第597話・蛙鳴蟬噪? 禍福門なし唯人の招く所((レムリアーナ冒険譚・その6)
――キンガギンキンキンッ
新山さんと偽新山さんの剣戟の音がダイニング中に響く。
とはいえ、これだけ大きな音を立てても周囲の客は微動だにしない。
ちらりと天啓眼で見た感じだと、【タイムストップ状態】という表示が出ているんだけれど。
まあ、多分エスパー乙葉の能力で時間が止められているんだろうなぁ。
――シュシュンッ
そんなことを考えている間にも、エスパー乙葉の手にした銃から放たれる弾丸を弾き飛ばしているんだが、どうやら痺れを切らしたらしく、左手で円筒状の柄のようなものを握り締めると、そこから光の刀身を作り出した。
「うおう、スターウォーズの世界? これ以上は危険だから言えないけれどさ」
『……そのなんとかウォーズっていうものを俺は知らなくてね。これは俺自身のPSYスコアを実体化させたエネルギーソード。正式名称はプラズマブレイドっていうんだよ。冥土の土産に魂にでも刷り込んでおけって』
「断る。こんなな訳の分からない場所で死ぬなんて御免だからね……っと」
――ジッ、バヂッ、バヂヂヂチッ
流麗な動きでプラズマブレイドを操るエスパー乙葉に対して、おれは左手の【鉄幹道士】のサポートによる直線状の動きでフォトンセイバーを操り、奴の攻撃の全てを受け止めはじいていく。
その動作のさなかにブラスター銃で俺に向かって打ち込んでくるが、それは右手の【ヘルメス】さんによる『45式鏡の盾ってやつで弾き飛ばしてくれる。
ほんと、一人じゃなく三人体制での攻撃でごめんねぇ。
「ぐっ、くそっ、どうして俺の攻撃が当たらないんだよっ」
俺の必死の連撃を躱しつつ、エスパー乙葉は近くのテーブルに飛び乗り、そこに座っている客の顔面目掛けて痛烈な蹴りを入れると、その反動で俺の頭上を越えてニンジャ新山と戦っているうちの聖女・小春ちゃんに向かって走り出した。
『お前も俺と同じなら、恋人を殺されたら如何なるかねぇ』
「え、うそ?」
エスパー乙葉とニンジャ新山による、前後からの同時攻撃。
だが、後ろから襲い掛かるエスパー乙葉の剣戟は一切無視して、前方のニンジャ新山の連撃を刀で受け止め弾き飛ばす。
『さようなら、どっかの新山さフベシッ!!』
――スパァァァァァァァン
そう呟いて新山さんに向かって背後から切りかかっていったエスパー乙葉の顔面に向かって、新山さんの背後に出現したミーディアの盾が全力でシールドバッシュを叩き込む。
まあ、邪悪なものに対してほぼ全自動で反応させることもできるって言っていたからさ、それほど心配はしていない。むしろ、ミーディアの盾を貫くだけの威力が、あのプラズマブレイドからは感じなかったから。
だから、びっくりはしたものの、こうなるっていう事は予想出来たので。
後は顔面を押さえてよろよろしているエスパー乙葉を拘束するだけ。
――シュンッ
素早くよろけているエスパー乙葉の後ろに駆け込むと、超高速で、ついでに無詠唱で拘束術式を展開する。まあ、仕掛けた俺は理解しているけれど、これって仕掛けられた対象は何が起きているのか全く分からないんだよね。
いきなり身動きが取れなくなるっていう事しか。
『ぐっ……き、貴様、何をしたっ、放せっ』
「いや、まあ、普通は話をすることもできないレべルの強度で拘束したんだが。なんというか、超能力者って、そういうのに抵抗があるのか? そしてそこのニンジャ新山さんや、チェックメイトだ。武器を捨てて投降すれば、このニセ乙葉の命は取らない。ということでどう?」
そうう足元でピクピクしている乙葉の肩口を踏み込みつつ、そう提案したんだが。
ニンジャ新山さんは両手を軽く上げて降参の意思を示すと、手にしたダガーを二つとも床に放り投げた。
そうそう、それでいいんだよ……って!!
――カッ!!
床に放り投げたダガーが落ちた刹那、まばゆい光が周囲を包み込んだ。
それと同時に鉄幹さんが反応したらしく、素早く聖女・小春ちゃんの真横に飛び込んで彼女を確保。
そして光が消滅したと思ったら……。
「……くっそ、逃げられたか」
「うん、そうみたい。それにほら」
新山さんが近くのテーブルを指さす。
するとそこでは、何事もなかったかのように食事を続けている人たちの姿が見える。
うん、時間停止能力は解除されたらしいし、床に投げ捨てたダガーも回収していったみたいだ。
それにしても、随分と派手でエロっぽい新山さんと、熱血ガチな俺だったわ……。
まあ、万が一という事もあるので目の前の新山さんを天啓眼で確認するが。
『ピッ……あなたの目の前に存在する新山小春は、あなたが過去に命を救った新山小春本人で間違いはありません。今のあなたのことを熱烈ラブラブで、それでいて』
「ストップ、すとぉぉぉぉぉぉぉぉっぷ。それ以上は良くない、駄目、個人のプライバシーだから」
『ピッ……あはん』
なんだよ、最後の反応は。
そして新山さんも俺の前でじっと俺を見て、そして真っ赤な顔でプイッとそっぽを向いたんだが。
「ん~と、俺が本物か鑑定した?」
「はい。まさかとは思うけれど、乙葉くんも?」
「まあ、ね。それ以上のことは見ていないから大丈夫だから」
そう告げると、お互い同時にホッと胸をなでおろす。
「そういえば、あの二人はどこに逃げたの?」
「それだ!! ちょいと待ってて」
急ぎ空間収納から宝楼嶺魔から受け取った石板を取り出そうとして、ふと手を止める。
(……どこかで狙っている可能性もあるか……このまま錬金術式を空間収納経由で、位相空間内部で展開……宝楼嶺魔の石板をコピーし、それを取り出すか)
ごそごそと懐に手を伸ばして何かを探すしぐさをしつつ、錬金術でコピーを作製。ちなみに接続した位相空間は、以前俺が作ったどこかの帝国図書館のある空間。
あそこだけは、俺が自由にできる場所なのでね。
――シュルッ
そしてコピーした石板を取り出して確認するが、すでに赤い光点は高速で俺たちの乗っている船から離れていく。まあ、斜め後方に移動して、そこで様子をうかがっているっていう感じだね。
そして石板を取り出した瞬間、気のせいか視線を感じたような気がする。
『気のせいか視線を感じた』でも『視線を感じたような気がする』でもない、本当にごくわずかの反応っていう事。
それがどこからなのかはわからなくてね。
目の前に座っている新山さんも、ちょうど届けられたジュースを手に取ってちょっとだけ眺めた後、楽しそうに飲み始めている。
「さて、とりあえず食事も終わったので、部屋に帰りますか。それで、そのあとはどうする?」
この『どうする?』は、一度、俺たちの世界に戻るかいっていうことだけど。
「一度戻ったとして、次も同じ場所に戻ってこれる可能性はどうなのでしょうね。時差の問題もあるから、ちょっと調べておきたいと思うんだけれど」
「時差……ねぇ。それも確かめてみたいから、一度戻ってみるっていうのはありだと思う。それと、次に同じ場所に戻れるか分からないから、目印になるものを置いておけばいいと思うんだけど」
「そうだね。それじゃあ、一度部屋に戻って……その前に、ちっょとお土産を買ってみてもいいかな?」
それも実験だねって問い掛けると、楽しそうに頷いている。
あ~、これが任務じゃなかったら、どんなに幸せな事か……って、いかんいかん、真面目にやらねば。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




