部補は本部に詰めていますから」
ふむふむ。
まあ、トイレ程度なら別に構わないよ、そのあとですぐに放り出すけれどね。
そんなこんなでトイレに向かった要先生だけど。
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なんで絶叫上げて戻ってくるの?
「よ、妖魔よ妖魔、トイレがしゃべったぁぁぁぁぁ」
「はぁ。そりゃあトイレに妖魔が憑りついたんでしょうね。というか、あのイケボ妖魔、また来たのか‥‥」
頭を掻きつつトイレに向かうと、トイレの蓋がパカパカとリズムよく動いている。
『イェェェェィ。ハロウエブリワン。アイアム、天井大君!!』
なんだこの、CV.下〇紘の妖魔は。
「はあ、そのトイレなのに天井を名乗る妖魔が、なんでうちにいるんだよ。とっとと出ていけば、この前の妖魔のように滅されることなく平穏無事に終わるぞ」
『ああ。この建物というか、この家から白桃姫さまの残り香がするので、やってきただけだ。ああ‥‥このトイレを白桃姫さまが使っているかと思うと、もう‥‥自己浄化してしまいそうになるわ』
「あわぁ‥‥お前、ドン引きだわ。今から10数える前に出ていかないと、ひどいことになるからな」
『ほほう。人間が、たかが贄がこの私に指図するとはいい度胸だ』
――ウィィィィィィン
そう呟いてから、突然トイレの洗浄用ノズルが伸び始めた。
「貴様、何をする気だ!!」
と叫びつつも、俺はトイレの配管にあるバルブを閉める。
ついでにコンセントから電源プラグも抜いておこう。
『このトイレを水浸しにしてくれるわ!!』
「な、なんて卑怯な!!」
『ふははははははは。さあ、覚悟しフベシッ!!』
――ドッゴォォォォォッ
すぐさまミスリルハリセンを引き抜いて、便器に向かってスマッシュ!!
今回はフォトンセイバーじゃないから壊れることなく、便器から何かが飛び出したので、もう一度そいつにもスマッシュ!!
――スパァァァァァァァン
『ああ‥‥白桃姫さまのしりふとももが、可憐なはなフブホワァッッッッッ』
「言わせねーーよ。そのまま霧散化してしまえ!!」
その一撃で天井大君は霧散化して消えた。
だが、これで終わったとは思えない。
きっと第二、第三のトイレに憑依する変態妖魔が現れるに違いない。
「ということでぶっ飛ばしてきた。さ、どうぞお使いください。コンセントと水道のバルブを開けておいたので安心して使え‥‥」
――ドタタタタタタ
「早いなぁ。ということで、いつものトイレの妖魔でした」
そう告げると、全員があっけにとられる。
「また出たのか。あの変態妖魔が」
「ま、まあ、幸い被害者はいませんからよかったですわね」
「今度から使う前に確認した方がいいわ。ということで、今日はこれから何しましょうかねぇ‥‥」
――ドン!!
そう呟いたとき、突然周囲の空気が重く感じる。
それは俺だけではなかったらしく、瀬川先輩と祐太郎、そして新山さんも慌ててベランダに向かって走り出した。
「‥‥なんだありゃ」
「まあ、ユータロや、あれは秋葉原で見た空間結界じゃないかねぇ‥‥」
「それって、話に聞いていた、空間を分離するっていう結界? なんでそれが見えているの?」
窓の外には、虹色に光る空。
その下には、虹色の壁がずーっと続いている。
距離にして500mほどを、丸くぐるりと取り囲むように広がっている。
そして新山さんが慌ててテレビをつけると、臨時ニュースが流れていた。
『先ほど、札幌大通公園を中心に突然虹色に光る壁が出現しました。その壁によって、中と外が出入りできなくなり、警察当局では対応を急いでいます。繰り返し臨時ニュースをお送りします‥‥』
札幌テレビ塔を中心とした、直径3kmの空間結界が発生して、外界と中を遮断したらしい。
しかも今回は、外から見ても視認できるらしく、テレビでもあちこちの番組が緊急特番を流していた。
「いったい、何が起こったんだ‥‥」
「判らない。けど、嫌な予感がするから、瀬川先輩と新山さんは俺の部屋から出ないで、防具も身に着けて身を守ることに専念してください」
そう指示を出したとき、要先生が鼻歌交じりで戻ってきた。
「ふんふんふーーん。あれ、みんな真面目な顔で何かあったの?」
そう告げるや否や、要先生のスマホにも連絡が入ったらしい。
そのやり取りの中、サーっと顔を青くして要先生は部屋から飛び出していった。
「私は本部に戻るから、みんなは危険なことはしないように、部屋から出ない、いいわね!!」
――バタン
「さて、兎にも角にも情報が必要だから‥‥ゴーグル・ゴー。戦え大戦隊!!」
すぐさま俺たちはフル装備を身に着けて、今の状況を把握することにしたのだが、ゴーグルに表示された結果は、見るも無惨で、そして残酷な結果だった。
「空間結界じゃない……空間隔離結界壁? 破壊耐性? はあ?」
恐らくは妖魔が張り巡らせたのであろう、実に強固な対物理結界。
鑑定したレベルでは、現代兵器による破壊は不可能であろう。
さて、これからどうすることか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




