第593話・奇々怪々、案ずるより産むがやすしきよし(レムリアーナ冒険譚・その2)
飛空艇グレスレーテッド号の船内、会議室のような部屋に案内された俺と新山さんは、最初にこの船の船長という方と話をする事になった。
なったんだけれど。
『ああ、初めましてといいたいところだが、やはりこの外観は君たち人間種にとっては摩訶不思議に見えるんだろうねぇ。私がこの飛空艇グレスレーテッド号の船長を務めるナ型2158号だ』
「初めまして。俺は乙葉浩介です」
「同じく、新山小春です。しばらくお世話になります」
丁寧に頭を下げる俺と新山さん。
でもさ、最初にあの軍人風女性にこの部屋に案内されて、そして船長が室内に入ってきたときには驚いたとしか言いようがない。
だってさ、船長のナ型2158号さんって、どこからどう見てもアンドロイドなんだよね。
ほら、あの超有名なハリウッドのSF映画、あれに登場する600万を越す宇宙言語を自在に操るアンドロイドみたいな外見でさ、それでいてカラーリングが見たリックワインレッド。しかもスタイリッシュな外見をしているものだから、『あれ、俺たち宇宙刑事機構に捕まった?』って錯覚するレベルだったからさ。
『ああ、そうしてくれて構わないよ。何分、異邦人については保護条約があるからね。まあ、流石に特等船室とはいかないまでも、そこそこの部屋は用意させてもらう。それでいいね?』
「はい、大変助かりますが……俺たち、何かしなくていいのですか?」
「何か? というと……ああ、いきなりこんな状況になってしまって、それでいて賓客待遇なので警戒しているのか。まあ、それについてはそうだね、この船が危機的状況になったら手を貸して欲しいとは思うけれど」
そう告げてから、俺たちに何が出来るのかという事を尋ねられた。
変形・変身はできるのか、超能力や異能力は使えるのか?
巨大化・縮小は?
異空間から生体兵器を召喚して装着できるのか?
勇者や大賢者といった、魔法的資質はあるのか?
ネット通販で商品を購入できるのか?
何というか、ほんと、この世界って様々な異世界から人々がやって来ているんだなって実感したわ。
だから、切り札的な部分である【ネット通販スキル】については伏せておいた上で、俺と新山さんは魔術師である事を説明した。
『なるほどねぇ。では、君たちは魔術師ということか』
「私はスクロールマジック専門ですけれど」
新山さんはそう告げた後、右手のルーンブレスレットから一本のスクロールを取り出して見せる。
それならばと、俺も右手を差し出したのち、手のひらに小さな炎を生み出して見せた。
すると、傍らで待機していた女性がすぐさま腰に下げている銃に手をかけたのたが、それをナ型2158号さんが右手を横に伸ばして制した。
『まあまあ、エレシュキガル、銃から手を離したまえ。彼の行動に悪意や敵意がないことは、君も理解しているであろう?』
「まあ、それはそうですが。種によっては、殺人や傷害を起こす事について敵意も何もなく本能で行う者が存在します。ですから、念には念をと思ったまでです、乙葉さん、無礼をお許しください」
「いえいえ、こちらも軽率でしたので。では、これで俺たちの能力についてはご理解いただけましたか?」
『ええ、結構です。では、部屋に案内しましょう。エレキシュガルさん、彼らに来賓用のパスポートを発行したのち、一等船室に案内してください。ツインルームのほうが安心できるでしょうから、そのように手配してください』
そうナ型2158号さんが告げると、俺たちはそのままエレキシュガルさんに案内されて部屋を出ていく。それにしても船長さんの名前って呼びずらいよね、ナ型船長さんって呼んでもいいのかなぁ。
「それでは改めまして。私はこの飛行艇グレスレーテッド号の保安責任者のエレキシュガルと申します。この名前は異世界の女神の名前から授かっていますが、特にそのような能力はありませんので」
「そうですか。よろしくお願いします」
「ありがとうございます、よろしくおねがいします」
そのまま別室に案内された後、俺達は銀色の金属プレートを手渡された。
そこにはこの世界の言語らしい文字で俺たちの名前と来賓を示すナンバーが刻み込まれている。
それと、どういう仕組み化わからないけれど、俺たちの顔写真のようなものがホログラムのようにうっすらと浮かび上がっている。
このテクノロジー、持ち帰りたいわぁ。
そんな事を考えている間に、あれよあれよと部屋まで案内されたんだけれど。
部屋は一室で、中には大きなリビングがあり、そこから左右に部屋が繋がっているらしい。
つまり寝室は二つ別々にあるということ。
「浴室とトイレについてはそちらに。それ以外にもこの下のフロアには大浴場がありますので、そちらを自由にお使いください。男性用女性用●△×用◆◆○○用の4種類はありますが、生活スタイル的に無理でしたら部屋に備え付けのものをお使いください」
「あ、はい、あとの二つについては今一つわからなかったのですが、そうします」
「ええ。種によっては、性別がない方も居れば12パターンに分類されている方もいらっしゃいますので。ここは幻想郷レムリアーナ、様々な世界の人たちが足を踏み入れる楽園ですから。では、後のことについては、室内に備え付けのステンドでご確認ください。わからないことがありましたら、同じようにステンドでインフォメーションへとご連絡いただければ」
とまあ、一通りの説明を受けた後、ようやく俺と新山さんは二人っきりになった。
という事で、そのまま二人とも向かい合わせのソファーに腰を落として、ようやくドゥ・リラックス状態。
「ふぁぁぁぁぁぁぁ、なんていうか、映画の中の世界だよね、これって。乙葉君って、いつも異世界に行ったり来たりして、こんな快適環境を楽しんでいたの?」
「いやいや、ここまでSFな環境に来たのは初めてだよ。以前。幻想郷レムリアーナに来た時だって、ここまで飛んでも世界だった事はないからさ。ほんと、この世界っていろんな環境や文化が混ざり合っているんだなぁってつくづく思ったよ。という事で」
周囲に人の視線がない事を確認した後、空間収納から宝楼嶺魔さんから受け取った石板を取り出してテーブルに置いてみる。
あ、隠しカメラを探すとかそういうのは、もうとっくにあきらめているから。
そもそも魔法でそういうのを探すのも難しい……というか、俺は専門ではない。
サーチ・カメラとかロケイト・シークレットレンズとか、そんな感じの魔法でもあれば隠された監視カメラを探すことだってできるんだろうけれどさ、そういう魔術は覚えていないのと、作るにしてもこの世界のテクノロジーが不明瞭過ぎて何が何やら。
そして石板を見てみると、レーダーのようにいくつもの丸い輪が映し出されていて、さらに全部で三つの光点が輝いている。
あ~、石板がアクティブセンサー化したのかぁ。
「うーん。乙葉くん、この石板のこの光点って創世のオーブを示しているのかなぁ」
「おそらくね。この中心部分の赤と青の光点が俺達で、この最外縁部の白いのが創世のオーブであっているんじゃないかなぁ」
「でも、近づいているのか離れているのかわからないよね。距離が判らないから」
「そこだよなぁ」
俺たちは敢えて単語そのものではなく『あれ』と呼んでみる。
だけってさ、壁に耳あり障子に目ありっていうじゃない。
そして外縁部の光が創世のオーブを示していたらしく、俺たちが『あれ』って呼ぶ度にピーンって輝いているんだよ。
「でも、なんとなくだけれど近寄っているようには感じるんだよ。ほら、石板に手を載せるとそんな気がしない?」
「ふぅん、そうなの?」
俺と新山さんが石板に手を添える。
すると、確かに距離が少しずつ縮まっていくような感覚がある。
となると、この飛行艇の目的地に創世のオーブがあるっていう可能性は否定出来ないし、きっとあるに違いない。
さて、それじゃあ今しばらくは、この飛行艇での旅を満喫する事にしますかねぇ。
いや、いきなり魔法の箒を取り出してさ、それにのってびゅーんって飛んでいくのもありだけれど、それってどう考えても怪しいじゃない。
だから、最低でも二日ぐらいはこの飛行艇を堪能しようっていう事。
決して好奇心でそう言っているのでは……ああそうだよ、このSFチックな環境を楽しみたいんだよ。
そうとわかれば、一休みして船内探索でも始めますかねぇ。
これで飛行艇じゃなく海上を進む豪華客船だったらさ、突然、氷山激突して……なんていう事故が発生していたかもね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




