第577話・急転直下、一将功成りて万骨枯る(悪の血脈と、覚醒魔人)
豊平神社を後にして。
途中、菊水方面の喫茶店で楽しく食事を堪能した後、俺と新山さんは妖魔特区内ラティエ領へと向かいました。
移動中に新山さんが瀬川先輩に連絡を入れてくれたので、俺達が札幌テレビ城下に到着した頃には既に瀬川先輩と白桃姫、そして忍冬師範と要先生が神妙な面持ちで何やら話し合いの真っ最中。
「ああ、浩介と新山さんか。何か新しい情報でも手に入ったのか?」
「まあ、それなりの情報は手に入りましたけれど。その整合性を確かめたくて来たのですが……何かあったのですか?」
そう忍冬師範に問いかけると、渋い顔をして目頭を押さえた後、傍らに置いてあった鞄からいくつかの写真を取り出して広げてくれた。
うん、少年鑑別所のような場所が映っているんだけれど、その壁が溶解して崩れているんですよねぇ。
それに壁全体にも、何となく血で書いたようなシミが彼方此方に点在しているんだけど、これって何じゃらほい?
「今朝がただが。少年鑑別所に収監されていた大隅純也が脱走した。それも、術式中和結界で包まれた
単独室の壁全体に血で書き記された魔法陣が発見されてな、どうやらそれで結界を破壊して脱走したらしい」
「監視カメラの映像でも、特におかしいそぶりは一切映し出されていなかったのです。ところが今朝になって、起床時間に突然爆発音が響いたと思ったら、このような状況になっていたそうです」
「はぁ……ねぇ白桃姫さんや、この魔法陣ってどんなものか分かる? 俺の魔導書にも記されていないタイプなんだけれど」
忍冬師範と要先生の説明を聞いて、すぐに魔導書を空間収納から取り出して調べてみたんだけれどさ。残念なことに該当する魔法陣は掲載されていなかったんだよ。
となると、俺よりも魔術に詳しい白桃姫の出番なんだけれど。
「そうじゃなぁ……おそらくじゃが、この辺りの術式文様は鏡刻界式の上位魔法陣に酷似しておる。となると……血を使った爆破術式かや? しかし、そのタイプの魔術式の専門家となると……あまり考えたくはないのう」
「という事は、心当たりがあるっていう事だよな」
「うむ……黒狼焔鬼が用いた魔法陣の流れを汲んでおると考えられる。という事は、大隅純也とやらは、鏡刻界式の魔法陣を用いて結界を破壊したという事になるが」
いやいや、それってどうなのよと突っ込みを入れたくなったけれど。
「大隅純也の罪状についてですが、『支配のメダリオン』に残されていた魔力痕が彼のものと一致したという報告を有馬博士から受けたばかりなのです。それで、詳しい取り調べを行う必要があるということになった直後に、このような状況になってしまって」
「まあ、こうなることは想定していなかった訳ではないが……やはり大隅純也は半魔人血種であったという事か」
「え、それはどういう事で……」
白桃姫の説明に、忍冬師範と要先生が前のめりになっている。
ああ、ちなみにその件については、俺もよく知らないんだけれど。
「実は、大隅純也についての調査を私も深淵の書庫を使って独自に行っていました。こちらがその時の資料ですけれど……」
そう説明したのち、瀬川先輩が深淵の書庫をモニター状に展開し、これまで集めたらしい情報をわかりやすく表示してくれた。
それを見ている内に、だんだんと空気が重くなっていくのを俺は感じたよ。
「……つまり、ここに記されているものが全て正しければ、大隅純也は伯爵級魔族・伯狼雹鬼の血を受け継いでいるという可能性があるという事か。そして、何らかの理由で、突然、魔族としての血が覚醒し、脱走した……第6課に上げられている報告書の記述が正しいのなら、伯狼雹鬼という存在は今はもう消滅しているものの、その能力を受け継いでいるものがまた暗躍を開始した……か」
「加えると、大隅純也という肉の器を手に入れた伯狼雹鬼本人という可能性もある。何せ、妾たちの命の器でもある魔人核を破壊されても、その意識は残り続けるという可能性は実証されてしまったからのう」
忍冬師範の呟きに白桃姫が返答するのだけれど。
「え、待って白桃姫、それってつまり、俺たちが今まで討伐した魔族も、また復活する可能性があるっていう事?」
「条件さえ揃っていればな。ただ、それもかなり難しい。そもそもじゃ、魔皇らは『魔皇紋』という紋章に意識を映し、今でも存在しておるではないか。それは元魔人王である雅も理解しておるのじゃろ?」
「ええ。白桃姫さんのおっしゃる通りです。私の中に存在する魔皇の方も、白桃姫さんの言葉には頷いていますわ。私の魔人王としての力は父である銀狼嵐鬼に継承しましたけれど、『百鬼夜行』という能力といくつかの魔皇紋は残されています。それは乙葉君も同じですよね?」
ああ、言われてみれば確かに納得。
そうか、魔人核を失ったとしても何らかの代用出来るものがあるのなら、魔族は存在を無くならないって事だよなぁ。
「まあ、俺には『メギストス』さんと『鉄幹』さんが残っているからね。そういえば、新山さんにも残っているの?」
「はい。私にも一つ、四天王だった時にお力を貸してくれた魔皇さんが残っています。ただ、名前は出すなって言われていまして……ごめんなさい」
「俺と要巡査の魔皇紋は消滅したからなぁ。ちなみに白桃姫さんにも残っているっていう事か」
「うむ。妾のはとても希少じゃぞ」
「私はですね……元魔人王のディラックさんという方が付いていまして。はぁ」
ああっ、先輩がため息をついている。
ディラックっていう事はあれか、伯狼雹鬼とかの上司じゃねーのか?
それならいろいろと詳しい話も聞けるんじゃないのか?
「あの瀬川先輩? その魔皇ディラックから伯狼雹鬼の件について聞けるんじゃないですか?」
『ふん。聞くも何も、わしの知っている伯狼雹鬼はとっくに消滅しておるではないか。それに奴が『残魂転生』の秘儀を使っていたとしても、わしが消滅してどれだけの時間が経過していると思うのだ? この小娘の中に眠っていた時期は、わしは意識が休眠していたのだから外部の事など知らんわ!!』
いきなり深淵の書庫表面に人の顔が浮かび上がったかと思ったら、そんな事を叫んでいるんだけれど。
「あの……こちらが二代目魔人王の魔皇ディラックさんです。この方とあと数体ほど、私の護衛という方が残っていますけれど、今は休眠期だそうで」
「あ~、何というか、お疲れ様です先輩。それにしても、大隅純也は何がしたいのだろう」
「さあのう。とはいえ乙葉や、恋人をしっかりと守るのじゃぞ。大隅という輩がただのチンピラ魔術師であったのなら気にする必要はないが、こと伯狼雹鬼の縁故となると、ちょいと警戒しておいた方がいい。ということで、小春は今日から、乙葉の家に泊まるがよい」
「「はぁ?」」
なしてそうなる?
いや、俺としては嬉しいというか恥ずかしいというか。
でもさ、新山さんだって、いきなりそんな事を言われても困るだろうさ。
「ははは……だってさ、新山さん、どうする?」
「ちょっと考えさせて……いや、乙葉君のうちにお泊りするのが嫌っていう事じゃないのよ、お父さん達にどう説明したらいいかわからなくて……」
「それなら、うちはどうかしら? 何かあっても深淵の書庫で保護できるけれど?」
「ふむ。悪くはない。小春にはミーディアの楯もあるし、そこに深淵の書庫と雅の百鬼夜行もあれば、そんじょそこらの魔皇でも手は出せまい」
まあ、それならという事で、更に話し合いは続きまして。
最終的に決定したのが、『新山さんの家に、順番に泊まりにいって警護する』っていう事で話は収まった。
ほら、新山さんの家ってさ、行き場のない魔族の宿のようになっているから。
空いている部屋を使って、簡易的に警備室でも作ってみるかっていう事になったんだよ。
まあ、それと並行して、先輩には銀狼嵐鬼さんと連絡を取ってもらい、この前の豊平神社で入手した情報についての真偽を確かめてもらう事になった。
すぐには答えは返って来ないらしいけれど、それでも前には進めたのか……な?
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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




