第584話・虎視眈々、歩く足には棒当たる(情報の大安売りと、知りたくなかった真実)
いや、予想の斜め上なんだけれど。
探していた創世のオーブ、その一つがまさか伯狼雹鬼の疑似魔人核として組み込まれているだなんて。一体誰が予想出来るんだよ。
こりゃあ、残りのオーブを一刻早く探し出して、とっとと回収した方がいいんじゃないか?
「はぁ。これまた面倒臭い事になっとるのぅ。まあ、創世のオーブについてじゃが、妾たちは残りの二つを探していると問うと、何か答えが出て来るかや?」
『残り二つねぇ。伯狼雹鬼の話が真実なら、一つは井戸の向こうの異世界っていう事よん。でも、あの地は私たちの住む二つの世界とは異なる禁則地らしく、一度でも踏み入った事がある者は向かう事が出来ないっていう話じゃない? まあ、別のルートから行けるのなら大丈夫らしいけれど』
「禁則地のう。して、そこはいずこの世界なのじゃ?」
そう白桃姫が問いかけると、プシ・キャットからはまさかの答えが返ってきた。
『この世界よぉ。といっても、確か創造神の力で分割されてしまった、【可能性の未来の一つ】っていう話よん。だから、こっちの世界の者が向こうの世界に行く事が出来るのは一度きり。それも、あっちの世界の未来を変更しない事っていう最低条件があるのよん』
「それはつまり、向こうの世界で何もするなということなのか?」
『さぁ? それについては詳しく教えてくれなかったわ。ただ、案内人には決して逆らう事は出来ないって……それと、私とライザーは、近々そこに向かう予定だったのよ。創世のオーブを探しにね』
「はぁ。何とも面倒臭い事になっとるのう。そうなると、妾達も行って探す必要があるという事か」
まったくその通りなんだけれど、問題は誰が行くのかっていう事。
そう思っていると、瀬川先輩が深淵の書庫の中で小さく手を挙げている。
「もしも行くのでしたら、いくつかのチームに分けた方がいいですわね」
「んんん、みんなで行って一気に探したほうが早くない?」
「乙葉くんの意見も正しいですけれど、ここはもう少し慎重に考えたほうがいいですわ。チーム分けする理由はわかりますよね?」
「それは、万が一に探索が失敗した場合でも、情報を持ち帰る事が出来れば再度別のチームが挑戦出来るっていう事ですよね?」
「そうね、新山さんのいう通り。確かに一度で調べ切る事が出来るのならそれに越した事はないわ。でも、恐らくは制限時間もあるとも思いますし、そもそもその世界のことを私達は何も知らない。そんな状況で『見も知らぬ異世界』を『ノーヒント』で、『制限時間内』に回収して来れるとは思えないのです」
ふむふむ。
そう考えると、確かにその通りだよな。
ついでに予測すると、伯狼雹鬼と黒狼焔鬼、そして銀狼嵐鬼の三人が何らかの理由であっちの世界に行った事があるというのも気になっている。
時期的に考えると、まだ豊平神社ができる前……つまり、俺の記憶が確かならば1871年(明治4年)よりも前。あ、このあたりは神社で配布されているパンフレットに載っていたのを思い出しただけだからね。
「瀬川先輩。一度、鏡刻界に行って、銀狼嵐鬼さんに話を聞きたいのですが。少なくとも、伯狼雹鬼達があっちの世界へ向かったという事は記録に残っています。そして豊平神社がまだ出来る前の事でしょうから、少なくとも創世のオーブはまだ盗まれる前だと思います」
「そうね。深淵の書庫で調べたところ、豊平神社のあった辺りに人がやってきたのは1858年頃。そして神社ができたのが1871年だから、その間の13年間に何かあって、父さん達が異世界に行ったという事になるわ」
淡々と告げている先輩。
だが、今の話を聞いてプシ・キャットが首を傾げている。
『父さん? あなたひょっとして、三狼鬼の末裔なの?』
「末裔もなにも……ああ、雅や、手っ取り早く見せてやった方がよいぞ」
「はぁ。では、失礼して」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
素早く魔人王モードに変身する瀬川先輩。
まあ、神装白衣を身に纏っているのと、視覚的に外からカメラに収められない場所での変身なので先輩の正体が外に漏れることはない。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」」
あ、松永と織田は知らんかったのか、こりゃまた失敗。
というか、椅子に座っている4人組が嬉しそうになるやつあるだろ、確か『Reaction guys』っていうどこかのネットミーム。あんな感じに見えるのは気のせいじゃないよなぁ。
そしてガクブルしているプシ・キャットも、そろそろ落ち着いた方がいいと思うぞ。
『あ、ああ、あの、まさか先代魔人王さま?』
「ええ。ちなみに今代の魔人王は私の父、銀狼嵐鬼ですわ」
――ザッ
あ、プシ・キャットが平伏した。
『わ、わかりました、全てお話しますので殺さないでください』
「なんじゃ、まだなにか隠しておったのか」
『そりゃそうよぉ。いくら現代の魔術師とはいえ、相手が男性なら対処法はあると思っていたし、それに、伯狼雹鬼にも、ここまではばらしていいっていう情報を使ったのだから』
「それで……まあ目的は、創世のオーブについての事じゃろ。自分達では取りに行けないので、プシ・キャットが協力者として妾たちの前に現れて、異世界へと調査に赴く。そして発見した場合はそれを奪い取り、可能ならば妾たちを異世界に閉じ込める……違うかな?」
――パチン
その白桃姫の言葉に嬉しそうに指を鳴らすと、プシ・キャットがにっこりと。
『大正解よぉ。味方のふりをして近づいて、創世のオーブを回収させてこいって。あ、もしも白桃姫たちが創世のオーブについて知らなかったら、封印大陸についての情報も伝えていいっていわれているからん。それで封印大陸のある世界を修復するために、その地に住む神人を救うために力を貸してっていう話だけれど、そのあたりはもう知っているのねん?』
「当たり前じゃ、直接、武神ブライガーさまから依頼を受けたのじゃぞ? 創世のオーブを探してこい、魔神ダークの眷属であるプラグマティスの手に渡る前に……と、まさかとは思うが、プラグマティスの存在も感知しておるのか?」
その白桃姫の問いかけに、プシ・キャットがニィッと笑う。
『プラグマティスについては、伯狼雹鬼もその居場所はわからないって話していたわん。ただ、仲間に出来るのならそうしたいところだって事も話していたわ。でもそれは無理なのよ。だって、プラグマティスは封印から解放されたときには散り散りに散ってしまった……それも、かなり昔の話だけれど』
「ふむ。ということは、プラグマティスはもう存在していないと?」
『まっさかぁ。散ってしまったのは表面だけで、その核である本体は健在よん。ただ、私もどうしてあんなことをしているのはわからなかったわん』
「あんなこと……いやまて、ということはプシ・キャットはその存在を知っているのか?」
そう問いかけると、プシ・キャットが大きく口を開いたが。
――ジャキィィィィィィィィィィィィン
プシ・キャットの心臓あたり、そこから大量の鎖が飛び出して彼女の全身を拘束した。
それも、言葉を発せないように口元をがっちりと固定するように。
「魂の呪縛かや、ああ、安心せい、それ以上は語らずともよい、ということで呪縛の主人よ、彼女を解放してたもれ」
――シュルルルル
白桃姫の言葉でプシ・キャットを縛り上げていた鎖が消滅する。
そしてプシ・キャットもペッペッと唾を吐きつつ、首をゴキゴキと鳴らしていた。
『とまあ、この通りよん。正体を知った時に、魂が呪縛されてしまったのよん。私だけじゃないわ、ライザーも同じように縛られているわ』
「はぁ、これはまた面倒な。少なくともプラグマティスはどこかで創世のオーブを狙っているという事かや」
『そうねん。正体を言わなければ呪縛されないから大丈夫だけれど、そこにつながる問いには一切答えられないわ。ということで、そろそろ目的も達したので、支払いをお願いするわ』
ニイット笑いつつ両手を差し出してくるプシ・キャット。
まあ、この支払いの意味が『魔力玉』ということは理解しているので、俺と新山さん、瀬川先輩、そしてなぜか松永まで魔力玉を作り出している。
あれ、織田はまだ作れないのか?
「可哀想なものを見る目で、こっちを見んな。そもそも魔力が欠乏寸前で、外に回すだけの余力がないだけだからな、魔力玉を作れないわけじゃないからな?」
「わかっているって。ということなので、今日は4人分で」
『毎度あり……だわん。それじゃあ、またなにかあったらいつでも連絡してねん』
そう呟いて妖魔特区の天井めがけて飛んでいくと、そのままスッ、と結界の外に消えていった。
はぁ、新しい情報はありがたいが、答え合わせが必要になってくるレベルだよ、こりゃ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




