第592話・磨揉遷革、習うより慣れる方が楽?(レムリアーナ冒険譚・その1)
「……はぁ」
「……ふう」
まず、今現在、俺達に何が起こっているのか説明しよう。
例の打ち合わせの後、俺と新山さんはいつものように大学生活を満喫した後、無事に週末を迎える事が出来まして。
その週末の金曜日、例の打ち合わせ通りに新山さんは内に泊まりに来ただが、予め事情を説明しておいたうちの母親の温かい視線に晒されつつも、無事に2人で一夜を共にしました。
客間に布団を並べて、手を繋いだ状態で。
え、男と女、好き同士ならやることがあるだろうって?
ふざけるなよ、も、もしもそんな事になった後、つまり事後直後に全裸で異世界になんて行こうものなら、どうなるか分かったものじゃないからな。
それにだよ、そういうのは一通りの問題が解決してからって二人で話し合って決めたんだから、いいね?
え?
今回の事件が無事に終わっても、また何かしら巻き込まれるに決まっているって?
うっさいなぁ、自分自身、巻き込まれた異質だっていうのは理解しているわ。
「……お、乙葉くん、そろそろ戻って来た?」
「あ、ああ、今回の長考モードは一ミリ秒で終わったから大丈夫。それよりも、ここって船の上だよな? それも帆船の上だよな?」
「そ、そうみたいだよね。それも甲板上で、周りには大勢の人たちがいて」
「その服装から察するに、中世ファンタジーというか、鏡刻界テイスト満載で、貴族のような人達だけでなく、角を生やした魔族っぽい人とか、狼顔の獣人とかもいるよねぇ……」
という事で説明しよう。
俺たちはなぜか、船の甲板の上に立っています。
ああ、しっかりと手を繋いで熟睡した結果、ふと気が付くと二人ともここに立っていたんだよ。
ちなみに二人とも服装はパジャマ姿で、あきらかに空間転移したっていうのが理解できる状況だったわ。
そして俺と新山さんがいきなり出現したらしく、周囲では俺達を見て何やら話をしている模様。ああ、こういう時の【自動翻訳スキル】って、ほんと便利だよねぇ。
何を話しているのかしっかりと聞き取る事が出来たし、俺にも判る言葉として脳裡に届いているんだからさ。
そしてそんな喧騒に包まれている最中、軍服のようなものを身に付けた女性が3人程、雑踏を掻きわけてこちらにやって来た。
「ああ、君達が報告にあった異邦人だね? ここに突然出現したっていう事は、異世界からの来訪者という事で間違いないんだね?」
「おおっと、言葉が通じていますし、何よりも俺たちの状況を汲み取ってくれるのはありがたいです。俺達は、地球という所からやって来ました」
「この世界は幻想郷レムリアーナで間違いはありませんか?」
そう俺たちが問い掛けると、軍服を着た女性の一人が頭に装着しているインカムのようなもので何か話を始めていた。
そして真正面で話し掛けて来た女性が、困ったような顔をしているのが判ったんだけれど、俺達は何か難しい事を尋ねてしまったのかねぇ。
「まず、そちらの女性の質問についての返答するとしよう。ここは幻想郷レムリアーナに存在する大陸国家の一つでアルバスレットという。今、君達が乗っているのは飛空艇グレスレーテッド号、いくつも存在する大陸国家を繋ぐ商用飛空艇で、現在はシャルタン空海の中程を飛行している真最中だ」
ふむふむ。
急ぎ空間収納からメモ帳とボールペンを取り出し、一期一句間違えないようにメモを取る。こういうのって、記録しておかないと後から面倒臭い事になるからねぇ。
「そして君の説明についてなんだが。地球とひとえに告げられても、どこの地球からやってきたのかわからなくてね。せめて所属神域だけでも教えてくれると助かるんだけれど」
「え? それってどういう意味ですか?」
「ああ、やっぱりそういう反応になるのか。それじゃあ、簡単に説明しようか。実は、幻想郷レムリアーナに繋がっている【地球】という世界はいくつも存在していてね。その地球を作り出した創造神の領域、つまり所属神域が判らない事には、君達がどこの地球からやって来たのか判断に困るのだよ。という事で、君達の世界の創造神の名前を教えてくれないか……といっても、世界を統べる世界神ではなく、神域を統べる創造神の名前はと問われても判らないか」
い、いや、ちょっと待って、それってつまり、地球っていうのは幾つも存在しているっていうこと?
そう問い掛けようとしたけれど、よく考えてみたら、以前、俺と祐太郎は災禍の暁を追いかけていた時、別の地球にたどりついた事があったんだよなぁ。
魔導科学の進んでいる、魔族に支配された地球。
そう考えてみると、地球が複数存在していてもおかしくはないのか。
以前、ここで破壊神と話をした時も、俺が過去に行った行動について歴史を改変できるっていう話が合ったけれど、あれも【改変した未来の地球】ってうものが生み出されている可能性も否定できないからなぁ。
世界のつくりとか、平行世界のルールとか、過去を改変した結果の未来とか。
それが本当に【元の世界を修復したもの】【元の世界が改変されたもの】であるっていう証拠はない。
ぶっちゃけると、一度だけ、今の俺達の世界についても考えた事だってある。
俺が時間を巻き戻した事により、【時間が巻き戻った平行世界】として新たに作り出された可能性だって否定出来ない。
そう考えると、ものすごく怖くなって眠れなくなった事があるんだよ。
まあ、どのみち今の世界は俺が時間を巻き戻した世界で、本来あるべき時間を取り戻したんだって割り切った時から、そんな疑問は吹っ飛んでいったんだけれどさ。
「ふむ。君が新山小春で、ボーイフレンドが乙葉浩介……と、それで、君のボーイフレンドは、いつ、この思考タイムから戻ってくるんだい?」
「あ、そろそろだと思います。ねぇ乙葉くん、そろそろ大丈夫?」
「あ、ああ。今度は0.005秒ぐらいだったよね?」
「いや、2分ほどだが。まあ、君が何か考えている最中に、君達の名前や職業についてはガールフレンドから聞かせてもらったので大丈夫。さて、それで君たちは、この世界に何をしにやって来たきのかね? ここは幻想郷レムリアーナ、夢の中に存在し、夢を通じて行き来することができる【実在する夢の世界】だが」
俺達の目的か。
それを告げてよいのかどうか、今一つ判断に困っている。
この人たちが俺たちの味方であるのかどうか、協力者となってくれるのかどうか、まだ結論できる判断要素が乏しい。
「そうですね。とある目的を持って、自らの意思でここにやって来たという事はお伝え出来ます。ですが、まだ何が目的なのかという事については、お答えする事が出来ません」
「うん、よく異邦人が告げる言葉だね。では、それも踏まえて、我々は君達を歓迎しよう。といっても、異邦人の保護については、国際上の条約で定められているからね」
「国際法……ですか。予想以上に、この世界は法治国家のようにしっかりとた規則やルールで守られているのですね?」
新山さんの問い掛けには、目の前の女性もきょとんとしている。
まあ、俺の知っている幻想郷レムリアーナの町っていうのは、ちょっと複雑怪奇な文明を持っていたからねぇ。それを新山さん達にも説明した事があるので、そのギャップに驚いているのだろう。
「ああ、アルバスレットの所属するシャルタン空海国家連合は、それなりにしっかりとした規約や条約によって運営されているからねぇ。まあ、その辺りについても、色々と君達は学ぶ必要がある。まずは、君達の身分を証明するものを用意する必要があるので、一度船内に来てもらえるかね?」
「そういうことでしたら。では、よろしくお願いします」
という事で、俺と新山さんは一度、この女性に案内されて船内へと向かう事となった。
ほんと、こういうのって何度やっても慣れる事がないわぁ。
まあ、新山さんがやや不安そうな顔をしているので手を繋いで笑って見せるぐらいはするけれどさ。
これからどうなることやら。




