第590話・紆余曲折、遼東の豕は避けないとねぇ(家宝は寝て待……っている場合じゃないよなぁ)
虚無のゼロが封印書庫に向かってから、一日が経過している。
その間、俺達は魔人王・銀狼嵐鬼さんに新たな十二魔将として紹介てされたり、例のベランダでのお披露目に引っ張り出されたりともう大変。
そののち宴会場に引っ張り込まれた挙句、飲めや歌えの大宴会に突入。
白桃姫と銀狼嵐鬼さんに助けてもらって難を逃れた後は、宛がわれた自室でのんびりと就寝。
ちなみに個室だからね、いきなり幻想郷に向かおうとしていないからね。
そもそも虚無のゼロからの報告を聞かない事には、先に進むのなんて難しいのだから。
これが異世界転生系のラノベだったら、もっと行動していた方がいいのかもしれないけれどさ、法治国家・日本でどうやって情報収集しろと? 俺達は国王からの信頼を得て天下御免のライセンスを受け取っている訳でもない。ただの日本人で大学生と社会人という事でおっけ?
「……なあ、乙葉や。朝食を取りながら何か考えるのはよろしくないと妾は思うぞ?」
「いや、ちょいと昨晩のことを思い出していただけでね。さて。そろそろ腹八分目なのでこれにて失礼。えぇっと、今日のこの後の予定ってどうだっけ?」
「十二魔将としての仕事はないので、この後は玉座の間にでも行っているといい。ティーセットは用意させておくので、虚無のゼロが出てくるのを待っていた方がいいだろう」
「そういう事ですか。では、お先にそうさせてもらいます」
一緒のテーブルで食事をとっていた銀狼嵐鬼さんに一礼して、俺は先に玉座の間へ。新山さんはまだ食事中だったので、先輩と後から一緒にくるようだからさ、先にいってのんびりしていようと思うんだ。
………
……
…
――帝城・玉座の間
まあ、俺ちゃんってさ、一級フラグ建築士のライセンスでも持っているのかねぇ。
「……はぁ。そんな予感はしていましたけれど」
『ため息とはまた。確か、裏地球では、ため息をつくと幸せが逃げという言い伝えがあると、白桃姫から伺っているが?』
玉座の間に設置されていた円卓。
俺が到着した時点で、既に虚無のゼロがのんびりとティータイムを楽しんでいる所でした。
「虚無のゼロさん、いつごろ戻って来たのですか?」
『先程だな。色々と報告をしたいところだが、今はまだみなも朝餉を取っているところだろうから、ここで待たせてもらっている。君はもう取ってきたのかね?』
「ええ、朝から詰めすぎは良くないので。それじゃあ、俺はここでみんなを待つことにしますよ」
『それがいいだろう。こちらとしても、何度も報告をするのはよろしくないからな』
そのまま、何も会話することなく沈黙が続く。
俺としても色々と聞きたいことが山のようにあるんだけれど、それを今聞く訳にはいかない。というか、先程虚無のゼロもそう話していたからさ。
ただ、この沈黙に耐えられないというのが本音。
だってさ、虚無のゼロは一口紅茶を口に運んだら、それをテーブルに戻して目を閉じて黙っている。
これを定期的に行っているんだけれど、それがなんというか、機械仕掛けの人形のように正確無比で、怖いんだけれど。
――ガチャッ
「ああ、虚無のゼロ、戻っていたのか。それで乙葉君とは何か話していたのか?」
『いや、特に。私は紅茶を楽しんでいただけだ』
「そうかそうか。さて、それじゃあ関係者のみんなが集まったという事で、報告を聞きたい。中でどんな話が聞けた? 勤勉のスターリングは、何を知っていた?」
先輩や新山さん、白桃姫が席に着いたところで銀狼嵐鬼さんが早速話を切り出してくれた。そう、それがずっと聞きたかったんだよ。
『そうさなぁ。伯狼雹鬼は、ただ魔神ダークさまの言葉を忠実に守っていた、それだけだ』
「……すまん、あまりにもあっさりとしていてよくわからん。もう少し、かいつまんで説明してくれないか?」
『そうだな。では、勤勉のスターリングから聞いた話を説明しよう。私もこの話を聞くまでは、伯狼雹鬼が魔族を敵に回しているとしか考えていなかったからな』
そうして、虚無のゼロさんが話をしてくれました。
全ては、魔神ダークが破壊神の残滓に捕らわれたところから。
そもそも魔神ダークは絶対悪ではない。
この世界にはそれらの『絶対悪』を象徴する神々は存在していないらしく、バランスの取れた状態であったらしい。
それが破壊神の残滓に魔神ダークが囚われたことにより、魔神ダークは絶対悪として君臨するようになる。
そして眷属たちを引き連れて神々との戦いに突入。
全ては、破壊神が魔神ダークの中に封じられた己の体の分身を取り戻す為。
魔神ダークの中に眠る破壊神の残滓、それを封じていたのは神々であったのだが、それが活性化し始めている事を伯狼雹鬼は『魔神ダークの精神体』から聞かされていた。
そして、それを取り除くために必要な力を得る必要があり、そのためにも創世のオーブは必要であったらしい。
だが、それは破壊神も同じ事。
この世界を根底からひっくり返すだけの力を持つ『創世のオーブ』、それを手に入れる事が出来ればあっさりと封印されている分体を取り戻す事が出来る。
だから、それを知った原初の魔族は創世のオーブを奪って逃げた。
それを分割し、決して破壊神の残滓に奪われないようにと。
原初の魔族の一人は、こことは異なる世界に分割された創世のオーブを持って逃げ、その地にて自ら創世のオーブを封印した。
そこは、破壊神の残滓も手が出せない場所だから。
ゆえに、破壊神の残滓は世界を混沌に陥れる為に、いくつもの手段を講じ始めた。
そして俺たちの知る歴史に繋がっていったという事らしい。
なぜ、伯狼雹鬼が遥かな過去に創世のオーブを手に入れようとしていたのかは不明。
ひょっとしたら、破壊神の残滓に対抗する手段でも見つけたのかもしれない。
ただ、それ以上のことは分からないが、伯狼雹鬼は常に『魔神ダークさまの為に』という思いで活動を続けていたという事。
『………以上だ。それほど新しい情報はない、そしてある程度の予測が正しかったという事だけだ。そしてスターリング曰く、伯狼雹鬼は世界を元に戻すために創世のオーブを欲しているということ。それも、魔神ダークさまに破壊神の残滓が憑りつくより過去に時間を戻す事、そしてその散りゆく前の破壊神の残滓を滅ぼす為』
言葉を失うというのは、こういう事なのだろう。
予測はほぼ正解、その上で伯狼雹鬼の目的も知った。
こうなると、俺たちの出来る事は……。
「やはり、俺達が創世のオーブを手に入れるしか方法がないっていう事か」
『もしも伯狼雹鬼が創世のオーブを集めてしまった場合。最悪は過去の書き換えが発生するとスターリングは話していた。そして……この世界は、二度の『書き換え』には耐えられないかもしれぬとも』
「それって……つまりは」
『歴史が歪み、それを修復するための反作用が生じる。破壊神の残滓ではなく、もっと別の存在が、この世界を破壊する為に降臨する可能性があると』
「ということは、やっぱり俺達がどうにかするしかないっていう事か」
そう俺が告げると、虚無のゼロは静かに頷いている。
『創世のオーブを君達が手に入れた場合。封印大陸の神々は、破壊神の残滓によって滅ぼされた他の神々の復活を行う。その際には魔神ダークさまも再生してくれるだろう。だから、その事を伯狼雹鬼に伝える事が出来れば、創世のオーブを渡してくれる可能性はある……ただし、それは彼の命を奪う事にも繋がる』
「つまり、大隅純也の命も……という事ですか?」
『融合率にもよる。としか言えぬ』
「それじゃあ、やる事は分かったので、後は時間との勝負という事かしら」
俺達の目標は、とっとと『井戸の向こうの世界のオーブ』と『幻想郷のオーブ』を取ってくること。
やる事は変わらないけれど、目的と目標が完全に一致した。
その証拠に、宝楼嶺魔から受け取った石板の文字がすべて消え、そこに三つのくぼみが姿を現したから。
『ほう。これは宝楼嶺魔から受け取ったものか。なるほど、道標の石碑とはまた、奴もまたこの事を知っていたという事か』
「え、そうなの?」
と驚いてみたものの、宝楼嶺魔は全てを知っている。
だからこそ、試練を与えて人々を導いていたんだろうなぁ。
「それじゃあ、まずは地球に戻りましょう。そして協力者を募ったのち、手分けして創世のオーブを取り戻す。さすがに大隅純也についても、一人の人間として救ってあげる必要があるという事でよろしいかしら?」
先輩がそう纏めてくれたので、俺たちは頷く。
それじゃあ、とっとと戻って活動開始といきましょうか。
早いところ封印大陸を安定化させないと、待っている人達だっているんだからね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




