第594話・五里霧中? 鰯網で鯨捕るっていうほど甘くはない(レムリアーナ冒険譚・その4)
飛空艇グレスレーテッド号の船内を散策して判った事。
この飛空艇の内部構造は、地球の『豪華客船』とかなり酷似している。
客室だけでなく、オープンラウンジ、レストラン、スパリゾート、カジノといったエンターテイメント施設があったのは凄いと思うんだが。
問題は、その施設の大きさと飛空艇の船体の大きさが比例していないという事。
甲板上から内部へと向かう扉や階段の先すべてが、『空間拡張された船内』へと繋がっているという、とんでも飛空艇だという事が理解出来た。
そして、この手の飛空艇はそこそこに値段が張るものの、個人で購入出来ない訳ではないという事。
「はぁ……それにしても……スターウオーズの世界って、こんな感じなのか」
「そ、そうだね……あちこちから聞こえてくる言葉も、多分日本語じゃないよね。口の動きと発声がちぐはぐに感じるから。それに……鏡刻界の魔族で見慣れていたと思っていたけれど、異形の民っていうのかな、凄いよね」
ぴったりと俺にくっついて話し掛けて来る新山さん。
まあ、そう感じるのは別に不思議ではないと思う。
ぶっちゃけると、俺もとっとと客室に戻りたくなって来た。
そう思って、あまりキョロキョロしないで廊下を歩いていると、甲板上に出現した俺達を保護してくれた女性の一人がこっちに歩いて来るのが見える。
『ああ、こんなところにいたのか。隊長から連絡を受けて、必要なら案内をしてやって欲しいと頼まれたんだけれど……その様子だと、必要はなかったかな?』
「いえ、助かります。正直言って、俺たちの世界とは全く異なった種族の人たちがいるので、驚いていたところですよ」
『そうですよね。異邦人の方は、必ずそう話していますので。ちなみにですが、この世界で手には入れる事が出来るものは、持ち帰っていただいても問題はありません。ただ、夢の中で手に入れたものを現実世界に物質化出来ればの話ですけれど』
ほほう。
それは俺に対する挑戦と見た。
「ちなみにですけれど、こっちの世界で食物を摂取した場合、夢から帰れなくなるとかそういう事はあるのでしょうか?」
『えぇっと、黄泉戸喫とかいう風習ですね。それは問題ありませんよ。ただ、この世界で被った被害は、現実にも反映されるという事を忘れないでください』
「んんん?』それってつまり、元の世界には俺たちの体が存在しているっていう事?」
ちょっと、ここ重要。
以前俺がこっちの世界に来た徳は、肉体も精神も魂もまとめてレムリアーナにやって来たんだけれど。
今回は違うっていう事なのか?
『はい。現実世界では、二人は深い眠りに付き夢を見ている状態です。そしてこちらの世界に来たときは、アストラル体という疑似的な肉体を作り出し、そこに魂が転移していると思っていただいて結構です』
「深い眠りですか。それってつまり、ノンレム睡眠下でなくては、この幻想郷レムリアーナに来る事は出来ないという事でしょうか?」
普通、夢を見るっていうのはレム睡眠状態、つまり浅い眠りである事が大半である。
深い眠りを差すノンレム睡眠でも夢を見ることはあるが、それは思い出す事が出来ない場合が多い。
という事は……人は、無意識化の中で幻想郷レムリアーナに来る事がある、そしてその時の体験は思い出す事が出来ないっていう事で合っているのか。
こりゃあ、色々と対策をして来るべきだったなぁ。
俺の家自体には結界が施されているので、外敵が侵入するという事はほぼないと思う。
俺が魔術師になってから現在に至るまで、俺が施した結界を破られた事は一度もない……筈。
『ええ。そしてあなた達の眠りを察知して、あなた達を媒介に現実世界へと向かおうとする者も存在している事だけは伝えておきます。幻想世界の住民だけでなく、異形の魔物も……』
「異形、ですか?」
『ええ。ここは幻想世界。ゆえに、あなたたちの世界の法則性では考えられない存在も多く存在します。まあ、レムリアーナの記録については、そちらの世界の一つには存在しているとは思いますけれど』
「俺たちの世界の一つ? んんん? それってどういう意味ですか?」
『言葉通りですよ。では、案内を続けましょうか』
という事で、色々と引っ掛かるのはあったものの、俺と新山さんはこの女性のおかげで飛空艇内部をぐるりと観光する事が出来た。
そしてなんだかんだとラウンジで食事をとった後、ようやく自室に戻って一息入れる事が出来たんだが。
「……うん。これってそういう事だよなぁ」
部屋の隅、天井や床の角などが『綺麗に丸く』均されている。
つまり、室内には角がないように作られている。
これってつまり、あれだよな。
「……はぁ。さっきの女性の話って、つまりはそういう事なのですか?」
「多分、そういう事なんだろうなぁ。この世界を幾度も訪れて、記録として残した地球人。問題なのは、その人物が俺たちの界では『史実には存在していない』ということ」
「つまり、さっきの説明で考えると、私たちの地球と鏡刻界以外に、もう一つの平行世界が存在しているっていう事?」
「可能性はゼロじゃない。以前、俺と祐太郎が行った事のある、もう一つの滅び掛かった地球、あそこがその可能性もあるし、逆に俺達にはまだ知らされていない世界があるのかもしれない。でも、そんな面白世界については後回し、今はまず創世のオーブを手に入れる事が先決だな」
そう告げてから石板を引っ張り出して確認する。
相変わらず、創世のオーブの位置を示しているのであろう光点は進行方向を差しているのと、俺たちの光点は反応がないっていう事。
そして……ちょいと予想外な事がひとつ。
俺たちの真後ろ方向をうろうろと蠢いている『赤い光点』の反応が存在しているっていう事。
ちょいと距離については測り切れていないけれど、どう考えても俺達の味方っていう事はないよなぁ。
はぁ、こっちの世界でも問題発生かよ。




